拝啓、愛しい『悪女』のお姉様へ

お姉様の葬儀

体が昔元気だったように、とても軽く動けるようになった頃、突然悲報を聞かされる。

「……もう一度言いなさい。冗談だったら、お前の舌を切るわよ」

「…スピカお嬢様、冗談でございません……！
アリアお嬢様が……昨夜お亡くなりに…なりました」

そう私に告げるメイド達は沢山の涙を流して泣いていた。

は？亡くなった？誰が？

「…とにかく…姉様に会わなきゃ…王都へ行くわよ！」

「でもスピカお嬢様はまだ体が元気になったばかりでーー」

「いいから！早く！」

私は急いで王都の屋敷へと戻った。葬儀が行われているであろう教会へ行くと、異様な雰囲気を感じた。

だって誰もいないんだもの。

教会も王都一教会ではなく、王都から離れた片隅での小さな教会で葬儀を行われていた。

公爵家であるウィンチェスター家が？！

殺風景な葬儀の中、年老いた庭師のチャイルズがいた。それと見知らぬ新人であろうメイドだけしかおらず、二人は泣いていた。

「……アリアお嬢様…うぅ…」

「チャイルズ！姉様はどこ！？」

「ス、スピカお嬢様！？え、何故ーー、お身体は…」

「私が質問をしているのよ、答えなさい」

「……なんとも…大きくなられましたな。いや、その前に…スピカお嬢様……話を聞いてくださいませ」

庭師のチャイルズは顔を青ざめながら、案内をしてくれた。

黒い棺桶の中には……あぁ…信じたくない。みんな嘘と言って……あんなに会いたかった姉様が……

「……アリアお姉様……」

愛しい愛しいアリアお姉様が死んでいた。
そして私が知らない、聞いていない話をメイドは話す。


婚約者であったマルクス王子に婚約破棄をされた事、そして屋敷内ではこの二人以外、味方はおらず全員義弟のリゲルの言う事しか聞かないという、わけのわからない話を私は聞いた。

義弟、ね。アリア姉様が王太子の婚約者として決まり、私がもう領地で療養し始めた頃に
養子としてきたのよね。

「悪役令嬢？なにそれ」

「私にはよくわかりませんが学園でそう呼ばれていたようです」

天使や女神様の間違いじゃいの？悪役令嬢とか、意味わからないネーミングセンスね。

…あ、でも…前世でよく世間で流行ってたかも。ゲームやら小説やらで、アニメ化とかになってたけど、私はあまり興味なかったから見てないのよね。

「……それでお義母様と馬鹿息子は来てないというのね。ん？待ちなさい。あの駄犬、いえ、執事のジャックは？いないわ」

私がキョロキョロと周りを見渡すと、三つ編みでそばかす顔のメイドは私の顔をチラッと見てから下を見て話す。

「ジャックさんは……何故かアリアお嬢様を殺したのではないかと疑われ囚われて……」

「そんな馬鹿な話……ハッ、冗談じゃなさそうね」

ジャックが？そんな筈がない、ジャックは姉様の忠実な……執事なのだから。

私は深く息を吸って、もう一度棺桶の中にいる姉様を見つめる。

「……アリア姉様……会いたかった。だけど…色々と調べる必要があるみたいね」

私は涙を沢山流しながら。そっと姉様の額にキスをした。

「……っ…。二人共、今日の葬儀に私が来たことをまだ誰にも言わないように」

「「は、はい」」

明後日になると葬儀は最後に遺体を燃やす。

「……ジャックが必要だわ」

ジャックが一番細かい事を知っている筈、だけどその前に……もう一度領地へ戻らないと。

そう私はもう一度、目を瞑っているアリア姉様の顔を見て馬車に戻った。