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第46話 襲撃者

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「《蹴散らすのです、リッ──!?》」

 アリスに向け斬りかかった〝マントの男〟に対し、アリスが何か魔力の感じる言葉を放ち、応戦をしようとするが……その言葉が途中で遮られる。

 その理由は簡単だ。

 そのが無くなったからだ。

 結果から言うと、隙を付き、躊躇ちゅうちょなくアリスに斬りかかった〝マントの男〟の鋭い刃が、アリスに届く事は無かった。

 その理由も簡単だ。

 その〝マントの男〟がアリスや周りに向け、わざわざ『私は此処に居ます。見つけてください』とばかりに叫んでる〝マントの男〟を……

 ──俺が〝魔力弾〟で撃ち抜いたからだ。
 
「がはッ!」

 ドバンッ! と、鈍い音を立て、ニ発の魔力弾が〝マントの男〟の肩と横腹に命中し──〝マントの男〟は、その勢いで近くの建物を巻き込みながら、大きく吹っ飛んで行く。

「アリス、怪我は無いか?」
「も、問題ないのです。それと助かったのです……」

「礼には及ばん。そもそも〝そこから動か無い代わりに守ってやる〟と言い出したのは俺だからな?」

 現にアリスは、俺がフィップと戦う前の状態から〝マントの男〟の襲撃に至るまでの間、律儀に一歩もそこから動いていない。

「それにしても何だ? さっきのマント野郎は?」

 さっきの〝マントの男〟はアリスを……
 いや、正確にはを狙っていた。

(噂の〝魔王信仰〟か? フォルタニアの話だと〝魔力を持つ人類〟の心臓を集めて、信仰する魔王や魔族に献上する、傍迷惑な奴等だと聞いているが……)

 それに確か、魔王はその心臓を喰らう事で、己の力を高める事ができるらしいな?

「私の心臓を狙って来たのですから。恐らくは〝魔王信仰〟とか言う集団の一人で、間違い無いのです」

 そっぽを向きながら話すアリスは、むぎゅーと、自身の両手に抱える、熊のぬいぐるみを強く抱き締めながら答える。

「──アリスお嬢様ッ! お嬢様、ご無事ですか!」
「急ぎ、お嬢様を襲撃した賊を引っ捕らえよ!!」
「ジャン執事長の到着まで何としても持ち堪えろ!」

(やっと、来たか……アーデルハイトの兵士共は……)

 少し前から、具体的には──フィップと俺がドンパチを始めて、少し経ったぐらいから〝アーデルハイト王国の兵士〟が、俺達の辺りを囲んでいた。

 なぜ、今まで出てこなかったかと言うと、
 恐らく、アーデルハイトのである、フィップが俺と戦っていたからだろう。

 下手に割り込んでも、邪魔になると判断したのだろうか? 取り囲んではいたものの、突撃して来る気配は無かった。

 だが、俺とドンパチやってたフィップが吹っ飛ばされ……そのタイミングを見計らったように現れ、明確な殺意を持ち、アリスを襲撃して来た〝マントの男〟を見て、大慌てで突撃して来たみたいだ。

 それにしても、遅すぎる気がするがな。

「おい、貴様、お嬢様から離れろッ!」

 と、先程から兵士の指揮を取っている、
 鎧を着た髭のおっさんが、俺に剣を向けてくる。

「──離れるのはお前達なのです。すぐにその剣を下ろすのです」

 低く、強めの声音でそう言い返したのはアリスだ。

「し、しかし……」
「聞こえなかったのですか? 私はその剣をと言ったのです。……次は無いのです」

「おい、取り合えず、俺はアリスに何か危害を加えるつもりは無いから……お前達はあれを警戒しろ? 思ったよりも厄介だそうだ──」

「「「ぐわぁッ!!」」」

 そんな声と共に〝マントの男〟を捕らえに行った、アーデルハイトの兵士達が、一斉いっせいに吹っ飛ばされて来る。

(吸血鬼が吹っ飛んだり、マントの襲撃者が吹っ飛んだり、兵士共が吹っ飛んだりと、異世界ってのは──こうも日常的に人が吹っ飛ぶのか? まあ、吸血鬼フィップとマント野郎を吹っ飛ばしたのは俺だけどさ……)

「──フヒッ! フヒヒヒヒヒヒ匕ヒッ! あぁ、痛い! ああ、肩が……腹が……痛いッ!!」

 兵士達が吹っ飛んできた方向の、瓦礫の中から、砂煙に紛れ、甲高かんだかく不気味な笑い声と共に〝マントの男〟が姿を現す。

「──総員! お嬢様を命に代えてもお守りしろ!」

「「「「「「ハッ!!」」」」」」

 マントの男は、俺の狙撃で、肩や横腹からは、少なくない量の赤い血が流れ出ており……どう見ても、左腕は通常じゃ考えられない方向にひしげていて、体全体も奇妙なまでに、傾きながら立っている。

 そんな状態で、甲高かんだかい声を上げ、ニヤけている。

 フォルタニアが〝魔王信仰〟に対して言っていた──。その言葉がよく似合う姿だ。

「アリス・アーデルハイトォ! お前の心臓をに持っていけば、俺様はあの方に誉めていただける! あぁ、痛いッ! 傷が痛いぃぃぃッ!」

「見た目は痛そうだが、お前のその甲高い声からは、とてもそうは思えねぇな?」

「あぁ、貴様、貴様ぁ、貴様ぁぁ! 千撃せんげき桃色の鬼ロサラルフの不在という、絶好の、絶好の俺様のチャンスの邪魔をしやがってぇ!」

 狂気染みた目だけをこちらに向けて、忌々しそうに、俺を睨んでくる〝マントの男〟は『殺す、殺す』とぶつぶつ呟いている。

「き、キモいのです……キモい……」

 ひしッと〝リッチ熊のぬいぐるみ〟を更に抱き締めるようにし、生理的に無理といった感じで、ドン引きなアリスちゃん王女は『キモい』を連呼している。

 ビュンッ!

「──ああッ? 誰がだって? それに、よくも楽しそうな様子のお嬢に水を差してくれたな?」

 上空から〝マントの男〟の目の前に、かなり機嫌の悪そうなフィップが降りてくる。

「フヒッ! 桃色の鬼ロサラルフぅ!」

 ザクリッ!! 

「ふは……?」

 ブシュッ!! 

 ──ボトリ……

 フィップは容赦無く〝マントの男〟の首をねる。

 そして〝マントの男〟の首がボトリ……と、生々しい音を立てながら地面が落ちると、直ぐに辺りに赤い鮮血が飛び散る。

「あまり、教育がいいとは言えないな?」

 アリス小さな子の前で斬首ざんしゅとは、
 お世辞にも教育がとは言え無いだろう。

「どの道、死刑だ。まともな話も期待できないしな」
「ごもっとも。──悪い、嫌な言い方をしたな? 確かに、アリスが危険に晒されるよりは全然マシだ」

 俺は落ちた首を見ながら──スキル〝見聞〟を使う。首が落ちているが。一応、死んでるかの確認だ。

 【人間ヒューマン】 ガルロ・ウィスベント
 【状態】 生

(──せいッ!? 生きてるのか?)

「おい、フィップ! まだ、生きてるぞ!」
「あ? なんだと!? ──チッ、まさか……!?」

 落ちた首をよく見ると、こちらに舌を出している。その舌には、紫色のヘンテコな文字のような物が刻まれており、怪しく光っている。

「ちッ、死に損ないが! ──〝光逆滝ノックアップ〟!」

 フィップが〝マントの男〟の首と胴体を、魔法で更に破壊するが──その前に〝マント男〟の舌が強く光り、爆発したような煙を上げる!

 すると黒い煙のような物が、モコモコと上がり……

 やがて、真っ黒な上半身だけの大きな人のような形になる──その口から、は紫の煙を吐いており、全身には最初と同じような不気味な黒い煙を纏っている。

 そしてコイツは先程までの、人間のサイズより遥かに大きい。
 比べるてみると、近くの家屋と同じぐらいある。

 それにまだ黒い煙がどんどん集まり、
 少しずつ、そのサイズが大きくなっていく。

(パッと見は、真っ黒の巨大な上半身だけの、人影お化けだな……この黒煙野郎……実体はあるのか?)

「ちッ、やはり〝禁術〟か! それに、この召喚術の契約術式──自分の命も魔力も全部喰わせたな? クソッ、これはあたしのミスだ! これが使えるって事は、コイツそれなりに名があったか──たくッ、面倒な事になったな。昼間だってのによぉ!!」

「──あの、口から出ている、黒紫の煙には注意するのです! あれは〝呪いカース〟なのですッ!!」
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