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前編
24.ボウシ族の子供に懐かれた(1)
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「きゃっ!な、なに、何_!?」
『何か』はエラのおへそにも届かない大きさで、がっしりとエラの足にしがみついて放さない。
「あー!!」
子供の声だ。落ち着いてよくみると、黒い何かは三頭身程度の大きさで真っ黒なマントに身を包んでいた。頭は大きな帽子を深く被って顔が見えない。本物のボウシ族の子供だ。
「う!あー!」
子供は意味のある言葉を発さず、「う」と「あ」をずっと叫び続けている。興奮した様子だった。
「チビ、そいつはボウシ族じゃないぞ。」
「あー!」
黒目は『チビ』をエラから引き剥がそうとするが、子供は嫌がってエラを放さなかった。
「チビは耳が聞こえないんだ。イシの事を同族だと思って喜んでるんだよ。」
「ぅあー!」
チビの顔は見えないが全身で喜んでいるのが伝わる。
「筆談すればいいんじゃ?」
「私達が字を書ける訳ないだろ。……そうか、お前はそういう利用価値もあるんだな。」
「あー!!」
チビはエラの足を放すと今度は手をぐいぐいひっぱってきた。
「え、ちょっと……。……私、子供苦手なの。どうすれば……。」
「チビちゃんはきっと一緒に食事がしたいんだよ。」
昇り藤は母親のように温かくチビに微笑んだ。昇り藤の口から「食事」という言葉が出てきた途端、不思議な事にエラのお腹がぐううっと痛くなった。なんでもいいから何かを口にいれたくなった。エラは昨晩から飲まず食わずで奔走していた事に気づいた。今まで自分が死ぬかどうかの瀬戸際だったから全然空腹に気がつかなかった。エラ達は食事をとる事にした。
食堂にいくともう既に二人『白い教会』のメンバーがいた。キッチンにももう一人誰かいるようだが、今本拠地にいるのはそれで全員のようだった。エラが食堂に入ると、『白い教会』の人達が訝しげに見てくるので居心地が悪かった。驚いた事に、黒目も居心地が悪そうだった。黒目はフリン牢獄を勝手に襲撃してしまったらしいので彼女は彼女で立場がないようだ。
食事は、正直エラは落胆した。
上級街で食べていた料理と比べてあまりにも質素で量が少なかったからだ。具がほとんどなく見るからに味の薄そうなスープや、道端に生えていそうな苦味の濃い葉野菜が出てきた。パンはなく代わりに何かパサパサした麦のような物があった。オートミールという物らしい。肉や魚もない。
勿論、エラが捕虜だから一人だけ粗末な料理が出されているのではない。皆同じような料理だった。むしろ、これだけ貧困な中で捕虜の自分にまで食べ物を与えてくれたのはありがたかった。
(「平民は困窮した生活を強いられている」と黒目が言っていたけど、本当に大変な生活をしていたのね……。)
平民の生活がどうなっているのかなんてエラは今まで知らなかった。知ろうともしなかった。ずっと、周りばかり気にして生きてきた人生だと思ってきたのに、何も知らなかったのだ。
お腹が小さくぐううっと鳴り、エラはとにかく食べようと慌ててスープをスプーンですくった。頭にカゴを乗せたままである事に気づき、一瞬カゴを取ろうか迷った。するとチビが帽子を片手で少しだけ上にずらして顔を隠したまま食べているのに気がついた。
食べづらそうだったが、エラも真似して頭のカゴを上にずらし、そしてスープをすすった。
「こんな物しか出せなくてごめんね。」
昇り藤が申し訳なさそうに謝った。
「い、いいえ、とても美味しいわ。捕虜の私にまで食事をふるまってくれてどうもありがとう。」
エラは慌てて言った。
「……無理しなくていいんだよ?」
「無理なんてしてないわよ。」
「それじゃあなんで泣いてるの?」
「…………………………………………………………………………え?」
昇り藤に言われて初めてエラは気づいた。
エラの目から涙が後から後から溢れていた。エラは口元以外はカゴで顔を隠しているのだが、それでもわかるくらいには涙を流していた。
(そんな……。な、なんで気がつかなったの……?)
エラは自分で自分が泣いている事に気づいていなかったのだ。
「ち、ちがっ……本当に美味しいと思って…うぇ…っ…。」
本心だった。
エラがすすったのはただの薄味のスープだ。
だが、世の中にこんなに美味しい物はないと思った。
今までにないほどエラが空腹だったからかもしれない。
スープがお腹に入っていくのを感じた時、エラの心は大きく動いた。
ずっと張り詰めていた緊張の系がふっと切れたように感じた。
「……っ……」
エラは必死に涙を止めようとしたが、止まらなかった。人が見ているのに、止める事ができなかった。
昇り藤は背中を丸めて静かに嗚咽をもらしているエラの肩にそっと小さな手をおいた。
「今日はもう疲れたでしょう。これを食べたらもう寝ましょう。」
エラは泣きながら小さく頷いた。
その後、ベッドで横になるとエラは嘘のようにすぐに眠りについた。夢も見ない深い眠りだった。
『何か』はエラのおへそにも届かない大きさで、がっしりとエラの足にしがみついて放さない。
「あー!!」
子供の声だ。落ち着いてよくみると、黒い何かは三頭身程度の大きさで真っ黒なマントに身を包んでいた。頭は大きな帽子を深く被って顔が見えない。本物のボウシ族の子供だ。
「う!あー!」
子供は意味のある言葉を発さず、「う」と「あ」をずっと叫び続けている。興奮した様子だった。
「チビ、そいつはボウシ族じゃないぞ。」
「あー!」
黒目は『チビ』をエラから引き剥がそうとするが、子供は嫌がってエラを放さなかった。
「チビは耳が聞こえないんだ。イシの事を同族だと思って喜んでるんだよ。」
「ぅあー!」
チビの顔は見えないが全身で喜んでいるのが伝わる。
「筆談すればいいんじゃ?」
「私達が字を書ける訳ないだろ。……そうか、お前はそういう利用価値もあるんだな。」
「あー!!」
チビはエラの足を放すと今度は手をぐいぐいひっぱってきた。
「え、ちょっと……。……私、子供苦手なの。どうすれば……。」
「チビちゃんはきっと一緒に食事がしたいんだよ。」
昇り藤は母親のように温かくチビに微笑んだ。昇り藤の口から「食事」という言葉が出てきた途端、不思議な事にエラのお腹がぐううっと痛くなった。なんでもいいから何かを口にいれたくなった。エラは昨晩から飲まず食わずで奔走していた事に気づいた。今まで自分が死ぬかどうかの瀬戸際だったから全然空腹に気がつかなかった。エラ達は食事をとる事にした。
食堂にいくともう既に二人『白い教会』のメンバーがいた。キッチンにももう一人誰かいるようだが、今本拠地にいるのはそれで全員のようだった。エラが食堂に入ると、『白い教会』の人達が訝しげに見てくるので居心地が悪かった。驚いた事に、黒目も居心地が悪そうだった。黒目はフリン牢獄を勝手に襲撃してしまったらしいので彼女は彼女で立場がないようだ。
食事は、正直エラは落胆した。
上級街で食べていた料理と比べてあまりにも質素で量が少なかったからだ。具がほとんどなく見るからに味の薄そうなスープや、道端に生えていそうな苦味の濃い葉野菜が出てきた。パンはなく代わりに何かパサパサした麦のような物があった。オートミールという物らしい。肉や魚もない。
勿論、エラが捕虜だから一人だけ粗末な料理が出されているのではない。皆同じような料理だった。むしろ、これだけ貧困な中で捕虜の自分にまで食べ物を与えてくれたのはありがたかった。
(「平民は困窮した生活を強いられている」と黒目が言っていたけど、本当に大変な生活をしていたのね……。)
平民の生活がどうなっているのかなんてエラは今まで知らなかった。知ろうともしなかった。ずっと、周りばかり気にして生きてきた人生だと思ってきたのに、何も知らなかったのだ。
お腹が小さくぐううっと鳴り、エラはとにかく食べようと慌ててスープをスプーンですくった。頭にカゴを乗せたままである事に気づき、一瞬カゴを取ろうか迷った。するとチビが帽子を片手で少しだけ上にずらして顔を隠したまま食べているのに気がついた。
食べづらそうだったが、エラも真似して頭のカゴを上にずらし、そしてスープをすすった。
「こんな物しか出せなくてごめんね。」
昇り藤が申し訳なさそうに謝った。
「い、いいえ、とても美味しいわ。捕虜の私にまで食事をふるまってくれてどうもありがとう。」
エラは慌てて言った。
「……無理しなくていいんだよ?」
「無理なんてしてないわよ。」
「それじゃあなんで泣いてるの?」
「…………………………………………………………………………え?」
昇り藤に言われて初めてエラは気づいた。
エラの目から涙が後から後から溢れていた。エラは口元以外はカゴで顔を隠しているのだが、それでもわかるくらいには涙を流していた。
(そんな……。な、なんで気がつかなったの……?)
エラは自分で自分が泣いている事に気づいていなかったのだ。
「ち、ちがっ……本当に美味しいと思って…うぇ…っ…。」
本心だった。
エラがすすったのはただの薄味のスープだ。
だが、世の中にこんなに美味しい物はないと思った。
今までにないほどエラが空腹だったからかもしれない。
スープがお腹に入っていくのを感じた時、エラの心は大きく動いた。
ずっと張り詰めていた緊張の系がふっと切れたように感じた。
「……っ……」
エラは必死に涙を止めようとしたが、止まらなかった。人が見ているのに、止める事ができなかった。
昇り藤は背中を丸めて静かに嗚咽をもらしているエラの肩にそっと小さな手をおいた。
「今日はもう疲れたでしょう。これを食べたらもう寝ましょう。」
エラは泣きながら小さく頷いた。
その後、ベッドで横になるとエラは嘘のようにすぐに眠りについた。夢も見ない深い眠りだった。
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