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第五章
閑話 ~ 結婚の挨拶5 ~
しおりを挟む「ロード様はいつの間に人間を辞められたのでしょうか」
失礼しますと入ってきたオリバーさんは、気持ち悪さをリフレッシュさせてくれるような、柑橘系のお茶を手際良くいれてくれた。
お茶を飲んではぁ~とほっこりして息を吐いた時、オリバーさんは「ところで…」と前置きしてから冒頭の台詞を吐いたのである。
ぎょっとしてオリバーさんを見れば、にっこり微笑まれ何もかもお見通しという目で見つめられたのだ。
「こっちも聞きてぇんだがよぉ、お前はいつから魔族ではなく精霊になっちまったんだぁ?」
皮肉るようにオリバーさんを見るロードは、口元に笑みをたたえている。
「おやおや、やはりバレてしまいましたか」
慌てる様子もなくにっこり微笑むと、私を見てこう言ったのだ。
「ミヤビ様は、精霊ではございませんね」
と。
「何故、嘘を吐いておられるのですか?」
「ミヤビを守る為だ。それより、何でミヤビを尋問してやがる」
いつの間にか尋問される側に回っている私を庇うように、ロードが話を遮った。
「尋問などと、とんでもございません。私はただ疑問に思っただけにございます」
にっこり笑うオリバーさんは、掴み所がなく食わせものと言えばよいのだろうか…そんな印象を強く受ける人だった。
カタリ…とどこかで音がした気がしたが、気のせいかな。と思いそのままオリバーさんと話を続けようとしたのだか、ロードが急に立ち上がり扉を開けて外の様子を窺いだしたので首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや…」
何でもない。と、それにしては真剣な表情で言うので顔をしかめると、ロードが結界を張ったので、話が外に漏れないようにしたのか~と納得したのだ。
翌日、私達を見る使用人の目が、犯罪者を見るような目になっているとも知らずに。
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「っ奥様!! 大変です!!」
バタバタと慌てた様子でかけてきた侍女が、ロードの義兄のつがいである“アリアナ”に声を掛けてきたのだ。
その様子に驚いたアリアナではあったが、「何ですか。騒々しい」とその侍女をたしなめ、観察した。
確かこの侍女は、先程義弟ロードのつがいの世話役にと部屋にやったはずである。それが何故戻って来ているのか。
アリアナは柳眉をひそめ、侍女に話を促したのだ。
「わ、わたくし…っ先程奥様のお言いつけ通り、“ローディー”様のつがい様のお部屋にうかがったのです! そこで…とんでもないお話を聞いてしまってっ」
「とんでもないお話? 何ですかそれは…」
アリアナは数人の侍女を連れて部屋へ戻る所であった。その侍女達は皆、ロードとそのつがいに面識はなく、そんな者達の目と耳がある中で彼らの話をする事は言語道断なのだが、好奇心が勝ってしまったのか、そこで話を続けさせてしまったのだ。
「わたくしがお部屋にうかがった時、オリバー様のお声がしたのでお話が終わるまではと、扉の前で待機しようと思い…しかし扉が少し開いておりまして、聞こえてしまったのです。
オリバー様がローディー様とそのつがい様を追及されているお声が」
実際はその侍女が扉をそっと開いて盗み聞きしていたのだが、彼女はそれをさも偶然のように装いアリアナに報告したのだ。
「オリバー様は仰っておられました。ローディー様のつがい様が、嘘を吐いておられると。しかもその嘘は、この国…いえ、どこの国でも大罪となる程のものだったのです」
侍女の話に益々顔をしかめたアリアナは、先程挨拶したミヤビの事を思い出す。とてもそんな大罪を犯すような方ではなかったし、なにより彼女は精霊様なのだと、その時はまだ侍女の話を鵜呑みにはしていなかった。が、
「ローディー様のつがい様の嘘は…“ご自身が精霊であるかのように語った”事です」
「何ですって!?」
アリアナの周りに居た侍女達は口元を抑え、真っ青になっている。話を聞いた時に悲鳴を上げてしまいそうになったのかもしれない。
現にアリアナも、淑女にあるまじき大きな声を上げてしまったのだから。
「わたくしは、旦那様も大旦那様も騙されているのではと…っアリアナ様に急いでご報告した次第でございます!!」
この時侍女は頭の中で、よくやったと褒賞を貰えるのではないか。等と考えニヤニヤしていた。
もしかしたら、この家だけでなく騎士団からも表彰されるかもしれないと。
「急いで旦那様にこの事を知らせないとっ 貴女も一緒に来なさいっ」
「はいっ 奥様!!」
人の口に戸は立てられないというが、話を聞いていた侍女からあっという間に使用人に拡がってしまった噂は、翌日ミヤビ達に牙をむく事になるのだ。
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昨夜オリバーさんから話を聞きさっぱりしたはずが、どうも今日は使用人の私達を見る目が昨日よりもキツい気がするのだ。
「ロード、何だか私達あまり歓迎されてない気がする」
「あー…今日帰るんだから別に構わねぇだろ」
あっけらかんとしているロードだが、針のムシロのようなこの場所から早く抜け出したいと思うのは私だけなのだろうか。
「っとに、この家は使用人の教育がなってねぇな」
ボソッと呟くロードの声は聞こえなかったが、朝ごはんを食べたらさっさとお暇しようと心に決め、昨日の夜食事をとった場所へと向かうのであった。
ダイニングルームへ入ると、すでに家族は揃っており、挨拶すれば何となくぎこちない挨拶が返ってきたので首を傾げロードを見る。通常運転なのは義父母のみだ。
「俺らは朝飯食ったら帰るからな」
ぶっきらぼうにそう言って席に着くロードにならい、私も座れば、お義兄さんが何か言いたそうに私達を見てくる。
義父母はもう帰るのかと残念そうに話し掛けてくるが、お義姉さんは困ったような顔をして喋らない。
「お義兄さんが何か言いたそうにしてるけど…」
ロードにこっそり言えば、大したことないだろうし放っておきゃその内話し掛けてくるだろと言われ頷くしかなかった。
変な空気の中、出てきた朝御飯はコーンスープらしきものとパンで、これなら何とか食べられそうだとスプーンで掬った時、スープの中に小指の先程の黒い何かが見えて固まる。
それをじっと見ると、どうやらハエのような虫である事に気付いたのだ。
虫料理だと顔が引きつった時、ロードが一口もスープを口にせずスプーンを乱暴に置いたのだ。
「ミヤビ、帰るぞ」
ロードは虫料理に抵抗はないはずだが、何故か怒り心頭といった様子で立ち上がる。
慌てて立ち上がると、呆気にとられていたお義兄さんを睨み冷たく吐き捨てるように言い放ったのだ。
「使用人の躾ぐらいしておけ」
私を抱き上げ、ダイニングルームを出ていこうとするロードに、義父母も義兄夫婦も何があったのかと混乱している。
すると隅に控えていたヴィヴィアンさんが、ハッとした様子で私達に出されたスープを確認しに行くと、
「っ何ということを…!!」
叫び、ロードと同じように怒りに震えた顔で義父母へ耳打ちしたのだ。
ロードは後ろも見ずスタスタと足を進める。その顔はもう二度とここへは来ないといった表情に見えた。
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