Blissful Kiss

雪原歌乃

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Chapter.10 逢えない時間を(高遠視点)

Act.1-02

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 俺はしばらく考えた。しかし、だんまりを決め込むのも違うと思い直し、意を決して答えることにした。
「絢の言う通り、俺は過去に付き合った女はいたよ。ただ、とっくの昔に関係は終わってるし、今も全く未練はない。結婚を意識したかどうかだけど、それも否定しない」
「――トシの近い人だったんですか?」
「そこまで訊くの? まあ、同期だったからね……」
 言いながら、とっくに忘れたはずの過去の女のことが脳裏に浮かぶ。
 おっとりとした可愛い系の絢とは対照的な、少し気の強い美人系だった。でも、変に脆いところもあり、忙しくて逢うのが難しいと言えば、酷く泣きながら罵られた。今考えると、非常に面倒臭い女だったが、そんな女でも俺は確かに好きだった。
「絢とはまるっきりタイプの違う女だったな」
 絢が望んでいるかどうか分からなかったが、俺は過去の女のことをおもむろに話し始めた。
「ちょうど絢ぐらいの時だね。友人に強引に合コンに連れてかれて、そこでたまたま知り合ったのが元カノだった。俺は全く乗り気じゃなかったんだけど、元カノはどうやら男と別れて間もなかったらしくてね。その男ってのが、ちょっと俺に似てたらしい。で、そこからあれやこれやあって付き合うことになった」
 〈あれやこれや〉の詳細についてはあえて伏せた。はっきり言ってしまえば、元カノとは身体の関係から始まったのだが、さすがにそんなことは絢相手には口が裂けても言えない。
「――どうして別れたんですか?」
 絢は俺に真っ直ぐな視線を注ぎながら訊ねてきた。
「フラれたんだよ。他に好きな人が出来た、ってね」
 こっちとしては過去も過去のことだし、当然全く未練も残っていないのだが、絢は何故か気まずそうに、「ごめんなさい」と謝罪を口にしてきた。
「嫌なこと、想い出させちゃいましたね……」
「別にそんなことはないよ」
 俺は口許に弧を描きながら、絢の髪にそっと触れた。
「俺も俺で、当時は元カノに構ってやれる余裕がなくなってたからね。とにかく、仕事が多忙で必死だった。そんな状況だったから、俺達の間はずっとギクシャクしていた。ズルズルと付き合っていたけれど、どっちも疲れてしまったのかもしれない。それに何より、元カノは俺以上に結婚願望が強かったからね。何のリアクションも起こさない俺にも愛想が尽きたんだろうな」
 俺の話に黙って耳を傾けていた絢が、顔を埋めてきた。
 俺はそんな絢を強く抱き締めた。本当に華奢な身体をしているな、と改めて思う。
「――私は」
 俺の胸の中で、絢がおもむろに口を開いた。
「高遠さんに愛想を尽かすなんて、絶対にないですから……」
 俺は何も言わず、ただ絢を包み込む。心なしか、絢がいつもよりも甘えてきているような気がする。
「私、わがままも絶対言いません。私は社会人じゃないですけど、高遠さんの大変さは少しでも分かる気がします。困らせたりしないから、だから……」
 元カノと自分は違うことを強調したかったのだろうか。もちろん、絢がわがままだと思ったことは一度もない。むしろ、わがままを言わなさ過ぎて、逆に心配になるほどだ。
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