54 / 73
第三章 二人の会話
26.ファースト・スイート・キス
しおりを挟む
むさぼるように激しく絡め、だるく痺れるまで存分に味わうと、俊成君の口は離れていった。名残を惜しむように唾液が糸を引いて、口元に落ちかかった瞬間に舐めとられる。そのままの勢いでもう一回口付けられると、下唇を甘噛みされて、最後にちゅっと音をたてて吸われた。
「も、駄目……」
完全に力が抜けてしまい、ずるずると床にへたり込む。唇がじんじんする。舌が上手く動かない。
「駄目?」
楽しそうに微笑みながら、俊成君が目線を合わせるようにかがみこんだ。これ以上ないというくらいの甘い表情。こんな顔をしてあんなキスをするんだと思ったら、恥ずかしくなって目があわせられなくなってしまった。
「俊成君、なんかいつもと違う」
照れ隠しについ可愛くない事を言ってしまう。でも、感じる違和感は本当だ。確実にこの目の前にいる人は俊成君なのに、優しく甘くされればされるほど、これが現実の出来事なのかわからなくなってしまう。正直言って戸惑っていた。
俊成君はそんな私の台詞を流そうとはせずしばらく考え込んでから、ああと小さくつぶやいた。
「今、素直になっているから」
「誰が」
「俺。別に自分の気持ちを隠す必要無いだろ?」
そういってにっこり笑う。その笑顔は保育園のときの、何も考えずにただ一緒にいたころと同じだった。
ずっと、そばにいる。
さっきの俊成君の言葉を思い出して胸が震える。別の世界のように思えた彼の甘い表情が、一気に懐かしいものに感じられた。
「あず」
呼びかけられ、頬を寄せられる。その仕草がなんだかコロにちょっと似ていて、気が付いたら私は俊成君の頭をかかえるように抱きしめていた。
「あず」
あんまり嬉しそうに呼びかけるから、余計に私が照れてしまう。分かってやっているのかな? 分かってやっているんだろうな、俊成君のことだから。
「あ、あのね」
彼の呼吸を胸元で受け止めて、自分のやたらどきどきしている心音が聞かれているかもしれないことに気が付いた。なんとか誤魔化したくて、思いついた疑問を口にする。
「もしかして俊成君、キス上手?」
未知の世界に飛び出して、最初のキスでここまで翻弄されると思わなかった。世の中の人たちはみんなこんな刺激的な事をしてるのかな。よく分からなかっただけなのに、俊成君は勢いよく頭を上げて真っ直ぐに見つめてくる。
「キスしたことあるのか、あずは?」
「ううん。ない、けど……」
「初めて?」
「……うん」
ファースト・キスだと思っていた圭吾とのことは、この際横に置いてみた。こんなキスした後だと、とてもじゃないけど同列には語れない。でも、今まで何も経験がなかったと言い切るのも、なんだかちょっと悔しい。
俊成君はそんなふうに揺れる私の表情をじっと見つめると、ふいに優しく微笑んだ。
「あずの初めての相手が俺で、嬉しいんだ」
「俊成君……」
「優しくしたい。気持ち良くなって欲しい。その顔を俺だけに見せてよ、あず」
そういって私の頬に手を触れると、そっと撫で上げた。優しくて、繊細で、でもそれだけでは済まされない何かを潜んだ手の動き。俊成君の目は細められ、真っ直ぐに私を見ている。そんな彼の表情を見ていたら、荒々しいまでの欲望が自分の中に渦巻いた。
俊成君に、抱かれたい。私に触れて。もっと近付いて。
体の奥のほうで熱がこもる。せつないうずきが下半身に起こっていた。
好きって気持ちだけではもう足りないんだ。心だけじゃなくて、体だって俊成君を求めている。
「好きなの。俊成君のことが。だから……」
けれどせっかく勇気を出したのに、それ以上がいえなくてぎゅっと目をつむった。恥ずかしくって、死ぬんじゃないかと思った。緊張とか羞恥とか、あとやっぱりこれから起こることへの恐怖とか。そんなものに支配されて、自分の欲望を素直にさらけ出すことが出来ないでいる。
体をこわばらせて黙っていると、俊成君の腕が回りこんで急に抱きかかえられた。
「うわ。あ、あの」
そのままベッドに運ばれて、ゆっくりと下ろされた。
「電気、消す?」
「え、あ、うん」
妙にてきぱきと事を進める俊成君にびっくりして、ぼんやりと目で追った。照明が落とされるけれど、電気ストーブの明かりで部屋の中が完全な闇になることは無い。俊成君は私に近付くとそっとキスをして、耳もとで囁いた。
「大切にするから」
その言葉と共に、私は服を脱がされていった。
「も、駄目……」
完全に力が抜けてしまい、ずるずると床にへたり込む。唇がじんじんする。舌が上手く動かない。
「駄目?」
楽しそうに微笑みながら、俊成君が目線を合わせるようにかがみこんだ。これ以上ないというくらいの甘い表情。こんな顔をしてあんなキスをするんだと思ったら、恥ずかしくなって目があわせられなくなってしまった。
「俊成君、なんかいつもと違う」
照れ隠しについ可愛くない事を言ってしまう。でも、感じる違和感は本当だ。確実にこの目の前にいる人は俊成君なのに、優しく甘くされればされるほど、これが現実の出来事なのかわからなくなってしまう。正直言って戸惑っていた。
俊成君はそんな私の台詞を流そうとはせずしばらく考え込んでから、ああと小さくつぶやいた。
「今、素直になっているから」
「誰が」
「俺。別に自分の気持ちを隠す必要無いだろ?」
そういってにっこり笑う。その笑顔は保育園のときの、何も考えずにただ一緒にいたころと同じだった。
ずっと、そばにいる。
さっきの俊成君の言葉を思い出して胸が震える。別の世界のように思えた彼の甘い表情が、一気に懐かしいものに感じられた。
「あず」
呼びかけられ、頬を寄せられる。その仕草がなんだかコロにちょっと似ていて、気が付いたら私は俊成君の頭をかかえるように抱きしめていた。
「あず」
あんまり嬉しそうに呼びかけるから、余計に私が照れてしまう。分かってやっているのかな? 分かってやっているんだろうな、俊成君のことだから。
「あ、あのね」
彼の呼吸を胸元で受け止めて、自分のやたらどきどきしている心音が聞かれているかもしれないことに気が付いた。なんとか誤魔化したくて、思いついた疑問を口にする。
「もしかして俊成君、キス上手?」
未知の世界に飛び出して、最初のキスでここまで翻弄されると思わなかった。世の中の人たちはみんなこんな刺激的な事をしてるのかな。よく分からなかっただけなのに、俊成君は勢いよく頭を上げて真っ直ぐに見つめてくる。
「キスしたことあるのか、あずは?」
「ううん。ない、けど……」
「初めて?」
「……うん」
ファースト・キスだと思っていた圭吾とのことは、この際横に置いてみた。こんなキスした後だと、とてもじゃないけど同列には語れない。でも、今まで何も経験がなかったと言い切るのも、なんだかちょっと悔しい。
俊成君はそんなふうに揺れる私の表情をじっと見つめると、ふいに優しく微笑んだ。
「あずの初めての相手が俺で、嬉しいんだ」
「俊成君……」
「優しくしたい。気持ち良くなって欲しい。その顔を俺だけに見せてよ、あず」
そういって私の頬に手を触れると、そっと撫で上げた。優しくて、繊細で、でもそれだけでは済まされない何かを潜んだ手の動き。俊成君の目は細められ、真っ直ぐに私を見ている。そんな彼の表情を見ていたら、荒々しいまでの欲望が自分の中に渦巻いた。
俊成君に、抱かれたい。私に触れて。もっと近付いて。
体の奥のほうで熱がこもる。せつないうずきが下半身に起こっていた。
好きって気持ちだけではもう足りないんだ。心だけじゃなくて、体だって俊成君を求めている。
「好きなの。俊成君のことが。だから……」
けれどせっかく勇気を出したのに、それ以上がいえなくてぎゅっと目をつむった。恥ずかしくって、死ぬんじゃないかと思った。緊張とか羞恥とか、あとやっぱりこれから起こることへの恐怖とか。そんなものに支配されて、自分の欲望を素直にさらけ出すことが出来ないでいる。
体をこわばらせて黙っていると、俊成君の腕が回りこんで急に抱きかかえられた。
「うわ。あ、あの」
そのままベッドに運ばれて、ゆっくりと下ろされた。
「電気、消す?」
「え、あ、うん」
妙にてきぱきと事を進める俊成君にびっくりして、ぼんやりと目で追った。照明が落とされるけれど、電気ストーブの明かりで部屋の中が完全な闇になることは無い。俊成君は私に近付くとそっとキスをして、耳もとで囁いた。
「大切にするから」
その言葉と共に、私は服を脱がされていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる