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第六章 黒竜、王都へ行く

第三話 最低限の条件を突きつける

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 そうして、シェーラ達から「早速来週には王都へ行けるように手配なさい」と命令されたリヨンネ。
 リヨンネは「はい」と答えていたが、野生の青竜エルハルトと、黒竜シェーラを街へ連れていくことには、不安しか感じない。
 リヨンネが「人の街危険です。私が王都で注文をしてきますので、この山にいらして下さい」と言ったところ(頼み込んだところ)、シェーラは長い黒髪を掻き上げ、こう言った。

「ふん、人の街が危険だろうが関係ないわ。私は黒竜よ!!」

 そう何故か胸を張って気炎を上げていた。
 いや、黒竜が危険な目に遭うよりも、彼女に会ったのだ。
 なにせ呪いが十八番の黒竜である。

「シェーラ、人の街で騒動を起こすと暖房の魔道具が買えなくなります。それに魔道具店でいろいろな魔道具を見ることも出来なくなります」

 その言葉に、シェーラの眉がピクリと動いた。
 当たり前すぎることだが、シェーラには事前によく理解しておいてもらわないといけなかった。

「それに、人間達に貴方が(呪いが十八番の)黒竜だということが分かってしまうと、貴方への贈り物を今後贈る際にも、支障が出ます」

 シェーラへ事あるごとに、“可愛いもの、綺麗なもの”を箱一杯に贈っているリヨンネである。
 それがこの黒竜の大きな弱みであることをリヨンネは見抜いていた。

「…………それは凄く困るわ」

(ですよねー)

 その横で、青竜エルハルトが、彼は彼でどこか偉そうに腕を組んだまま言っていた。

「俺は困らんぞ」

「エルハルトも、美味しいお酒を贈ってもらえなくなると困るでしょう!!」

 その言葉に、エルハルトは黄色の目を見開いていた。
 「あ、そうだった」というような顔をしている。

 正直頭が痛い。

「いいですか。街へ連れて行くとしても、貴方達が竜であることは絶対にバレないようにして下さい。そして騒動を起こさない。それが最低限の条件です」

「ふん、仕方ないわね」

「……分かった」

 二人の竜達は、腕を組み、何故か偉そうに頷いている。
 そんな二人を見て、リヨンネはどっと疲れた気持ちを覚えていた。


 リヨンネが、黒竜シェーラと青竜エルハルトの二人を、王都へと連れていく話を耳にしたアルバート王子は、驚いた顔をしていた。

「竜を、王都へ連れていくのか?」

「勿論、人化させて連れて行きます。竜の姿のまま連れて行ったら大騒ぎになります」

 今、アルバート王子と小さな竜の姿になっているルーシェは、青竜寮のリヨンネの部屋にいて、お茶を振る舞われていた。当然のようにレネとバンナムもいる。

「…………」

 竜達を人化させて連れて行くといっても、果たして大丈夫だろうかと心配そうな顔を、アルバート王子もバンナムも、レネもしていた。三人とも眉間に皺を寄せ、顎に手を当て考え深気な様子である。

 リヨンネは続けて言った。

「王都近くの森まで、シェーラとエルハルトに竜の姿で飛んでもらった後、そこから人化してもらい、バンクール商会の馬車でまっ直ぐ王都の魔道具店へ連れていくつもりです」

「誰にも会わないようにすれば、大丈夫かも知れませんね」

「そうですよね!!」

 そう、どこか希望を胸にリヨンネが言うのだが、アルバート王子も、バンナムもそしてレネも、心の奥底には不安しかなかった。
 アルバート王子の膝の上に座る紫竜が「ピュルルピルピル」と王子を見上げて話しかけていた。

「ルーが、王都へ行くなら便乗させてもらって、贈り物を買いたいと言っている。カルフィー魔道具店の魔道具を贈ってもらったお礼の品を買いたいとのことだ。どうだろう。一緒にリヨンネ先生達に同行させてもらえないだろうか」

 先日、山のように最新式の生活用魔道具を贈られた王子と紫竜である。御礼状と一緒に、御礼の品も早く送りたいとルーシェは考えていた。

「…………構いませんが」

 可愛い紫竜が大好きな、黒竜シェーラの大喜びの顔が目に浮かぶ。
 「リヨンネ、でかしたわね!!」とでも言いそうだ。
 紫竜の同行を拒否したら、黒竜シェーラに呪われそうな気もする。

「では、来週に休暇を申請しておく」

 王子はそう言った。王子も紫竜も嬉しそうな様子である。
 王都の街へ降りたことのない紫竜である。王子と一緒に初めて街へ行けることが、それは楽しみなのだろう。

 しかしその後、驚いたことに、エイベル副騎兵団長が、彼もまた、リヨンネの王都行きに同行したいと頼んできた。アルバート王子からの休暇の申請書を目にしたエイベル副騎兵団長が、アルバート王子に尋ね、王子は素直にリヨンネと同行して王都へ行くことを話したのだった。

(…………一体、エイベル副騎兵団長までどうして)

 リヨンネを、応接室に呼び出したエイベル副騎兵団長は、少しばかり恥ずかしそうに頬を染めている。美貌の男であるから、見ている者に対する破壊力がヒドイ。そもそも彼は、今やウラノス騎兵団長と相愛の仲になっており、愛されることで自信に満ち溢れ、さらに光り輝くように美しくなっていた。
 リヨンネの傍らにいるキースなど、見惚れて呆然としている。

 エイベル副騎兵団長は言った。

「もう少しで、ウラノスの誕生日なのだ。何か、彼に贈ろうと思っている」

(別に私達と同行して王都へ買いに行かなくてもいいじゃないか!!!!)

 そう思うリヨンネだが、小心者チキンのリヨンネはそんなことを口にできるはずがない。エイベル副騎兵団長はこの竜騎兵団でも二番目に強い男なのだ。彼の不興を買って叩き切られたくない。
 エイベル副騎兵団長の言うところ「私が一人で王都へ行くと言うと、ウラノスが心配するのだ。リヨンネ先生やアルバート王子殿下と一緒に行くようにするとお話ししたら、それならば良いと許しを得た」とのこと。

 ウラノス騎兵団長、淡白に見えてとんだ束縛夫なのか!?

 そんなことを勝手にリヨンネは内心思っていたが、心の裡の黒竜シェーラの分身がまたしても嬉しそうに「でかしたわね!! リヨンネ!!」とリヨンネを褒め称えている。
 小さな紫竜ルーシェと、竜騎兵団一の美貌の竜騎兵エイベルを両手にしたシェーラのご満悦の姿が浮かぶようだ。

(ああ、なんでなんでこんなことに)

 エイベル副騎兵団長も加わるというのなら、王都の森へ迎えに来る馬車は二台に増やそう。
 とても一台では乗り切らないだろう。
 
 そして、なんだか平穏無事に、黒竜と青竜の王都行きが終わるとは思えない気持ちになっているリヨンネであった。
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