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第三章 二人の会話
26.ファースト・スイート・キス
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むさぼるように激しく絡め、だるく痺れるまで存分に味わうと、俊成君の口は離れていった。名残を惜しむように唾液が糸を引いて、口元に落ちかかった瞬間に舐めとられる。そのままの勢いでもう一回口付けられると、下唇を甘噛みされて、最後にちゅっと音をたてて吸われた。
「も、駄目……」
完全に力が抜けてしまい、ずるずると床にへたり込む。唇がじんじんする。舌が上手く動かない。
「駄目?」
楽しそうに微笑みながら、俊成君が目線を合わせるようにかがみこんだ。これ以上ないというくらいの甘い表情。こんな顔をしてあんなキスをするんだと思ったら、恥ずかしくなって目があわせられなくなってしまった。
「俊成君、なんかいつもと違う」
照れ隠しについ可愛くない事を言ってしまう。でも、感じる違和感は本当だ。確実にこの目の前にいる人は俊成君なのに、優しく甘くされればされるほど、これが現実の出来事なのかわからなくなってしまう。正直言って戸惑っていた。
俊成君はそんな私の台詞を流そうとはせずしばらく考え込んでから、ああと小さくつぶやいた。
「今、素直になっているから」
「誰が」
「俺。別に自分の気持ちを隠す必要無いだろ?」
そういってにっこり笑う。その笑顔は保育園のときの、何も考えずにただ一緒にいたころと同じだった。
ずっと、そばにいる。
さっきの俊成君の言葉を思い出して胸が震える。別の世界のように思えた彼の甘い表情が、一気に懐かしいものに感じられた。
「あず」
呼びかけられ、頬を寄せられる。その仕草がなんだかコロにちょっと似ていて、気が付いたら私は俊成君の頭をかかえるように抱きしめていた。
「あず」
あんまり嬉しそうに呼びかけるから、余計に私が照れてしまう。分かってやっているのかな? 分かってやっているんだろうな、俊成君のことだから。
「あ、あのね」
彼の呼吸を胸元で受け止めて、自分のやたらどきどきしている心音が聞かれているかもしれないことに気が付いた。なんとか誤魔化したくて、思いついた疑問を口にする。
「もしかして俊成君、キス上手?」
未知の世界に飛び出して、最初のキスでここまで翻弄されると思わなかった。世の中の人たちはみんなこんな刺激的な事をしてるのかな。よく分からなかっただけなのに、俊成君は勢いよく頭を上げて真っ直ぐに見つめてくる。
「キスしたことあるのか、あずは?」
「ううん。ない、けど……」
「初めて?」
「……うん」
ファースト・キスだと思っていた圭吾とのことは、この際横に置いてみた。こんなキスした後だと、とてもじゃないけど同列には語れない。でも、今まで何も経験がなかったと言い切るのも、なんだかちょっと悔しい。
俊成君はそんなふうに揺れる私の表情をじっと見つめると、ふいに優しく微笑んだ。
「あずの初めての相手が俺で、嬉しいんだ」
「俊成君……」
「優しくしたい。気持ち良くなって欲しい。その顔を俺だけに見せてよ、あず」
そういって私の頬に手を触れると、そっと撫で上げた。優しくて、繊細で、でもそれだけでは済まされない何かを潜んだ手の動き。俊成君の目は細められ、真っ直ぐに私を見ている。そんな彼の表情を見ていたら、荒々しいまでの欲望が自分の中に渦巻いた。
俊成君に、抱かれたい。私に触れて。もっと近付いて。
体の奥のほうで熱がこもる。せつないうずきが下半身に起こっていた。
好きって気持ちだけではもう足りないんだ。心だけじゃなくて、体だって俊成君を求めている。
「好きなの。俊成君のことが。だから……」
けれどせっかく勇気を出したのに、それ以上がいえなくてぎゅっと目をつむった。恥ずかしくって、死ぬんじゃないかと思った。緊張とか羞恥とか、あとやっぱりこれから起こることへの恐怖とか。そんなものに支配されて、自分の欲望を素直にさらけ出すことが出来ないでいる。
体をこわばらせて黙っていると、俊成君の腕が回りこんで急に抱きかかえられた。
「うわ。あ、あの」
そのままベッドに運ばれて、ゆっくりと下ろされた。
「電気、消す?」
「え、あ、うん」
妙にてきぱきと事を進める俊成君にびっくりして、ぼんやりと目で追った。照明が落とされるけれど、電気ストーブの明かりで部屋の中が完全な闇になることは無い。俊成君は私に近付くとそっとキスをして、耳もとで囁いた。
「大切にするから」
その言葉と共に、私は服を脱がされていった。
「も、駄目……」
完全に力が抜けてしまい、ずるずると床にへたり込む。唇がじんじんする。舌が上手く動かない。
「駄目?」
楽しそうに微笑みながら、俊成君が目線を合わせるようにかがみこんだ。これ以上ないというくらいの甘い表情。こんな顔をしてあんなキスをするんだと思ったら、恥ずかしくなって目があわせられなくなってしまった。
「俊成君、なんかいつもと違う」
照れ隠しについ可愛くない事を言ってしまう。でも、感じる違和感は本当だ。確実にこの目の前にいる人は俊成君なのに、優しく甘くされればされるほど、これが現実の出来事なのかわからなくなってしまう。正直言って戸惑っていた。
俊成君はそんな私の台詞を流そうとはせずしばらく考え込んでから、ああと小さくつぶやいた。
「今、素直になっているから」
「誰が」
「俺。別に自分の気持ちを隠す必要無いだろ?」
そういってにっこり笑う。その笑顔は保育園のときの、何も考えずにただ一緒にいたころと同じだった。
ずっと、そばにいる。
さっきの俊成君の言葉を思い出して胸が震える。別の世界のように思えた彼の甘い表情が、一気に懐かしいものに感じられた。
「あず」
呼びかけられ、頬を寄せられる。その仕草がなんだかコロにちょっと似ていて、気が付いたら私は俊成君の頭をかかえるように抱きしめていた。
「あず」
あんまり嬉しそうに呼びかけるから、余計に私が照れてしまう。分かってやっているのかな? 分かってやっているんだろうな、俊成君のことだから。
「あ、あのね」
彼の呼吸を胸元で受け止めて、自分のやたらどきどきしている心音が聞かれているかもしれないことに気が付いた。なんとか誤魔化したくて、思いついた疑問を口にする。
「もしかして俊成君、キス上手?」
未知の世界に飛び出して、最初のキスでここまで翻弄されると思わなかった。世の中の人たちはみんなこんな刺激的な事をしてるのかな。よく分からなかっただけなのに、俊成君は勢いよく頭を上げて真っ直ぐに見つめてくる。
「キスしたことあるのか、あずは?」
「ううん。ない、けど……」
「初めて?」
「……うん」
ファースト・キスだと思っていた圭吾とのことは、この際横に置いてみた。こんなキスした後だと、とてもじゃないけど同列には語れない。でも、今まで何も経験がなかったと言い切るのも、なんだかちょっと悔しい。
俊成君はそんなふうに揺れる私の表情をじっと見つめると、ふいに優しく微笑んだ。
「あずの初めての相手が俺で、嬉しいんだ」
「俊成君……」
「優しくしたい。気持ち良くなって欲しい。その顔を俺だけに見せてよ、あず」
そういって私の頬に手を触れると、そっと撫で上げた。優しくて、繊細で、でもそれだけでは済まされない何かを潜んだ手の動き。俊成君の目は細められ、真っ直ぐに私を見ている。そんな彼の表情を見ていたら、荒々しいまでの欲望が自分の中に渦巻いた。
俊成君に、抱かれたい。私に触れて。もっと近付いて。
体の奥のほうで熱がこもる。せつないうずきが下半身に起こっていた。
好きって気持ちだけではもう足りないんだ。心だけじゃなくて、体だって俊成君を求めている。
「好きなの。俊成君のことが。だから……」
けれどせっかく勇気を出したのに、それ以上がいえなくてぎゅっと目をつむった。恥ずかしくって、死ぬんじゃないかと思った。緊張とか羞恥とか、あとやっぱりこれから起こることへの恐怖とか。そんなものに支配されて、自分の欲望を素直にさらけ出すことが出来ないでいる。
体をこわばらせて黙っていると、俊成君の腕が回りこんで急に抱きかかえられた。
「うわ。あ、あの」
そのままベッドに運ばれて、ゆっくりと下ろされた。
「電気、消す?」
「え、あ、うん」
妙にてきぱきと事を進める俊成君にびっくりして、ぼんやりと目で追った。照明が落とされるけれど、電気ストーブの明かりで部屋の中が完全な闇になることは無い。俊成君は私に近付くとそっとキスをして、耳もとで囁いた。
「大切にするから」
その言葉と共に、私は服を脱がされていった。
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