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対極
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アルベロは、右目を押さえながら目の前にいる「少女」を見た。
黒い髪の自分に対し、少女は純白のロングヘアだった。
赤い目の自分に対し、少女は空のように青い目だった。
右手が巨大化している自分に対し、少女は左腕が巨大化していた。
漆黒の表皮に血管のような赤いラインが入った禍々しい右腕の自分に対し、純白の表皮に青いラインが入った神々しい左腕を少女は持っていた。
男の自分に対し、相手は女の子だった。
「…………」
「ふふっ、なーんか似てるよね?」
アルベロは右目を押さえていた手を外す。
右目の自分、左目の少女。その【目】だけは同じだった。
少女ことシン・アースガルズは、アルベロを見てにっこり笑う。
「ねぇ、キミの名前教えて? ジャバウォックの少年♪」
「…………」
「あれれ、無視?……寂しいなぁ。ちょっとくらい会話を楽しもうよ」
「……アルベロ・ラッシュアウト」
「アルベロね。じゃあ、あたしのことはシンでいいよ。っと……おお?」
のんきにアルベロと喋っていたシンは、ダモクレス、エステリーゼ、ヴィーナスに包囲された。さらに、騎士たちが剣を抜き、残りの英雄たちも恐ろしい空気を纏い始める。
すると、ガブリエルが前に出て言う。
「シン・アースガルズ」
「ん?……あれれ、きみって確かガブリエルだっけ? そんな可愛かったっけ?」
「あなたも、ずいぶんと若々しくなりました。年老いた姿だったのに……」
「ん、作り直しただけ。もちろん、中身は全く変わってないよ」
「そうですか。ところで……ここがどこかわかっているのですか?」
「知ってる。故郷だよね……うん、いい匂い。故郷の香りだ……ごめん、パンの匂いするね。キッチン近いの? お腹減ってきた」
シンは、あははと笑いながら頭を掻く。
緊張感がなかった。だが、誰一人油断していない。
雰囲気だけでわかった。目の前にいるシン・アースガルズは本物だ。
ダモクレスは、拳を握り締める。
「言っておくが、姿形を変えようと容赦せんぞ。今度こそ完全消滅させちゃる!!」
ダモクレスは、隻腕ということを忘れそうなくらい力強い。
すると、アルベロの近くにいたキッドは、『ヘッズマン』をシンに突き付けながら言う。
「……妙だ」
「え……」
「あの自信だ。見ての通り、魔帝にとってここは敵地もいいところだ。英雄たちが勢揃い、完全包囲されて逃げ場がない……なんだ、あの余裕は」
シンは、完全に囲まれているのにけらけら笑っていた。
姿形を見れば、その辺にいる女の子と変わらない。
逃げ場なんてないこの状況。どうするのか。
すると、動くに動けずにいた国王が口を開く。
「魔帝シン・アースガルズ。あなたの望みはなんだ?」
「お? あんたが王様かぁ。あたしの望みは単純明快! この世界を召喚獣のものにするために、人間たちには滅んでもらいたいのよ」
「……それは無理だ。人間を絶滅させるわけにはいかない」
「だよねー? だから、戦うしかないじゃん」
「そうだな。だが、あえて言おう。この状況、あなたはもう詰んでいる」
「んー……」
二十一人の英雄、S級の、全員がB級クラスの兵士たち。
シンはにっこり笑って言った。
「いやー、詰んでるのはキミたちだよん?」
「なに───……っづぅ!?」
シンの左目が輝いた瞬間、この場にいるアルベロを除いた全員が真っ蒼になり跪ずく。
「なっ……おいキッド!? アーシェ、ラピス、リデル……おい!?」
「っぐ、あ……」
「あ、ぅ……」
「ぅ……こ、これは」
王も、サンバルトもヨルハも、二十一人の英雄たちも、S級たちも、壁際にいる兵士たちも、全員が真っ蒼な状態で胸を押さえ、ガチガチ震えていた。
アルベロだけが、無事だった。
シンは、アルベロを見て言う。
「アルベロ、お勉強の時間です!」
「お前、みんなに何しやがった!?」
「せっかちさんだなぁ。話を聞いて。まず、あたしとキミの目に宿ってる『冥眼バロール』の能力はなんでしょうか?」
「何?……能力って、経絡糸や生気の流れを見たり、召喚獣の世界に干渉する能力……」
「はずれ。まぁ間違っていないよ。でも、それはあくまで付属品……真の能力は『生気干渉』なの。つまり、この眼はね、この世界と召喚獣の世界にある生気を自在に操れる。ほら、見てごらん?」
「……ッ!?」
アルベロは、右目でキッドを見た。
全身に回っている経絡糸。さらに、薄ぼんやりとした生気が体内を循環している。
だが、妙だった。
「……なんだこれ。生気の流れが……遅い?」
「そ。ここにいる人たちの生気の流れをいじってみました~♪ 生気は血と同じ、体内を巡っている大事な物。その流れを滅茶苦茶にしたら……どうなると思う?」
「……お前」
「今は生気の流れを乱しただけ。生気の流れを完全に止めちゃったり、逆流させてみたらどうなると思う……? ふふ、もうわかったでしょ? 生きている限り、あたしには勝てない。昔はこの目を使うと肉体への負担がヤバヤバだったのよ。でも、作り替えたこの身体ならそう負担は感じない」
アルベロは右手をシンへ向けた。
「テメーは俺がぶっ潰す!!」
「そう。あたしと戦えるのは、同じ目を持つキミだけ。ふふふ、遊んであげる♪」
アルベロは右手を握り、叫ぶ。
「奪え───『ジャバウォック』!!」
「献上せよ───『クイーン・オブ・ハート』」
禍々しき右腕と、神々しき左腕が巨大化する。
誰一人動けない中。アルベロとシンの戦いが始まった。
黒い髪の自分に対し、少女は純白のロングヘアだった。
赤い目の自分に対し、少女は空のように青い目だった。
右手が巨大化している自分に対し、少女は左腕が巨大化していた。
漆黒の表皮に血管のような赤いラインが入った禍々しい右腕の自分に対し、純白の表皮に青いラインが入った神々しい左腕を少女は持っていた。
男の自分に対し、相手は女の子だった。
「…………」
「ふふっ、なーんか似てるよね?」
アルベロは右目を押さえていた手を外す。
右目の自分、左目の少女。その【目】だけは同じだった。
少女ことシン・アースガルズは、アルベロを見てにっこり笑う。
「ねぇ、キミの名前教えて? ジャバウォックの少年♪」
「…………」
「あれれ、無視?……寂しいなぁ。ちょっとくらい会話を楽しもうよ」
「……アルベロ・ラッシュアウト」
「アルベロね。じゃあ、あたしのことはシンでいいよ。っと……おお?」
のんきにアルベロと喋っていたシンは、ダモクレス、エステリーゼ、ヴィーナスに包囲された。さらに、騎士たちが剣を抜き、残りの英雄たちも恐ろしい空気を纏い始める。
すると、ガブリエルが前に出て言う。
「シン・アースガルズ」
「ん?……あれれ、きみって確かガブリエルだっけ? そんな可愛かったっけ?」
「あなたも、ずいぶんと若々しくなりました。年老いた姿だったのに……」
「ん、作り直しただけ。もちろん、中身は全く変わってないよ」
「そうですか。ところで……ここがどこかわかっているのですか?」
「知ってる。故郷だよね……うん、いい匂い。故郷の香りだ……ごめん、パンの匂いするね。キッチン近いの? お腹減ってきた」
シンは、あははと笑いながら頭を掻く。
緊張感がなかった。だが、誰一人油断していない。
雰囲気だけでわかった。目の前にいるシン・アースガルズは本物だ。
ダモクレスは、拳を握り締める。
「言っておくが、姿形を変えようと容赦せんぞ。今度こそ完全消滅させちゃる!!」
ダモクレスは、隻腕ということを忘れそうなくらい力強い。
すると、アルベロの近くにいたキッドは、『ヘッズマン』をシンに突き付けながら言う。
「……妙だ」
「え……」
「あの自信だ。見ての通り、魔帝にとってここは敵地もいいところだ。英雄たちが勢揃い、完全包囲されて逃げ場がない……なんだ、あの余裕は」
シンは、完全に囲まれているのにけらけら笑っていた。
姿形を見れば、その辺にいる女の子と変わらない。
逃げ場なんてないこの状況。どうするのか。
すると、動くに動けずにいた国王が口を開く。
「魔帝シン・アースガルズ。あなたの望みはなんだ?」
「お? あんたが王様かぁ。あたしの望みは単純明快! この世界を召喚獣のものにするために、人間たちには滅んでもらいたいのよ」
「……それは無理だ。人間を絶滅させるわけにはいかない」
「だよねー? だから、戦うしかないじゃん」
「そうだな。だが、あえて言おう。この状況、あなたはもう詰んでいる」
「んー……」
二十一人の英雄、S級の、全員がB級クラスの兵士たち。
シンはにっこり笑って言った。
「いやー、詰んでるのはキミたちだよん?」
「なに───……っづぅ!?」
シンの左目が輝いた瞬間、この場にいるアルベロを除いた全員が真っ蒼になり跪ずく。
「なっ……おいキッド!? アーシェ、ラピス、リデル……おい!?」
「っぐ、あ……」
「あ、ぅ……」
「ぅ……こ、これは」
王も、サンバルトもヨルハも、二十一人の英雄たちも、S級たちも、壁際にいる兵士たちも、全員が真っ蒼な状態で胸を押さえ、ガチガチ震えていた。
アルベロだけが、無事だった。
シンは、アルベロを見て言う。
「アルベロ、お勉強の時間です!」
「お前、みんなに何しやがった!?」
「せっかちさんだなぁ。話を聞いて。まず、あたしとキミの目に宿ってる『冥眼バロール』の能力はなんでしょうか?」
「何?……能力って、経絡糸や生気の流れを見たり、召喚獣の世界に干渉する能力……」
「はずれ。まぁ間違っていないよ。でも、それはあくまで付属品……真の能力は『生気干渉』なの。つまり、この眼はね、この世界と召喚獣の世界にある生気を自在に操れる。ほら、見てごらん?」
「……ッ!?」
アルベロは、右目でキッドを見た。
全身に回っている経絡糸。さらに、薄ぼんやりとした生気が体内を循環している。
だが、妙だった。
「……なんだこれ。生気の流れが……遅い?」
「そ。ここにいる人たちの生気の流れをいじってみました~♪ 生気は血と同じ、体内を巡っている大事な物。その流れを滅茶苦茶にしたら……どうなると思う?」
「……お前」
「今は生気の流れを乱しただけ。生気の流れを完全に止めちゃったり、逆流させてみたらどうなると思う……? ふふ、もうわかったでしょ? 生きている限り、あたしには勝てない。昔はこの目を使うと肉体への負担がヤバヤバだったのよ。でも、作り替えたこの身体ならそう負担は感じない」
アルベロは右手をシンへ向けた。
「テメーは俺がぶっ潰す!!」
「そう。あたしと戦えるのは、同じ目を持つキミだけ。ふふふ、遊んであげる♪」
アルベロは右手を握り、叫ぶ。
「奪え───『ジャバウォック』!!」
「献上せよ───『クイーン・オブ・ハート』」
禍々しき右腕と、神々しき左腕が巨大化する。
誰一人動けない中。アルベロとシンの戦いが始まった。
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