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魔界貴族公爵クリスベノワの『討滅城』①/年齢制限

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 ユノと一緒に学生寮へ。
 男子寮は閉まっていたが、女子寮はユノが守衛に挨拶すると門が開いた。ユノはロイに向かって軽く手を振っていたのが何とも可愛らしかった。

『ククク。裸を見て欲情したか?』
「お前、マジでへし折るぞ……」

 つい先ほど、ロイはユノと混浴していた。
 しかも、裸で抱き合ってしまった……生々しい胸の感触や、女の子の肌の滑らかさ、抱きしめると華奢で、すぐにでも折れてしまいそうな……と、ここまで思い出して首を振る。
 ロイは、開けておいた窓を開ける。ロイの部屋は一階なので、門さえ超えればこっそり部屋に戻るのが難しくないのがありがたかった。
 部屋に戻り、ようやく一息入れると。

「おいロイ、いないのかよ、おい!!」
「お? お、おう」

 ドアを開けると、オルカが眼を輝かせていた。
 というか、寮の廊下には大勢の生徒がいた。一年生がほとんどいる。

「な、なんだよ、この騒ぎ……」
「ばっかお前、みんな屋上であの光ってる城見てたんだよ。あれダンジョンなんだろ? 先輩が言うには、四つのダンジョンが攻略されて初めて開かれるダンジョンだって。つまり、七聖剣士たちがダンジョンを四つクリアしたってことだ!!」
「へ、へえ」
「……お前、興味ないのかよ」
「あ、あるにきまってんだろ?」
「ふーん……噓くせえ。お前、まだ夜遊びしてんのか? このダンジョンで騒がしいときに……なぁなぁ、女の子と遊ぶなら、オレも誘えよ」
「……まあ、そのうちな」
「おう!! へへへ、なあロイ、あのダンジョンさ、オレらみたいなのも入れんのかね?」
「いやー、無理じゃ『聖剣士諸君、初めまして!!』

 と、寮内に『男』の声が響いてきた。
 ギョッとするロイ、オルカ。聞き間違えではない、学生寮内に響いている。

『我の名は魔界貴族公爵、『討滅』のクリスベノワ。『快楽の魔王』パレットアイズ様の側近であり、最強の僕なり。ククク……我が主は『宴』をご所望でね。ダンジョンに入れるのが七聖剣士と、選ばれた聖剣士だけというのは、実につまらない。なので……我のダンジョンに、特別な『仕掛け』を施した』

 寮内に響く、クリスベノワの声。
 この場からではない。どういう理屈で寮内に響いているのか、さっぱりわからない。
 廊下では、一年生の見習い聖剣士たちが『声』を聴いていた。ロイの見間違いでなければ、その表情はイキイキしているように見える。
 そして、クリスベノワは続ける。

『我がダンジョン、『討滅城』に入ることのできる聖剣士を、十五歳から十七歳の少年少女に限定する。ククク、大人の引率がないと不安で戦えない子供はいるかね?』
「なっ……」

 まさか、子供だけしか挑戦できないダンジョンになるとは。
 確かに、四つのダンジョンは七聖剣士がクリアした。が……それは、七聖剣士たちの背後に、聖剣騎士団という存在があったから成し遂げることができた。
 ロイも、聖剣騎士団たちが控えているという安心感があった。でも、今回はそれがない。
 正真正銘、子供だけ。
 十五歳から十七歳というと、学園の一年生から二年生だ。三年生もやや含まれるだろうが、ロセとララベルが含まれるかはロイにはわからない。

「ま、マジ? なあロイ、これってもしかして……お、オレたちしか攻略できないってことか!?」
『その通り!!』
「うおぉぉっ!?」

 オルカの興奮した声に、クリスベノワが反応した。
 オルカは仰天するが、ロイは黙り込んでいた。

『さぁ、生まれたての聖剣士たち!! 我がダンジョンに挑戦したまえ!! 数多の財宝、未知なる強敵が君たちを待っているぞ!!』

 ここまで言い、クリスベノワの声は聞こえなくなった。
 
「うおおお!! マジかよ、おい!! 財宝だってよ!! なぁロイ!!」
「あ、ああ……」

 非常にまずかった。
 つまり、エレノア、ユノ、サリオスの挑戦は確定した。
 そして、『八咫烏』……この存在がダンジョンに現れれば、十五歳以上、十八歳以下というのが確定してしまう。

『厄介だな。クリスベノワ……相変わらず、頭の回る奴だ』

 デスゲイズが、どこか面倒くさそうに呟いた。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 さっそく、クラスは『討滅城』の話題で持ち切りだった。
 教室では、討滅城について話していない生徒はいない。
 オルカとユイカも、興奮冷めやらぬ勢いだ。

「あたし、ダンジョン行きたい!!」
「オレも!!」
「待て待て。相手は魔族だぞ? ただのダンジョンじゃないに決まってる」
「でもよ、財宝だってさ。早い者勝ちだろ?」
「うんうん。あたし、ダンジョン行きたい!!」
「お、落ち着けって」

 すると、ユノがススーッと近づいてきた。

「ロイ……みんな、興奮してる」
「だな。このままだと、みんなでダンジョン行くとか言いそうだ」
「年齢制限のあるダンジョン、聞いたことない」
「ああ。仮に、十五歳から十七歳の子供しか入れないとしたら……無断でダンジョンに入る子供も多くなるぞ。大人が入れないダンジョンなら、入っちまえば好きにできるからな」
「むう」

 ロイとユノは、ダンジョンの恐ろしさを知っている。
 だからこそ興奮しないし……ユノはロイを見て首を傾げる。
 ロイもダンジョンに行きたがるかも。そう思い、ロイの元へ来たのだが……ロイは、とても落ち着いていた。クラスの中で、ロイだけが。

「…………?」
「とりあえず、学園側もいろいろ決めるだろうな」
「う、うん」

 ユノは、とりあえず頷いておいた。

 ◇◇◇◇◇◇

 エレノア、サリオスもまた、教室内でダンジョンの話題しか聞いていなかった。
 サリオスは、やや疲れた表情でエレノアに言う。

「参ったね……まさか、年齢制限のあるダンジョンとは」
「あの、殿下……こういう場合、どうなるんです?」
「……恐らく、オレ・・たち七聖剣士は間違いなく入ることになるだろうね。それ以外だと、クラスの総合成績上位の聖剣士が選ばれると思う」
「…………?」

 不思議だった。
 どこか甘えたような、頼りなさがサリオスから感じられない。
 一人称も《オレ》になっているし、エレノアを見る目も、下心のあるような目ではなく、仲間を見るような、挑むような目になっていた。

「エレノア、キミはどう思う?」
「え、あ……そ、そうですね。あたしもそう思います」
「あとは、ロセ先輩か。ロセ先輩はもう十八になったし……ララベル先輩はどうかな?」
「あれ……?」

 サリオス。いつ、ロセ先輩の年齢を知ったのだろうか?

「ロセ先輩がいれば、心強いんだけどな……」
「……!」

 ピンときた。
 ロセ先輩を語るサリオスの眼が、柔らかくなっていた。
 まるで、恋する少年……まさかの展開に、エレノアはニコニコしてしまう。

「……エレノア、どうしたんだい?」
「あ、いえ。うん、なんでも」
「?」

 下心が自分に向かなくなったことを喜びつつ、首を傾げるサリオスを見てブンブンと手を振るエレノアだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 数日後。
 『討滅城』に関するルールが決まった。
 まず、学園寮内に聞こえて来たクリスベノワの声。これは、寮内だけではなく、学園全体と聖剣騎士団の総本部、トラビア王城内に聞こえていた。
 試しに、聖剣騎士団の聖剣士たちが『討滅城』の門をくぐろうとしたが、門を開けることができなかった。そして、十七歳の聖剣士に門を開けさせたところ、数トンはありそうな門が片手で開いたそうだ。
 門から入ろうとしても、二十代を超えた聖剣士たちは見えない壁に阻まれ入ることができず、門を開けた騎士だけが入ることができたという。
 
 討滅城の前に、聖剣騎士団が天幕を張った。
 そして、許可なくダンジョンに入ろうとする『子供』たちを厳しく取り締まり始めた。
 やはり、無断で侵入しようとする聖剣士たちが多く現れた。彼ら彼女らは全員、『ダンジョンを攻略するため』や、『このままでは魔獣がダンジョンから溢れる』と、もっともらしいことを言っていたが……ほぼ全員が、財宝に目がくらんでいるように見えた。

 まず、ダンジョンに挑戦できるのは、七聖剣士たち。
 現状では、サリオス、エレノア、ユノだけだ。ロセ、ララベルは十八歳であり、挑戦権がない。
 そして、ダンジョンに同行できるのは、聖剣レジェンディア学園の二年生、三年生の成績上位者のみ。
 聖剣騎士団の天幕で厳重なチェックをして、晴れて挑戦が可能になる。
 
 目的は、ダンジョンの『核』を破壊すること。
 そうすれば、このダンジョンは消える。それは、『快楽の魔王』パレットアイズの『手番』が終わることを意味する。

 ついに、第五のダンジョン『討滅城』の攻略が始まった。
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