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9. ひとりで出来るよ

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「分かった。婚活だ。婚活始めよう!」

 一瞬浮かびかけた姿を打ち消すため、がばっと顔を上げて、拳を固く握りしめた。

 人に無闇になにかを強請ってはいけないし、そう思わせるような言動もしてはいけない。瑛士とも、タカともそれで失敗をした。でもそれは、私の願いがぼんやりとし過ぎていたからだ。瑛士には中学生の頃はなんとなく誕生日を祝ってもらいたかったし、大人になってからはなんとなく一緒に居てもらいたかった。タカにはなんとなくの結婚だ。でも、明確な願いだったら?

 私は今切実に、一緒に居てくれる人を欲している。だったら目的が結婚の婚活をすればイイんだよ! 人と人とはギブアンドテイク。『一生独身』のタイトルは返上だ! 決心したならグズグズしていられない。すぐに家に帰って、婚活サイトに登録しよう。そうしよう。

 私は便座から立ち上がると、扉に手を掛けた。そのタイミングで、複数の女性の話し声が近付いて来る。化粧室に団体客が入ってきた。

「今日のラインナップ、どう思います?」
「結構いいとこ突いて来たよね」
「私もそう思った!」

 合コン、作戦タイム……?

 私の動きが止まる。確かにクリスマス直前。聖なる夜をカップルで過ごしたいなら、タイミング的に今、合コンをやっておいた方がいい。それにしても、ホテルで合コンとは豪勢な。

「というか、こんだけ高い会費払っているんだもん。いいとこ突いたのが来ないと、やってられなく無い?」
「確かに。一万五千円は高いわー。医者と弁護士限定だから仕方ないけど」
「でもって男の方は五千円でしょ? 絶対捕まえないと、割に合わない」
「ほんと、ほんと」

 ああこれ、婚活パーティか!

 ゴクリと唾を飲み込んで、私は個室から出ることなく聞き耳を立ててしまった。なんてタイムリー。彼女達は私のこれからの姿。しっかり聞いておかなければ。

「でも、一人余分なのいますよね?」

 誰かの言ったその一言で、その場の空気が一転した。

「……いるね。二十三歳ゆるふわぽわぽわ女子。一人だけ二十代って、なんの嫌がらせよ」
「サクラでしょ、あれ?」
「二十代前半が会費一万五千円なんて出さないって」
「私より一回り年下なんだけどー、あの娘」

 三十路半ばの本気婚活女子vs二十三歳サクラ疑惑女子か。これは、きっつい。

 どうなることかと固唾をのんで聞いていたら、一人の「あ……」という声が聞こえ、誰かが化粧室に入ってくる音がした。一瞬にして全員が黙り込む。状況的に二十三歳サクラ疑惑女子が来たのだろう。

「ねえ、北村さん」

 ゆっくりと様子を伺うような声で、一人がサクラ疑惑女子に呼びかける。

「今日の会費って、いくらだった?」

 ストレートな質問だ。

「えー、五千円です」

 確かにゆるふわぽわぽわな口調で、でもあっさりと彼女が答える。五千円って、さっきの話で行くと、男性の会費と同じか。その差、一万円。

「ふぅん」

 先程から一番はきはきした口調で話す女子がそうつぶやき、なぜか聞き耳を立てている私がドキドキした。これ、どうなるの?
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