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Chapter.10 逢えない時間を(高遠視点)
Act.1-01
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異様なまでの喉の渇きで目が覚めた。
室内はまだ、暗闇に包まれている。
普段ならばセミダブルベッドでひとりで寝ているのだが、今は隣で愛しい恋人が眠っている。
絢との出逢いは俺にとって運命的だった。大学時代から数年付き合ってきた女と別れてからは恋愛とは無縁に過ごしてきたというのに、何故、これほどまでに絢に惹かれてしまったのだろう。
絢とは十五も離れている。絢に恋心を抱いていると自覚した時は、自分が非常に危ない奴ではないかと不安になったこともあった。
けれど、好きだという想いはどうあっても止めようがなかった。だから、偶然絢が男に絡まれていた時、絶好の機会だと思った。もちろん、助けたいという正義感もあるにはあったが、絢の純真さに付け入ってやろうという下心もあった。
だからこそ、時おり、絢を騙しているような罪悪感に苛まれる。
絢はこんな俺でも受け入れてくれている。最初の頃はさすがに戸惑っていたけれど、今となっては絢の方が俺を引っ張ってくれている。本人には全くその自覚はないようだが。
俺は絢を起こさぬよう、そっとベッドから出た。そして、台所へ行くと、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、勢いのままに喉に流し込んだ。
喉の渇きが癒されてゆく。満たされた俺は、再びベッドへ戻った。
「……ん……」
絢から小さく呻く声が漏れ出た。かと思ったら、ゆっくりと瞼が開かれた。
「ごめん、起こすつもりはなかったんだけど……」
少々気まずさを覚えながら謝罪を口にすると、絢は、「いえ」と気怠そうに答えた。
「喉が渇いちゃって……。お水、貰ってもいいですか?」
「ああ、いいよ。持ってこようか?」
「大丈夫ですよ。自分で行って飲めます」
絢は小さく笑い、そろそろとベッドから抜け出した。俺と同じように冷蔵庫から水を出し、コップに注いで飲んでから、静かな足取りで戻って来た。
「高遠さん、ずっと起きてたんですか?」
まさかの問いに、俺は、「いやいや」と微苦笑を浮かべた。
「俺もついさっき目が覚めたばっかだよ。絢と同じように喉が渇いちゃってね」
「高遠さんも、お水飲んだんですか?」
「飲んだ」
傍から見たら、どうでも良い会話をしているふたりに映るかもしれない。しかし、そのどうでも良い会話をするひと時も、俺にとっては貴重な時間だった。
「――高遠さん、変なことを訊いていいですか……?」
絢がおもむろに口を開いた。
いったい何が訊きたいのだろう。俺は不思議に思いつつ、「どうぞ」と促してみた。
絢は少し躊躇っていた。しかし、意を決したように質問を投げかけてきた。
「高遠さんは昔、どんな恋愛をしてたんですか……?」
俺の心臓が跳ね上がった。予想外も予想外の質問だった。
暗がりの中でも、絢が俺に真っ直ぐな視線を注いでいるのが分かる。むしろ、暗いからこそジッと見つめることが出来たのか。
俺は答えに窮した。何故、絢が俺の過去の恋愛について知りたいと思ったかは分からない。しかし、本人は至って真剣であろうことは伝わった。
「どうしてそんなこと知りたいの?」
出来る限り、やんわりと訊き返す。
絢は少し間を置き、「気になるから……」と言葉を紡いだ。
「私は高遠さんが初めてだけど、高遠さんはそうじゃない。――多分、過去の人を相手に結婚を意識したことだって、あったんでしょ……?」
ここまで自分の想いをぶつけてくる絢は珍しかった。俺の方がよほど不安だと思っていたが、もしかしたら、絢も絢で不安を感じていたのだろうか。もちろん、不安にさせないように努力してきたつもりだったが、知らず知らずのうちに淋しい思いをさせていたのかもしれない。
室内はまだ、暗闇に包まれている。
普段ならばセミダブルベッドでひとりで寝ているのだが、今は隣で愛しい恋人が眠っている。
絢との出逢いは俺にとって運命的だった。大学時代から数年付き合ってきた女と別れてからは恋愛とは無縁に過ごしてきたというのに、何故、これほどまでに絢に惹かれてしまったのだろう。
絢とは十五も離れている。絢に恋心を抱いていると自覚した時は、自分が非常に危ない奴ではないかと不安になったこともあった。
けれど、好きだという想いはどうあっても止めようがなかった。だから、偶然絢が男に絡まれていた時、絶好の機会だと思った。もちろん、助けたいという正義感もあるにはあったが、絢の純真さに付け入ってやろうという下心もあった。
だからこそ、時おり、絢を騙しているような罪悪感に苛まれる。
絢はこんな俺でも受け入れてくれている。最初の頃はさすがに戸惑っていたけれど、今となっては絢の方が俺を引っ張ってくれている。本人には全くその自覚はないようだが。
俺は絢を起こさぬよう、そっとベッドから出た。そして、台所へ行くと、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、勢いのままに喉に流し込んだ。
喉の渇きが癒されてゆく。満たされた俺は、再びベッドへ戻った。
「……ん……」
絢から小さく呻く声が漏れ出た。かと思ったら、ゆっくりと瞼が開かれた。
「ごめん、起こすつもりはなかったんだけど……」
少々気まずさを覚えながら謝罪を口にすると、絢は、「いえ」と気怠そうに答えた。
「喉が渇いちゃって……。お水、貰ってもいいですか?」
「ああ、いいよ。持ってこようか?」
「大丈夫ですよ。自分で行って飲めます」
絢は小さく笑い、そろそろとベッドから抜け出した。俺と同じように冷蔵庫から水を出し、コップに注いで飲んでから、静かな足取りで戻って来た。
「高遠さん、ずっと起きてたんですか?」
まさかの問いに、俺は、「いやいや」と微苦笑を浮かべた。
「俺もついさっき目が覚めたばっかだよ。絢と同じように喉が渇いちゃってね」
「高遠さんも、お水飲んだんですか?」
「飲んだ」
傍から見たら、どうでも良い会話をしているふたりに映るかもしれない。しかし、そのどうでも良い会話をするひと時も、俺にとっては貴重な時間だった。
「――高遠さん、変なことを訊いていいですか……?」
絢がおもむろに口を開いた。
いったい何が訊きたいのだろう。俺は不思議に思いつつ、「どうぞ」と促してみた。
絢は少し躊躇っていた。しかし、意を決したように質問を投げかけてきた。
「高遠さんは昔、どんな恋愛をしてたんですか……?」
俺の心臓が跳ね上がった。予想外も予想外の質問だった。
暗がりの中でも、絢が俺に真っ直ぐな視線を注いでいるのが分かる。むしろ、暗いからこそジッと見つめることが出来たのか。
俺は答えに窮した。何故、絢が俺の過去の恋愛について知りたいと思ったかは分からない。しかし、本人は至って真剣であろうことは伝わった。
「どうしてそんなこと知りたいの?」
出来る限り、やんわりと訊き返す。
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「私は高遠さんが初めてだけど、高遠さんはそうじゃない。――多分、過去の人を相手に結婚を意識したことだって、あったんでしょ……?」
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