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Chapter.3 分かっているつもり
Act.2-01
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七緒のアパートで飲んだ翌日の午前中、高遠さんからメールが入った。その時、私はちょうど七緒のアパートを出て、佳奈子とも駅で別れたところだったのでまさに絶妙なタイミングだった。
こんにちは。
この間約束したメシだけど、明後日の夜はどうですか?
もちろん、都合が悪ければ無理にとは言いません。
会話している時とは違い、妙に畏まった内容だった。絵文字も顔文字もなく、見事なまでに文字だけで、こういうところも大人の男性なのだと妙に感心してしまった。
まだ電車は来ない。冷たい風が吹き抜ける中で、私はすぐに返事を打ち込んだ。
こんにちは。
明後日の夜、大丈夫です!
バイトも休みですから!
顔文字ぐらいは使おうと思ったものの、もしかしたらそういうのは好きじゃないかもしれないと思い、あえて使うのを避けた。ビックリマークも、入れてからやめた方が良かったかな、とちょっとだけ後悔した。
それから返事はすぐにきた。日曜日で休みだからというのもあるのかもしれない。
了解。
じゃあ、七時頃にK駅の北口改札前でどうですか?
K駅という指定に、ひとり納得した。その界隈には私の通っている大学とバイト先の書店がある。多分、私に気を遣ってくれているのだろう。
いいですよ。
では、七時にK駅でお願いします。
私も速攻で返事をすると、高遠さんからも、『よろしくお願いします』と返ってきた。メールとはいえ、終始敬語を崩さない当たり本当に真面目な人なのだとつくづく思う。
ふと、隣から視線を感じた。怪訝に思ってそちらを見ると、相手は慌てて目を逸らす。
その時、私は気付いた。どうやら、無意識に顔が歪んでいたらしい。だから目を逸らしたその人は、この女、大丈夫か? と気持ち悪くなったのかもしれない。
私は顔を引き締める。さり気なく頬を触って歪みをなくそうとしたのだけど、それがかえって不自然な行為に映っていたと思う。
そのうち、電車がホームへと滑り込んできた。車内に入り、座れる場所を確保すると、私はそのまま瞼を閉じた。
電車に揺られるうちに、意識もゆっくりと遠のいていった。
◆◇◆◇
高遠さんとの約束の日、私は待ち合わせよりも三十分早く駅に到着した。というより、元々大学の最寄り駅だから、学校が終わってから駅ビルの中をウロウロしながら時間潰しをしていた。
やはりとは思ったけれど、高遠さんはまだ来ていない。私は待たせることに罪悪感を覚えるから、高遠さんの姿がなかったことにホッとしていた。
指定の北改札の前で待っている間の私は、ずっと緊張をしていた。緊張しないのがおかしいとはいえ、こんなにドキドキしてしまうとこのまま卒倒してしまうのでは、なんて大袈裟なことまで考えてしまうほどだった。
何にしても、気を紛らわせた方がいい。そう思うも、特にやることも思い付かない。結局、適当に携帯を弄るも、それでも緊張感から解放されることはなかった。
こんにちは。
この間約束したメシだけど、明後日の夜はどうですか?
もちろん、都合が悪ければ無理にとは言いません。
会話している時とは違い、妙に畏まった内容だった。絵文字も顔文字もなく、見事なまでに文字だけで、こういうところも大人の男性なのだと妙に感心してしまった。
まだ電車は来ない。冷たい風が吹き抜ける中で、私はすぐに返事を打ち込んだ。
こんにちは。
明後日の夜、大丈夫です!
バイトも休みですから!
顔文字ぐらいは使おうと思ったものの、もしかしたらそういうのは好きじゃないかもしれないと思い、あえて使うのを避けた。ビックリマークも、入れてからやめた方が良かったかな、とちょっとだけ後悔した。
それから返事はすぐにきた。日曜日で休みだからというのもあるのかもしれない。
了解。
じゃあ、七時頃にK駅の北口改札前でどうですか?
K駅という指定に、ひとり納得した。その界隈には私の通っている大学とバイト先の書店がある。多分、私に気を遣ってくれているのだろう。
いいですよ。
では、七時にK駅でお願いします。
私も速攻で返事をすると、高遠さんからも、『よろしくお願いします』と返ってきた。メールとはいえ、終始敬語を崩さない当たり本当に真面目な人なのだとつくづく思う。
ふと、隣から視線を感じた。怪訝に思ってそちらを見ると、相手は慌てて目を逸らす。
その時、私は気付いた。どうやら、無意識に顔が歪んでいたらしい。だから目を逸らしたその人は、この女、大丈夫か? と気持ち悪くなったのかもしれない。
私は顔を引き締める。さり気なく頬を触って歪みをなくそうとしたのだけど、それがかえって不自然な行為に映っていたと思う。
そのうち、電車がホームへと滑り込んできた。車内に入り、座れる場所を確保すると、私はそのまま瞼を閉じた。
電車に揺られるうちに、意識もゆっくりと遠のいていった。
◆◇◆◇
高遠さんとの約束の日、私は待ち合わせよりも三十分早く駅に到着した。というより、元々大学の最寄り駅だから、学校が終わってから駅ビルの中をウロウロしながら時間潰しをしていた。
やはりとは思ったけれど、高遠さんはまだ来ていない。私は待たせることに罪悪感を覚えるから、高遠さんの姿がなかったことにホッとしていた。
指定の北改札の前で待っている間の私は、ずっと緊張をしていた。緊張しないのがおかしいとはいえ、こんなにドキドキしてしまうとこのまま卒倒してしまうのでは、なんて大袈裟なことまで考えてしまうほどだった。
何にしても、気を紛らわせた方がいい。そう思うも、特にやることも思い付かない。結局、適当に携帯を弄るも、それでも緊張感から解放されることはなかった。
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