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3章婚約者9歳、王子12歳

10~???視点~

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「陛下にこれを」

「承りました」

今、目の前にいるのは紙袋の少女であり、王太子殿下の婚約者スフィア・アルノード公爵令嬢。スフィア様とスアン様が同一人物と知る数少ない中のひとりである私は現在、陛下直々の命によりスフィア様の部下として動いている。

学園にまでは入れないため、今やスフィア様と陛下への伝令係。これは陛下と宰相、スフィア様のみが知る機密文書だから誰の手にも渡すなと言われている。読んでしまえば処刑と言われるのだから気にはなっても読むなんてことはするはずもない。

しかし、これは王太子殿下にも見られてはいけないと言うのだから疑問だ。婚約者であるスフィア様が見れて、王太子殿下に見せられない機密とは一体何か?想像もつかない。

詮索なんてことはそれこそ命を落とすとわかっているのでしない。あくまで疑問に留める。スフィア様は見た目もおかしな部類なら、実力も桁外れ。一度機密文書を渡す場でスフィア様はそれを探るようなものを感じ取ったのか、簡単に人を殺した。それも躊躇いなく。

少女がこうもあっさり人を殺められるものなのだろうか?偵察といった隠れて探るようなことしかできない私は、人を殺したことがない。力があろうと、時に必要と言われようと私にはきっと無理だ。

大人の私でも無理なことを少女はやった。隠れた行動が得意な私についてきたような輩を意図も簡単に見つけて。恐ろしさもあったが、それ以上に陛下も宰相も幼い少女に何をやらせているのだろうかとスフィア様が心配になった。

しかし心配するならば、せめてそんな人殺しをせざる終えない状況を作らないよう私はさらに気配を消して後をついてこられないよう励むべきだろう。

何があっても私はこの国の王の命に従ってただただスフィア様の言う通りに伝令係となるしかないのだから少しでも手を煩わせないようにするしかない。

「明後日か………」

そうして今日もまた無事伝令係として機密文書を陛下にお渡しした。これに関しては陛下の都合の中で何よりも最優先とされている。今回の機密文書を読みながら陛下が呟いたのは明後日と言う言葉。明後日に何かあるのだろうか?

「何か変わるとよいですが……」

「スフィア嬢はファンクラブができたのでこれ幸いと、どうやら鍛えてもしもの時の代わりや偵察用にと考えているようだな。味方をつけるのはいいことだ」

私の前で会話するということは聞かれても大丈夫な問題なのだろう。ここには衛兵もおり、聞かれて困ることなら私共々すぐ退室を命じられるのが常だ。この場合は、スフィア様の伝令を考える時間として急を要するものがあるか判断するから待てという意味。

しかし、聞いているとスフィア様は学園でいったい何をなさっているのかより気になる言葉が続々と出てくる。しかも、陛下はそれに納得している様子だ。

「スーマン家の娘も味方につけたとなれば、情報次第で有利に動ける分状況は中々によい方面へいけると思われますが……」

「とはいえ、向こうもスフィア嬢と真逆な存在とはいえ、同じような存在ならスフィア嬢の思いもしない行動ができる可能性もある。場合によっては部が悪いとも言っていただろう」

スフィア様と同じような存在?あんなすごい人がもうひとりいるということだろうか?いや、でも真逆の存在の意味がわからない。それにスフィア様にとって部が悪いって、まさかスフィア様よりも……?いやいや、それでもあくまで場合によってはとは言っているし……。

「はい。ですが、ファンクラブの次第では向こうも予定と違う点も含め、動きづらくなると思われます。スフィア嬢の手腕にもよるでしょうが……」

「スフィア嬢がどれくらいファンを持ち、管理できているかによるな……。後は向こうの自覚と力量次第と言うべきか。スフィア嬢では今の時点で判別はつかないと言っている。どちらにしろ、スフィア嬢のファンの数が多く、スフィア嬢の教育が行き届いているなら妨害対策はより完璧に近くなるだろうが……」

全く何を話しているかわからないが、スフィア様に関係があることだけはわかる。妨害対策とはなんだろう?聞けば聞くほど疑問しかない。

「すみませんが、スフィア様から何か伺ってはいませんか?」

「え、私ですか?」

「はい」

急に聞かれて、考え事をしていたからか焦ってしまった。でもせっかく聞かれたので機密文書を渡される前の会話を思い出すことにした。元々偵察が得意なだけあり、記憶力には自信がある。

「ああ、そういえば思わぬ収穫がと言っておられました」

「思わぬ収穫?」

「学園長を犬にできたと」

「犬、ですか?」

「はい」

「い、犬か……うむ………学園長を落とせたのは大きいな。しかし、現れてコロリと裏切る可能性がないとよいが………そうなるとファンの裏切りがスフィア嬢を危険に晒す可能性もあるか」

「あれ……ですか?」

一体何のことだとつい発言の許可なしに言ってしまった。

「陛下」

「すまぬ、ついな。衛兵、下がるがよい」

「はっ、終わりましたらお呼びください」

衛兵が下げられ、私だけが陛下と宰相の二人を目の前にして残された。もう何がなんだかわからない。

「スフィアが君を信用した」

「へ?」

急に何を言い出すのだと思った。というか今の言葉の意味を思えば、今まで信用されてなかったのかと少し落ち込む。

「君に内容を話してもよいと最後の文に書かれている。これは信じがたくも真実であり、誰にも知られてはならないことだ。」

「は、はい」

機密文書の内容を知れる日が来るとは思わなかった。ついに話された言葉に、私は最初こそ信じられなかったが、陛下のお言葉なだけに信じる他ない。

その話す内容からあれと言われた悪魔とも言える存在とスフィア様の秘密を知ったが、それでスフィア様に近づきたくないとは思わなかった。

とはいえ、傍にいてもいなくても私では何もできない。あんな幼い少女が、さらに幼い頃から与えられた運命に私はただスフィア様にも幸福の未来が訪れるよう願うことしかできなかった。
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