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1章 覚悟のとき
34話 弱さ
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朝ごはんを終えて、お腹もいっぱいで満足した頃。聖也くんは再び床に横になり、本格的に寝息を立て始めた。
どうやら、本気で落ち込んでいるらしかった。
確かにそれも仕方ない、と思う。彼はずっとゲーム作成も本気だったから。きっと、手術までに間に合わなさそうだという事実にはなかなかクるものがあるのだろう。
と、そこまで考えた時。ふと思った。それは違う、と。
だって、聖也くんはまだ手術を受けるとは言ってくれていないのだ。だから。多分、自分が死ぬまでにはゲームを完成させることが出来ないと思って、落ち込んでいるのかもしれない。
なんだか、悪いことをしたかもしれない。
そう思うのであればここまで落ち込むのも必然で。僕はもう少し気の利いた言葉をかけるべきであった。
僕は先程の自分の言葉を悔いながら、聖也くんの寝息で上下する肩へ手を置いた。
「ごめんね、聖也くん」
彼が眠っている時にこんなことを言うなんてつくづく嫌なやつだ、と思った。でも。こんな時しかいえなかった。
きっと余計、気を遣わせるから。
ふいに、彼の瞼に隠された瞳から涙が零れ落ちた。前触れもなく、ただ1粒だけ。
眠りながら泣くなんて、余程我慢させていたのかもしれない。僕のせいで。
慌ててテーブルのティッシュで涙を拭って、丁寧に毛並みにそって頭を撫でる。しかし。彼は、まるでそれを避けるかのようにきゅっと丸くなった。
確かに、避けられて当然だと思う。だって、全部僕が悪い。
彼の想いを受け止められないのも、気の利いた言葉が出ないのも、全然頼れる所がないのも。
聖也くんはまるでうちに来たばかりの頃の小春のように小さく丸まって、そしてギュッと強く両手を握りこんだ。
なにか、辛そうだった。
彼が自ら手術を拒んだくせに、全然その先にある運命を受け入れきれているようには思えなかった。
そしてそれは、僕が聖也くんに抱いてイメージとは違ったものだった。でも。僕は正直、彼なそんな姿を見て安心していた。
だって、聖也くんはずっと僕の先輩だった。病気を宣告された時は泣くことなく撫でてくれて、その後僕が落ち込んでいた時はデートに連れ出してくれた。
だから。僕よりずっとずっと、大人なんだと思ってた。でも。
──なんだ。聖也くんにも、弱い部分はあるんだ。
そう思うとなにか、吹っ切れた気がした。
いつかは、吹っ切れなくてはいけない日が来ることは何となく、わかっていた。でも。聖也くんが優しくしてくれてしまうから、ずっと先延ばしにしてきていた。
しかし。こうして弱々しい聖也くんを見たことで、ようやく気づけた気がする。
気づくと、涙が溢れていた。でも。もう、後には戻れない。
聖也くんが、大切だから。だから、彼を苦しめているのが僕なら。夢を諦めさせるくらいなら。彼に、死を選ばせるくらいなら。いっその事、と。僕はそう思ったのだった。
彼に手術を受けさせるために必要な言葉として導き出された答えは、考えるまでもないくらい、簡単なものだった。
僕が彼に忘れられるのがきっと耐えられないから、だから手術は受けないと。彼はそう言った。なら。僕が一切悲しまなければ、きっと……
どうやら、本気で落ち込んでいるらしかった。
確かにそれも仕方ない、と思う。彼はずっとゲーム作成も本気だったから。きっと、手術までに間に合わなさそうだという事実にはなかなかクるものがあるのだろう。
と、そこまで考えた時。ふと思った。それは違う、と。
だって、聖也くんはまだ手術を受けるとは言ってくれていないのだ。だから。多分、自分が死ぬまでにはゲームを完成させることが出来ないと思って、落ち込んでいるのかもしれない。
なんだか、悪いことをしたかもしれない。
そう思うのであればここまで落ち込むのも必然で。僕はもう少し気の利いた言葉をかけるべきであった。
僕は先程の自分の言葉を悔いながら、聖也くんの寝息で上下する肩へ手を置いた。
「ごめんね、聖也くん」
彼が眠っている時にこんなことを言うなんてつくづく嫌なやつだ、と思った。でも。こんな時しかいえなかった。
きっと余計、気を遣わせるから。
ふいに、彼の瞼に隠された瞳から涙が零れ落ちた。前触れもなく、ただ1粒だけ。
眠りながら泣くなんて、余程我慢させていたのかもしれない。僕のせいで。
慌ててテーブルのティッシュで涙を拭って、丁寧に毛並みにそって頭を撫でる。しかし。彼は、まるでそれを避けるかのようにきゅっと丸くなった。
確かに、避けられて当然だと思う。だって、全部僕が悪い。
彼の想いを受け止められないのも、気の利いた言葉が出ないのも、全然頼れる所がないのも。
聖也くんはまるでうちに来たばかりの頃の小春のように小さく丸まって、そしてギュッと強く両手を握りこんだ。
なにか、辛そうだった。
彼が自ら手術を拒んだくせに、全然その先にある運命を受け入れきれているようには思えなかった。
そしてそれは、僕が聖也くんに抱いてイメージとは違ったものだった。でも。僕は正直、彼なそんな姿を見て安心していた。
だって、聖也くんはずっと僕の先輩だった。病気を宣告された時は泣くことなく撫でてくれて、その後僕が落ち込んでいた時はデートに連れ出してくれた。
だから。僕よりずっとずっと、大人なんだと思ってた。でも。
──なんだ。聖也くんにも、弱い部分はあるんだ。
そう思うとなにか、吹っ切れた気がした。
いつかは、吹っ切れなくてはいけない日が来ることは何となく、わかっていた。でも。聖也くんが優しくしてくれてしまうから、ずっと先延ばしにしてきていた。
しかし。こうして弱々しい聖也くんを見たことで、ようやく気づけた気がする。
気づくと、涙が溢れていた。でも。もう、後には戻れない。
聖也くんが、大切だから。だから、彼を苦しめているのが僕なら。夢を諦めさせるくらいなら。彼に、死を選ばせるくらいなら。いっその事、と。僕はそう思ったのだった。
彼に手術を受けさせるために必要な言葉として導き出された答えは、考えるまでもないくらい、簡単なものだった。
僕が彼に忘れられるのがきっと耐えられないから、だから手術は受けないと。彼はそう言った。なら。僕が一切悲しまなければ、きっと……
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