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教師の嫉妬は身を滅ぼす

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入学式から一ヶ月。授業も始まり、はじめとの時間以外は暇な日常。はじめは僕以外に友達はできず、僕も作らない。

初日からのあれで周囲が僕たち、いや、僕を避けているが故だろう。なんせ、四ノ宮家の息子は翌日転校したのだから。

別に次から関わりさえしなければ、そこまでしなくてもよかったんだけど、まあ、あの息子は突っかかってきてもおかしくはない。

さて、今片付けるべき人間は恐らく教師。理事長から校長づたいで、僕については下手なことをしないように言われていることだろう。教師の僕を見る目が勘に触らないかと怯えているように見える。

まあそれが余計はじめ以外が僕に関わらないようにしている理由だろう。別にはじめ以外は興味はないし、鬱陶しいだけだから構わないけど。

でも、ひとりだけ身の程知らずがいるみたいだ。

「清水ぜろ、お前もここの生徒!熱心にやれ!下手にサボれば許さんぞ!」

たかが体育。どうやら熱血教師に見えなくもないが、なんでもこなしてしまう僕に嫉妬しているのが目に見えている。教師が生徒に嫉妬とはみっともない。

返事も返さず体力テストの課題をこなしていく。僕以上の人物はいないし、僕の次に体力テストの評価が高いのははじめで、努力の現れだろう。僕自身そちらに満足している。

「清水はじめ!もっと早く走れるだろう!」

「え・・・」

標的をはじめに変えたようだ。僕だけならともかく、それはいけない。

「僕の次に早いはじめに文句をつけるのはおかしくない?」

「なんだ!その口の聞き方は!」

咄嗟にはじめに背を向けて庇えば、案の定キレたご様子。教師だから丁寧に話せとでも?生徒に嫉妬し、はじめを理不尽に叱るようなだめな大人に?

「尊敬もできそうにない教師というか、大人に敬語はね」

「き、貴様!」

素直に言えば、青筋を立ててかなりキレているのがわかる。しかし、手が出ないだけまだ冷静ではあるようだ。口はうるさいけど。

「なんなら、あんたが走って見せてよ。はじめに強要するんだ。もっと早く走れるんだよね?先生」

「ぐ・・・っ私は年だからな!だが、若い頃は・・・」

「知ってる?男子の16歳の50メートルの平均値は7.39秒。はじめはそれより速い。お前は17歳から上達したようだけど、16歳は9秒代、女性の平均値より下回ることもあったようなのに、よく言えるね?」

「う、嘘っぱちを!」

「証拠なら用意できるけど?」

一応調べておいた情報が役立った。まあ、こんな情報なくてもいくらでも追い詰めるけど。全く嘘っぱちはどちらか。若い頃自慢を嘘に塗り固めるのはよろしくない。

ただの教師なんて簡単に過去を調べて知ることができるのだから。

「嫉妬も大概にしないと、夜道が大変ですよ?」

「い・・・っ」

「あ、先生、怪我してますね。急にどうしたんでしょう?」

「ち、近寄るな!」

素早く教師の頬を傷つけたのはもちろん僕。素人には見えない動きだったろう。教師は何が起こったか理解できなくとも、僕が何かしたのは急に変わった言葉遣いや、言葉から感じた様子で怯えたように僕が近づけば同じ分だけ離れる。

その間にも教師の服が切れ、かすり傷が増えていく。周囲の視線は気にしない。どうせ僕が何をしているかなんて見えないのだから。

教師は離れているのになんでと目が泳ぎ、恐怖に揺らいでいる。

「ぜろ、体力テスト続きしないと」

「・・・そうだね」

肩を叩いて止めたのははじめ。はじめの言葉に間を置いて微笑んで答えればかすり傷の嵐は終わりを告げた。明らかにほっとした教師に今一度振り返れば、教師がびくりと肩があがる。

「今だけ許してあげるよ」

「ひぃっ」

翌日体育教師が代わったのは言うまでもない。ただニュースでは、一人の男性が行方不明になったと流れていた。
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