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ガーネット先生と魔人

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 魔人。
 魔帝が召喚した七つの災厄。
 その二つが、アースガルズ王国に……アースガルズ召喚学園のS級校舎にいる。
 しかも、二人。
 ガーネットの眼がスゥーっと細くなる。教室内だというのに煙管を取り出し、煙草に火をつけた。
 アルベロ、そしてアーシェとリデルは、レイヴィニアとニスロクを庇うように前に出る。

「先生、話を……」
「どういうつもりかわかってるんだろうね?」
「わかってます。お願いですから話を聞いてください!」
「あ、アタシからもお願いします……その、悪い子じゃないです、絶対に」
「…………」

 キッドは椅子に座ったまま欠伸、ラピスは未だに驚愕。
 そして、ヨルハはアルベロをジッと見つめ……クスっと笑った。

「ガーネット。ここは話を聞きましょう」
「王女殿下……」
「『傲慢』の魔人を討伐した彼等が、何の考えもなしにこんなバカなことをするとは思えません。ここは詳しく話を聞いて、考えるのはそれからにしましょうか」
「……はっ!」
「へぇ~……そっちが本性か。ドス黒い思考がグルグル回ってるぜ? お姫様よぉ?」
「ふふ、なんのことでしょうか?」

 キッドはヨルハの本性をすぐに見抜いた。
 ヨルハは笑顔だが、アルベロにも見えた。昨夜と同じ野心を語ったときの顔が。
 ガーネットは、煙草に火を点け大きく煙を吸い吐きだした。

「燻せ、『テスカトリポカ』」

 吐きだした煙を媒介に、煙が虎のような姿に変わる。
 希少な『自然型』召喚獣。自然を媒介にすることで召喚され、決まった形を持たない。
 能力も規模が大きい、広範囲での能力行使が得意な召喚獣だ。

「テスカトリポカ、校舎に結界を張れ。他者の侵入は許可するが、この教室には絶対に誰も入れないようにしろ」

 テスカトリポカは頷くと、口から白い煙を吐きだす。
 煙はすぐに消え、何事もなかったかのようにテスカトリポカは消えた。
 
「これでいい。あたしが解除するまでこの教室には誰も入ってこれない」
「さすがね。『幻惑』の能力、久しぶりに見たわ」
「あまり使いどころのない能力ですので……」

 ヨルハに頭を下げるガーネット。
 
「ガーネット、ここではただの生徒。あまり気を遣わないで」
「……わかりました」
「じゃ、お話を始めよっか」

 いつの間にか、ヨルハが場を仕切っていた。

 ◇◇◇◇◇◇

 レイヴィニアは、ここに来た経緯を説明した。
 アベル、ヒュブリスが死んで誰が殺したか調査に来たこと。ヒュブリスを倒して油断している今ならアルベロたちを倒せるかもしれないと考えたこと。だがアルベロに見つかり諦めたこと。見逃してもらう代わりに『色欲』をおびき寄せる作戦に協力すること。
 そして、情報を提供するかわりに『保護』をお願いすること。
 レイヴィニアとヨルハは向かいあって話をする。

「なるほどね。保護……」
「うちら、人間は嫌いじゃないし。魔帝様には召喚してもらった恩があるけど、自分たちの命には代えられない。人間を傷付けないって約束もしたし、もう戦うつもりはないよ」
「ふーん。ねぇ、兄弟なのに裏切っていいの?」
「うちとニスロクは姉弟だけど、他の連中はそうじゃない。魔帝様が呼び寄せた強い召喚獣が七人ってだけで、肉親関係とかじゃないし。それに、うちらみんな互いのことなんてどうでもいいしね」
「……へぇ。じゃあ、他の魔人を滅ぼすのを手伝えって言ったら?」
「それはやだ。そもそも、うちとニスロクはこの世界にいれるだけで幸せだし。戦ったりするのは嫌いだからね」
「そうなの?……七つの災厄は恐るべき召喚獣って話なのに」
「それは人間が勝手に作ったイメージだろ。うちとニスロクは遣いッ走りみたいなもんだ。人間の情報集めて魔人たちに送ったり、魔獣を集めたりね」
「…………」

 ヨルハは足を組みかえる。
 どうもこの足の組み換えがヨルハにとっての集中できる行動のようだ。

「わかりました。では、王女ヨルハの名においてあなた方を守護します」
「おお! いいのか?」
「ええ。ただし、あなた方が知る召喚獣、魔人、召喚獣の歴史について全て話してください。我々が知らない召喚獣の歴史を紐解く協力をするのが保護の条件です」
「なんだ、そんなことか。べつにいいぞ」
「交渉成立ですね。では皆さん、魔人を二体保護することが決まりましたが、他言無用でお願いします。彼らの存在は来たるべき時に私から公表しますので。それまでは……S級寮で匿うように。いいですね、アルベロ?」
「お、俺?……わ、わかりました」

 ヨルハは頷き、レイヴィニアに言う。

「しばらく外出はできませんが、構いませんね?」
「いいぞ。どのくらいだ? 二百年くらいか?」
「召喚獣のスパンで考えなくて大丈夫です……ところで、『色欲』を呼び出すというのは?」
「ああ、そいつに頼まれたんだ。フロレンティア姉ぇを呼べって」

 ガーネットはキッドを睨む。

「貴様、勝手なことを……!!」
「黙れ。オレがここにいる理由を忘れたのか? 安心しろよ。『色欲』とは外で戦うからよ。それと……邪魔したら、相手が人間だろうと殺す。『色欲』はオレの獲物だ」
「……チッ」

 ガーネットは舌打ちした。
 キッドの決意は固い。誰であろうと戦いの介入はできそうにない。
 アルベロは、キッドに言う。

「キッド。これだけは言っておく……お前に命の危機が迫ったら、俺は迷わず介入するからな」
「そんときゃ、的が二つになるだけだ」
「やってみろよ。それに、死んだら終わりなんだぞ……?」
「死ぬか。オレが勝つ……絶対にな」
「あ、あのさ……たぶん、お前じゃフロレンティア姉ぇに勝てないぞ? フロレンティア姉ぇが『男』を残す理由、知ってるのか?」
「あぁ?」

 キッドが苛立ったようにレイヴィニアを睨む。
 ビクッと竦むレイヴィニアだが、おずおずと───。

「───ん?」

 ガーネットが、何かに気付いた。
 テスカトリポカの結界が、揺らいだのだ。
 そして───。

「───っ!! 全員、伏せな!!」

 ガーネットが叫んだ瞬間、S級校舎が激しく揺れた。
 同時に、ガーネットが叫ぶ。

「テスカトリポカの結界を破るだと!? 馬鹿な、誰が!!」

 アルベロの右目が疼き、外からとんでもない大きさの光が見えた。
 だが、実際に光っているわけではない。『経絡核』の光があまりにも強大で、太陽が外に落ちているような錯覚に捕らわれたのだ。
 アルベロは窓を開けると、そこには───人がいた。

「ギャァァァァーーーーーッッハッハッハァァァ!! ここかぁ? フロレンティアが言ってた『裏切りモン』のいる場所ってのはぁぁぁよぉぉぉぉっ!!」

 そこにいたのは、『鬼』だった。
 褐色の肌、長い三本のツノ、身長は三メートルを超え、手には巨大な斧を持っている。
 髪は純白で腰まで伸び、上半身裸の何かだった。
 レイヴィニアはガタガタ震え、ニスロクも思わず飛び起きた。

「おおお、オウガ……なな、なんで!? べ、ベルゼブブとフロレンティア姉ぇに封印されてたんじゃぁ……」
「オウガって……」
「に、人間は『憤怒』って言ってた……」
「『憤怒』だって!?」

 アルベロがレイヴィニアに聞くと、ガーネットが叫んだ。
 同時に、テスカトリポカを呼ぶ。

「テスカトリポカ!! 二十一人の召喚士を全員招集!! 大至急だよ!!」
「が、ガーネット先生!?」
「奴はまずい!! 奴は……最強の魔人だ!! 七つの災厄と呼ばれているが、真にヤバいのは『憤怒』のオウガ、奴だけだ!! ダモクレスの右腕を奪いあたしらを壊滅寸前に追い込んだのは奴なんだよ!!」
「え……」

 最強の二十一人の召喚士。
 それは、アルベロだけでなくヨルハすら知らない歴史。
 二十一人の召喚士は最強。それだけを知らされて育った少年少女たちが知らない闇だった。
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