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妖狐族の奇病

第436話、妖狐の来客

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 カエデが村に来てそこそこ経過した。
 来客という立場は崩さず、態度も他人行儀な感じ。初めて会ったときはぐすぐす泣いていたけど、今ではどこかのお姫様みたいにしっかりしている。
 礼儀やマナーもしっかりしているし、雰囲気もおしとやかで落ち着いている。
 ただ、食事になると子供っぽい。村で食べる食事やデザートが気に入ってるのか、クララベルの作るケーキが特に大好物みたいだ。
 それと、意外にもカーフィーに興味を示した。
 苦いままでは飲めないので砂糖とミルクを入れて飲み、ケーキと一緒に飲むときだけミルクを入れて飲む。
 今日は、薬院で俺と一緒にカーフィーを飲んでいた。カエデの隣には、マンドレイクとアルラウネが座っている。

「このカーフィーにもだいぶ慣れたのじゃ。それと、この甘クリもすごくおいしい……緑龍の村は素晴らしいのじゃ」
「そっか。じゃあ、遠慮しないでじゃんじゃん食べてくれ。甘クリ、セントウコンポート、クララベルが作ったクッキー……おやつはまだまだいっぱいあるぞ」
「まんどれーいく」
「あるらうねー」

 マンドレイクとアルラウネはクッキーをもぐもぐ食べている。
 カエデも甘クリをつまみ、口の中に入れて咀嚼した。

「はぁ……甘い」
「だろ? 俺もけっこう好きなんだ」
 
 甘クリ。
 クリを甘く煮詰めると日持ちするし、おやつにもってこいなんだ。
 しばし、四人でお茶を楽しんでいると。

『───失礼します。ご主人様、よろしいでしょうか』
「あ、はーい」

 ドアがノックされ、シルメリアさんの声が。
 返事をすると、シルメリアさんが中へ。
 俺に一礼し、要件を話した。

「ディミトリ様がいらっしゃいました。ご主人様に用があると」
「わかった。こっちに通してくれ。たぶん、カエデのことだろう」
「かしこまりました」

 シルメリアさんが退室し、一分ほどでディミトリが来た。
 俺とカエデに一礼し、俺はソファを勧めた。
 シルメリアさんが紅茶を出し、ディミトリは一口飲む……この間、俺とカエデは黙っていた。
 ディミトリはカップを置くと、さっそく話を始める。

「妖狐族の方と連絡が取れました。カエデ様のことを話したら驚かれていましたネェ」
「そうか……それで、どうだ? カエデは帰れるのか?」
「はい。実は、ワタクシの店でお待ちいただいています。まずはワタクシがアシュト様にお話をして、村に入る許可を頂いてからということで」
「ああ、なるほどね。わかった、じゃあ連れてきてくれ」
「かしこまりました───では」

 ディミトリはパチンと指を鳴らす。すると、部屋の床に魔法陣が描かれ、淡い紫色に発光する。

「これは……転移魔法じゃな。闇悪魔族は闇魔法と空間魔法に優れていると聞いたが、さすがじゃな」

 カエデも驚いていた。
 すると、魔法陣の中心に一人の男性が出現した。
 
「───姫様」
「そなたは……ホウコツか?」
「おお、やはり姫様……本国で行方不明になったと聞いていましたが、まさか緑龍の村におられるとは!!」

 ホウコツと呼ばれた男性は、その場で跪いて頭を下げる。
 カエデと同じ白い髪、尻尾は五本あり、着ている服もカエデと似た伝統風の衣装だった。
 カエデは、ホウコツさんに言う。

「面を上げよ。ホウコツ、さっそくで悪いのじゃが……わらわは国へ帰らねば。転移魔法の失敗で辺境の森に飛ばされ、このアシュト殿に救われたのじゃ。父上と母上に会わねばならん」
「ははっ!! それでは、本国までは私がご案内します」
「うむ。よしなに頼むぞ」

 えーっと……なんかカエデがお姫様すぎて付いていけん。
 俺はとりあえず静かにカーフィーを啜る。

「アシュト殿。今まで世話になった。この礼は後日必ず」
「ぶっ!? え、もう帰んのか!?」

 カエデはソファから降り、ホウコツさんと一緒に行くようだ。
 というか、いきなりすぎる。
 みんなと別れの挨拶もしていない。

「すまぬ。早く本国に戻り、父上と母上を安心させねば。この村での生活やアシュト殿に命を救われたことは、全て隠さず報告する。後日必ず礼に参ろう」
「お、おお……」

 確かに、急いで帰ってやらないとな。
 悠長に別れの挨拶なんてしてる場合じゃないな。

「あ、護衛とか……大丈夫か?」
「うむ。妖狐族は隠れ里に住んでおる。オーベルシュタインでも見つけられるのは『豆狸族』くらいじゃろう。魔獣の危険もないし、大丈夫じゃ」
「そっか……」

 俺は、ホウコツさんに頭を下げる。

「カエデのこと、よろしくお願いします」
「はい。あなたには感謝しかありません。おっと、私の名はホウコツ。妖狐族の商人です。後日商売のお話でも」
「あ、はい」

 なんか逞しそうな人だ。
 すると、マンドレイクとアルラウネが。

「まんどれーいく」
「あるらうねー」
「おお、お前たち……いろいろ世話になったな。また会おうぞ」

 マンドレイクとアルラウネがカエデに抱きついた。
 カエデも少し寂しそうだ。二人の頭をなで、そっと離れた。
 カエデはホウコツさんに頷く。

「では、アシュト殿……また会おう」
「ああ。あ!! せめてこれ、持ってけよ」

 俺はおやつの残りを包み、カエデに渡した。
 カエデは嬉しそうに受け取り、にっこり笑う。
 ホウコツさんは部屋の隅で見守っていたディミトリに頭を下げた。

「ディミトリ殿、ありがとうございました」
「いえいえ。お役に立てたようで」
「では……」

 ホウコツさんの尻尾の一つが輝き、床に魔法陣が展開する。
 魔法陣は淡く輝き、カエデとホウコツさんを包み込む。

「では、さらばじゃ!!」

 カエデがそう言うと同時に、二人は光に包まれて消えた……転移か。
 床の魔法陣が消え、カエデは去った。

「帰っちゃったか……いきなりすぎだ」
「カエデ様は妖狐族の姫君ですからネェ……妖狐族の里では行方不明になっていましたし、ワタクシがホウコツさんに声をかけた時、最初は半信半疑でしたから」
「でも、帰れてよかった」

 俺は、カエデが使ったカップを見た。
 カーフィーはもう飲み干してあり、冷たくなったカップだけが残っていた。
 
「みんなに言わないとな」

 ミュディとか、カエデを可愛がってたからショックだろうな。
 でも、両親と再会できるならそっちのがいい。
 
「まんどれーいく……」
「あるらうねー……」
「ほら、おいで」

 マンドレイクとアルラウネを抱っこしてソファに座る。
 せっかくなので、ディミトリと話でもするか。

「ディミトリも座ってくれ。せっかくだし、いろいろ話したい」
「おお! ではでは、遠慮なく」

 新しくカーフィーを淹れ、ディミトリと商売の話をした。
 後日、カエデがまた来るんだけど……いろいろ厄介事が起きるなんて、この時の俺にはわからなかった。
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