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第359話 シナノの家8

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「──夢?」

 酔ってきた様子のシナノの口から発せられた『私には夢があるんです』と言う言葉に俺は耳を傾ける。

「とは言え、人様から見れば小さな小さな夢です」
「夢があるってのは楽しいモンだぜ。死んだ俺の親父がよく言ってたな『仕事でも、恋でも、金でも、遊びでも、それこそ現状維持でもいい。夢を、目標を、目的を持って生きてみろ。楽しいから』ってな?」
「あ……ありがとうございます。そんな風に言われると思いませんでした。ですね」

「ああ、親父は……そうだな。だったよ。酒飲みで、ギャンブルが好きで、野球観戦が好きで、祭りが好きで、漫画が好きで、恋愛ドラマに年甲斐も無く泣いて、母さん思いで、俺と理沙を誰よりも大切に育ててくれた……ちゃらんぽらんな面も多々あったが、それでも、いつまで経っても親父には敵わねぇなぁ」

 酒をあおる。ああ、染みるなぁ、エルフ酒。
 親父にもこのエルフ酒を飲ませてやりたかった。

「話が逸れちまったな。シナノの夢、聞かせてくれよ? まあ、酒の肴ってワケじゃねぇけど」
「あ、私も聞いてみたいです!」
「そんなハードルを上げられても困りますよ? 言った筈ですが、人様から見れば小さな小さな夢なので」

「話してみろよ。言霊ことだま何て言葉もあるんだ。話したら夢に近づくかも知れねぇせ?」
「〝言霊〟はさっき話しに出た大聖女様の有名なスキルでしょう。一定以下の戦力の人間では大聖女様の言霊には身体が逆らえないとか言う……」
「え? あいつ、そんなスキル持ってんの?」

「大聖女様をあいつ呼ばわり……怖いもの知らずの無礼なお馬鹿さんなのか、それとも実はとても凄い人なのか、今の私では判断が付きません」
「あはは……私は後者だと思うかな。個人的にはね」

 クレハは本当に俺をフォローしてくれるな。
 ホント、クレハには感謝しかねぇな。
 家に居候させてくれるし、色々とフォローしてくれるし、二つ返事で逃亡旅にまで付いてきてくれるし。

「うーん、また逸れたな。まあ、話したくなければそれでいい。無理はすんな、気も使う必要も無い」
「あ、いえ、別に話すのは全然構いません」
「ちなみに夢の話は有料か?」

 シナノなら私の話を聞きたければ銀貨1枚です。
 とか普通に言いそう。いや、冤罪なんだけどさ。

「流石に自分の夢を話すのに一銭も取りませんよ。何か叶わなくなりそうじゃないですか! ……まあ、聞き手の方が自主的にくれるなら遠慮無く貰いますけど」

 意外とそういう所は分別を付けてるらしいシナノ。でも、自発的にくれるのは遠慮無く貰うらしい。
 貰えるものは貰う。シナノらしいな。
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