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3章(元)アークス国は占いの国

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「「「おお~!」」」

「さ、さすがに勘弁してくだせぇ」

「すごいです!一回で全部掬えるなんて!」

「そ、そうか」

ただのスーパーボールすくいでもルーベルトの何事も完璧にこなすそれは発揮された。ポイを破くことなくひょいひょいとスーパーボールを掬っていき、いつまでたっても終わることのないそれに人だかりができるほど注目されたルーベルトのスーパーボール掬い。

最後の一個を掬えば見ていた観客は声を上げ、思わずぽかんと見ていたおじさんは困った様子を見せ、ネムリンは素直にすごいと褒める。

何せネムリンは一個もとれなかっただけに、余計ルーベルトも初めてのはずなのにと感心すらしたのだ。キラキラと尊敬とばかりに褒めるネムリンに照れるルーベルト。今彼の周りにはスーパーボールの入った器と観客の姿がある。だが、ルーベルトはネムリンしか見えていない。

いや、ネムリンしか見る気がないというべきだろう。

「でもこんな小さなボールの何がスーパーなんでしょう?」

「気にしたことはねぇが、よく跳ねるからめっちゃはねるボールってことじゃないですかい?」

「跳ねる?」

おじさんの返しに首を傾げたのはルーベルト。既に雑談が始まった辺りで観客は姿を消していた。

「やってみた方がお早いでしょう。ひとつ軽く地面に叩きつけてみてくだせぇ」

「私がやってもいいでしょうか?」

「俺は構わない」

さて、問題です。怪力を持つネムリンの『軽く』とは女性とどれほど違うと思いますか?

ネムリンは赤のスーパーボールを手にとり、地面に叩きつけた。

「え」

「あ………」

「消えたな」

空を見上げる三人。ネムリンは確かに『軽く』地面にスーパーボールを叩きつけた。スーパーボールは確かに地面で跳ね…………空高くキラリと光って消えた。

「スーパーボールって凄く跳ねるんですね!」

「いや、空高く消えるほど跳ねるのはおじさんも初めてですぜ!?」

スーパーボールが地面で跳ねに跳ね転がってなくすならともかく、空で見えなくなるまでに跳ねさせどこへ消えたかわからないなんてことは誰も経験がないはずだ。

「さっきのスーパーボールは赤だったか、ネムリンどこまで跳ねたか探しに行ってみるか?直線に跳ねたわけでもなかったからここで待っていてもこの場に戻ってくるとは限らない」

「それもそうですね!」

本当にどこへ消えたのか、赤のスーパーボールは。

「他のスーパーボールはいらない。スーパーボールの使い方を教えてもらった礼だ」

「ありがとうございやす。初日から赤字で終わるところでした。でもさすがに一個だけでいいんはわいが悪い気がしてならんのですが………」

「気にするな。ネムリンに褒められただけで十分だ」

「なんや、それは確かに景品以上の価値やもしれまへんなあ。ったく、ベタ惚れですかいな」

「ベタ惚れ以上だ」

「え、ベタ惚れの上ってなんですん?」

「ラヴィン公爵様、お願いですからこれ以上は………」

「ラヴィン公爵様?え?まさかあなたが?」

「あっ………えっと………」

なんだか恥ずかしくなってきたネムリンがルーベルトの服の袖を摘まむようにして呼び掛けたが最後。さすがは名を轟かせるルーベルトか。平民のおじさんもその名を聞けば知らないことはないようで、噂とイメージが違う様子に戸惑いを見せた。

ネムリンはしまったとばかりにどうしようとルーベルトを見上げるが………。

「可愛い………」

見上げて自分を見るネムリンが可愛すぎるようで気にした様子はない。声にまで出されればネムリンの顔は真っ赤に染まる。

「な、何を、いいいいってるんですか!もう!」

「誰にも見せたくないな」

「へ、え、あのっ!?」

するりとネムリンの赤くなった頬を撫でるルーベルト。ネムリンはもう何がなんだかと頭がぐるぐるとしてついていけない。祭りで賑わう最中、ネムリンとルーベルトには甘い雰囲気が漂い、ある程度離れた護衛たちはそれを信じられないとばかりにぽかんとして見ている。

「…………いやいやいや、店先でいちゃつくんはやめてくれまへんか!」

「…………」

おじさんも戸惑いを他所にいちゃつき始めた二人に気をとられたが正気に戻り、慌てて止めに入る。こんなところでいちゃつかれては客が入りづらいので、当然と言えば当然。

だが、それを邪魔するなとばかりにおじさんを睨むのはルーベルト。少し止められてほっとしたものの居たたまれないのはネムリン。

「睨まんといてください、怖いから!それにお忍び慣れてないならアドバイスしますから!」

「アドバイス………?」

「お忍びなら家名呼びはまずいですって!いちゃつき具合からようわかりますけど、お嬢さんが噂の公爵様を殴って婚約者になった御方なんですやろ?」

「う、噂になっているんですね………」

これはこれでさらに居たたまれなくなるネムリンだが、事実なので何の言い訳もできない。

「そりゃあ、身分関係なしにラヴィン公爵様は貴族としても商人としても有名ですからな。公爵様に関連したことは誰もが噂にしちまいやすよ。まあ、そんなわけでお忍びなら家名はもちろん名前呼びも公爵様は有名すぎてバレるやもしれませんし、ここはいっそ婚約者同士なんですから二人だけの愛称呼びなんてどうです?」

「愛称………呼び………」

「二人だけの、ですか………」

ルーベルトは親密さが増していいかもしれないと、今まで何故考えなかったのだろうと提案してくれたおじさんへの理不尽な恨みはかき消えた。

一方ネムリンは二人だけの愛称という二人だけのの部分に、特別さを感じて胸の鼓動が高鳴るのを感じた。特別も何も、二人は婚約者同士でありルーベルトからすればネムリンは特別を通り越した存在なのだが。
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