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後編

59.場面は切り替わり、王都では『白い教会』の生き残りが処刑されようとしていた......(1)

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「この者達、かの悪名高い『白い教会』の生き残りである!!」

 下級街の一画に設置された簡易処刑台の上で一人の兵士が声高に宣言した。処刑台には4人の男達が手足を縛られ座らされる。蜘蛛、神父、翡翠、そして、翡翠の父白銀だった。彼らはギルド『白い教会』屈指の戦士達だ。やっとの思いで魔獣の襲撃から逃れられたものの、疲弊したところを兵士達に捕まってしまった。そして、今日、処刑台の上で一人ずつ首をはねられる。大きな斧をもった処刑人が壇上に立つ。蛇の獣人の女だった。ギラギラとした目で『白い教会』の男達を見下ろしている。

 処刑台の上で、針鼠の側近にして『白い教会』の副リーダー蜘蛛は民衆を見下ろした。皆青い顔をして固唾をのんで見守っていた。
 革命が失敗したあの日から、この国ローフォードの状況は悪化した。いよいよ、南の国ヒートンとの戦争が始まったのだ。それに伴い、女王は民衆に重い税を課した。

「『白い教会』は人々から金を強奪し、暴虐の限りを尽くした!フリン牢獄襲撃の折には危険な犯罪者達を牢獄から解き放った!そして、先日、崖の上の処刑場にて多くの罪なき者の命を奪った!」

 女王は、公開処刑で起きた惨劇を全て『白い教会』の仕業であると主張し、『白い教会』はすっかり世間から悪者扱いされるようになった。

「ねえ、今何考えてんだい?」

 処刑人の蛇女が長い舌を出して蜘蛛に話しかけた。

「蛇であるアタシ、死ぬ寸前の人間から話を聞くのが大好きなんだ。『白い教会』に入ったこと後悔してる?針鼠を憎んでるかい?」

「……。」

 蜘蛛は黙ったままだ。だが、心の中でははっきりと答えた。

_違う。

 蜘蛛にとって『白い教会』は信念を共有する仲間達だった。そして、『白い教会』のリーダー針鼠は10近く年下だが、誰よりも尊敬する相手だった。
 最初は元王子だからリーダーをやっているだけのただのガキぐらいしか思っていなかった。剣の腕は確かだったが、口が悪いし蜘蛛の方が頭が回る。自分の方がリーダーに向いている、自分あってこその『白い教会』だと思っていた。だが、共に闘っていくにつれて、考えが変わった。あの人は誰よりも、慈しみの心を持っていた。決して表に出さなかったが仲間の死__巻き込まれた多くの人の死に傷ついていた。それでも目的のために前に突き進み続ける彼の姿に王としての器を見出したのだ。蜘蛛は針鼠をずっと眩しく思っていた。いつの間にか彼の信奉者になっていたのだ。
 相変わらず壇上では兵士が声高に嘘演説を続けた。

「『白い教会』のリーダーである針鼠は南の国ヒートンの手の者だ!王子であるなどと虚言を言い、この国を混乱に貶めようとした!」

「__違う!!」

 蜘蛛は思わず叫んだ。これには演説をしていた兵士だけでなく、他の捕まった仲間達も驚いていた。普段冷静な蜘蛛が感情的になって叫ぶ事など滅多にない。
 兵士は怒りで顔を真っ赤にし、蜘蛛の左頬を思い切り殴った。

「まだ歯向かう気か貴様!」

「針鼠はヒートンの者じゃない!この国を混乱させようとしたなんて嘘だ!あいつは、この国の王になるべき人間だ!」

「この国の王は現女王陛下をおいて他にない!貴様…余程早く死にたいようだな!いいか?針鼠は死んだんだ!崖の上から転落した!あの高さから落ちて生き延びられる奴などいない!」

「……。」

 蜘蛛は押し黙った。
_そうだ。針鼠は死んだのだ。『白い教会』の最後の希望は潰えたのだ。

「これより処刑を執り行う!」

 待ってました、と言わんばかりに蛇女が大きな斧を持ち上げる。
 最初に処刑するのは___蜘蛛だ。
 蛇女は蜘蛛の前に立ち、耳に口を近づけて囁いた。

「『針鼠はヒートンのスパイだ。『白い教会』はこの国を滅ぼさんとするテロ集団だった。』って言えば、助けてやっても良いんだよ?」

「助ける気なんかないだろ。生き恥はさらしたくない。さっさと殺せ。早く仲間の元へ行きたい。」

 蛇女はつまらなそうにため息をつくと、斧を天高く掲げた。



「__つまんねえなあ。これじゃ、全然盛り上がんねえよ。もっと観客を楽しませようって気になんねえの。」


 青年の声がした。声は凜として、よく響いた。

「だ、誰だ!?」

 困惑した兵士が叫ぶ。
 だが、蜘蛛達は声を聞いただけで彼が誰なのかわかった。どんなに聞きたいと思ってももう一生聞く事のない声だと思っていた。

 処刑台を見上げる民衆の中から一人、前へ一歩歩み出た。マントをかぶり、顔が見えない。

「___っ」

 蜘蛛は目頭が熱くなった。生きていたとわかっただけで嬉しくて涙がこぼれそうになる。

「例えば、世紀の大悪党共を、死んだはずの偽王子が解放するってのはどうだ?」

 男はマントを脱いだ。金髪碧眼の若い青年だった。

「金髪に碧い瞳……? 貴様……まさか……。」

 兵士の表情が一変し、怒りから警戒、あるいは恐怖に変わる。
__と、同時に、青年_針鼠が処刑台に飛び込んだ。素早くロングソードで兵士の首を掻っ切った。
 彼のロングソードは『魔法使いのうろ』にあったもので、針鼠の元々持っていた物よりも切れ味が良く、更にエラの魔法で強度を高めていた。
 兵士は処刑台から落ちて倒れた。民衆が悲鳴をあげ、一目散に逃げ出す。

「__リーダー!! ……死んだかと……。」

「ぉら、これ使って逃げろ。」

 針鼠はナイフを取り出すと、蜘蛛に手渡した。

「いんや、まさかあの針鼠が生きていたとはねえ!!」

 処刑人蛇女は目の前で仲間の兵士が殺されたにもかかわらず、高笑いした。ドカンッと針鼠の前に大きな斧をおろした。そして、懐から胸章を取り出し掲げた。月の刺繍があしらわれていた。

「__蛇であるアタシは、『歩く月』最強の戦士であり、『歩く月』の現ギルド長だ。アンタが『歩く月』にいた頃相当の手練れだったってきくよ。蛇であるアタシはずっと針鼠とやり合いてえと思ってたんだ!」

 蛇女は何事か呪文を唱えると、斧の先端からバチバチバチッ…と火花が飛び散る。先端から濁った紫の霧が出てきて、斧を包む。斧を魔法で強化したのだ。蛇女は魔法戦士だった。蛇女の斧の先端は尖っていて、杖のように使用できるようだ。

 逃げる民衆と入れ替わるようにして、『歩く月』の戦士達がやってくる。戦士達は、拘束を解いた蜘蛛達に襲い掛かった。

 蛇女は針鼠に斧を重く振り下ろした。強化したロングソードでも、この一撃をまともに受ければ簡単に折れてしまう。針鼠は瞬時に判断し、自身の重心を変えて受け流す。蛇女は重い攻撃の後であるにもかかわらず、信じられないスピードで針鼠を右へ左へと斬りかかった。針鼠は一撃目は身をかわし、二撃目はまともにロングソードで食い止めて後ろに吹き飛ばされる。体は処刑台の外へ投げ出される。頭から地面に直撃する_前に、片手をつきくるっと一回転して、地面に着地する。蛇女は長い舌をだしてニタッと笑うと、自分も処刑台から飛び降りた。巨大斧の重さでドンッと地面が一回揺れる。

「アンタあの歴代最強の男って言われてた4代目ギルド長をったんだろ?どんな強え奴かと期待してたんだけど、全然だねえ。動きが鈍いよ。それとも、まだこの間の傷が治りきってないんかい?まあ、崖の下に落ちて生きて帰ってきたってだけでも伝説もんだよなあ。」

 周囲では他の仲間達も敵から武器を奪い取り、応戦していた。だが、皆疲弊しきっており、劣勢だった。

「じき、増援が来る。ここで公開処刑すれば、『白い教会』の生き残りがまだ助けにくると思って待機させていたんだよ。まさか、死んだはずの針鼠が釣れるとは思わなかったけどねえ。」

 蛇女が笑うと、一緒になって周りの『歩く月』も下卑た笑い声をあげる。

「__針鼠、今度こそ終わりだよ。仲間と共に死にな!!」

_ドゴォッッ!!!

 瞬間、爆発音が響いた。
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