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後編
67.皆で酒盛りした夜、エラは再び針鼠の部屋に訪れた。すると…?(2)
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針鼠が長い耳を抑えていたが、その内我慢の限界が来た。
「ああ、もう悪かったって。呪いを解いて元の姿を取り戻せばいいだけじゃん。元の姿にもどれなくても、色々研究してさ、元の姿取り戻せる魔法を探せばいい。俺もそん時生きてたら手伝ってやらなくもないよ。」
針鼠が謝ると、エラは泣くのをやめた。
「『生きてたら』って……生きてなさいよ。女王を倒して、なんか闇の仕事とかしてしっかり生きていきなさいよ。」
「どうだか。」
針鼠は皮肉な笑みを浮かべる。
「時々、声が聞こえるんだ。母の苦痛の叫び声だけじゃない。人々の_俺の殺してきた人間や死なせてしまった仲間達の憎しみの声だ。寝るたびに枕元に立っては、『殺してやる』と囁かれる。たとえ女王を倒し、復讐をとげたとしても、俺はそう長くは生きる事ができないだろう。それに、安らかには死ねないだろうな。」
「……。」
針鼠は手持ち無沙汰になったのか、また読んでいた本を読み始める。
エラは自分の命については諦めていた。だが、目の前の自分より4つも年下のこの少年にはどうにか生きていて欲しかった。エラは彼が過去にどれだけの人を犠牲にしてきたのかわからない。それでも、彼には過去に囚われずに生きていて欲しかった。自分はそれを見守る事ができない事が何よりも悔しかった。
ふと、本を読んでいる彼の姿を眺めていると、足元に目が言った。毛布で隠れているがそわそわと足を動かしている。
「足、どうしたの?」
「……痛い。」
「怪我?」
「……いや。」
針鼠は否定する。怪我でなく、ただ足が痛む。エラは何の症状か、なんとなく思いついた。
「もしかして成長痛、とか?」
「……。」
針鼠は無言で首を縦に振った。なんだかまた不機嫌そうになる。子供扱いされると思ったのかもしれない。
だが、エラはそんな事は考えていないし、どうでもよい。
なんとも言えぬ大きな感情がエラを突き動かした。
エラは思わず針鼠に抱きついた!
「え、……なッ!?」
「あなたは生きる事に希望を持っていないのかもしれない。……でもあなたの体は!! そうやって生きたいって言ってるのよ! 一生懸命骨を痛めつけて伸ばして、生きたい生きたいって言ってるのよ!!」
「いやもう意味わかんねえよ……。」
「ぶえええ!!」
針鼠はエラの腕の中でやれやれと疲れた顔をする。
「……鼠太郎。」
「……その呼び方で呼ぶな。」
「どうしてよ。白銀さんだってそう呼んでるじゃない。それにあなただって私の事馬鹿にする時『おねえちゃん』って言ってるわ。」
「……。」
針鼠はしばらく思い悩む動作を見せるが、意を決した様子でぽつりと言った。
「………………レイフだ。」
「……え?」
「レイフ・リー・ロエ。俺の本名だ。……二人の時ぐらいだったらそう呼んでも構わない。」
「……いいの? 私魔女なのよ? 名前なんて教えちゃって。」
「いいよ、別に。」
他人に_しかも魔法使いに、本名を教える事の重みを針鼠がわかっていない訳ではないはずだ。名前を教えてしまったが最後、エラのように呪われる事だってある。それでもエラに名前を教えたのはエラの事を針鼠が信頼している証拠だ。エラはなんだか嬉しくてたまらなくなった。
「……レイフ、レイフかぁ。レイフ、……レイフ太郎、……鼠太郎………馬鹿太郎……?? プクク……変な名前。」
「お前実は酔ってるだろ。」
針鼠はここでようやくエラが酔っている事に気づいた。酒のせいでいつも以上に感傷的になっていたのだ。
(こりゃ明日には俺の名前忘れてんだろうな……。)
針鼠はエラの腕の中で深いため息をついた。
「レイフ、あなたは愛されてるわ。」
「……うん。」
「私も、大好きよ。」
「……。」
酔っ払った大人に絡まれて面倒臭いはずなのに、針鼠の心は温かかった。
その後、眠りについた酔っ払いを引き剥がすのはしばらく経っての事だった。
「ああ、もう悪かったって。呪いを解いて元の姿を取り戻せばいいだけじゃん。元の姿にもどれなくても、色々研究してさ、元の姿取り戻せる魔法を探せばいい。俺もそん時生きてたら手伝ってやらなくもないよ。」
針鼠が謝ると、エラは泣くのをやめた。
「『生きてたら』って……生きてなさいよ。女王を倒して、なんか闇の仕事とかしてしっかり生きていきなさいよ。」
「どうだか。」
針鼠は皮肉な笑みを浮かべる。
「時々、声が聞こえるんだ。母の苦痛の叫び声だけじゃない。人々の_俺の殺してきた人間や死なせてしまった仲間達の憎しみの声だ。寝るたびに枕元に立っては、『殺してやる』と囁かれる。たとえ女王を倒し、復讐をとげたとしても、俺はそう長くは生きる事ができないだろう。それに、安らかには死ねないだろうな。」
「……。」
針鼠は手持ち無沙汰になったのか、また読んでいた本を読み始める。
エラは自分の命については諦めていた。だが、目の前の自分より4つも年下のこの少年にはどうにか生きていて欲しかった。エラは彼が過去にどれだけの人を犠牲にしてきたのかわからない。それでも、彼には過去に囚われずに生きていて欲しかった。自分はそれを見守る事ができない事が何よりも悔しかった。
ふと、本を読んでいる彼の姿を眺めていると、足元に目が言った。毛布で隠れているがそわそわと足を動かしている。
「足、どうしたの?」
「……痛い。」
「怪我?」
「……いや。」
針鼠は否定する。怪我でなく、ただ足が痛む。エラは何の症状か、なんとなく思いついた。
「もしかして成長痛、とか?」
「……。」
針鼠は無言で首を縦に振った。なんだかまた不機嫌そうになる。子供扱いされると思ったのかもしれない。
だが、エラはそんな事は考えていないし、どうでもよい。
なんとも言えぬ大きな感情がエラを突き動かした。
エラは思わず針鼠に抱きついた!
「え、……なッ!?」
「あなたは生きる事に希望を持っていないのかもしれない。……でもあなたの体は!! そうやって生きたいって言ってるのよ! 一生懸命骨を痛めつけて伸ばして、生きたい生きたいって言ってるのよ!!」
「いやもう意味わかんねえよ……。」
「ぶえええ!!」
針鼠はエラの腕の中でやれやれと疲れた顔をする。
「……鼠太郎。」
「……その呼び方で呼ぶな。」
「どうしてよ。白銀さんだってそう呼んでるじゃない。それにあなただって私の事馬鹿にする時『おねえちゃん』って言ってるわ。」
「……。」
針鼠はしばらく思い悩む動作を見せるが、意を決した様子でぽつりと言った。
「………………レイフだ。」
「……え?」
「レイフ・リー・ロエ。俺の本名だ。……二人の時ぐらいだったらそう呼んでも構わない。」
「……いいの? 私魔女なのよ? 名前なんて教えちゃって。」
「いいよ、別に。」
他人に_しかも魔法使いに、本名を教える事の重みを針鼠がわかっていない訳ではないはずだ。名前を教えてしまったが最後、エラのように呪われる事だってある。それでもエラに名前を教えたのはエラの事を針鼠が信頼している証拠だ。エラはなんだか嬉しくてたまらなくなった。
「……レイフ、レイフかぁ。レイフ、……レイフ太郎、……鼠太郎………馬鹿太郎……?? プクク……変な名前。」
「お前実は酔ってるだろ。」
針鼠はここでようやくエラが酔っている事に気づいた。酒のせいでいつも以上に感傷的になっていたのだ。
(こりゃ明日には俺の名前忘れてんだろうな……。)
針鼠はエラの腕の中で深いため息をついた。
「レイフ、あなたは愛されてるわ。」
「……うん。」
「私も、大好きよ。」
「……。」
酔っ払った大人に絡まれて面倒臭いはずなのに、針鼠の心は温かかった。
その後、眠りについた酔っ払いを引き剥がすのはしばらく経っての事だった。
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