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大陸制覇

第1話 エネルギー問題

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ダンジョンコアの間。
そこに拵えた簡易玉座に座って、俺は唸る。

「むぅ……まさかこんな落とし穴が待っているとはな」

崩壊した人間国家を吸収し、大陸統一に乗り出して既に2か月ほど経つ。
順調に思えた制圧行動だったが、思わぬ落とし穴に足を掬われてしまう。

――それはエネルギー不足だ。

現在30か所程に人間を集め――人間の大都市部を利用――そこを配下の魔物達によって管理させていた。
一か所10万前後の人口で、そこを2000体ほどの魔物で統制している形になる。

都市の管理者はミノタウロス、ハーピー、スライム、闇夜の魔術師ナイトウィザード二体の進化系に任せてあった。
その中でナイトウィザードの進化系である死滅の魔導士リッチ混沌の魔導士カオスには、魔物達のエネルギー補給のための転移を担って貰っている形だ。

流石に、全ての街にダンジョンの出入り口を設置するのは少々難しいからな。

「どうした物か……」

ダンジョンはこの星のエネルギーを、コアを通して吸い上げ、それらで内部を満たしていた。
それはアイテム精製の為だったり、魔物の補給源となっている。
だが現状、それが足りなくなってきていた。

理由は至って単純。
強力な魔物を増やし過ぎたためだ。

魔物は強ければ強い程、生命維持に大量のエネルギーが必要になる。
アイテムで召喚する系の魔物は何だかんだで高位の魔物に当たる為、3万を超える数の魔物への補給は、ダンジョンの供給量の限界に近い。
そのため、これ以上魔物の数は増やせなくなってしまっていた。

「今の数じゃ全然足りないぞ……」

ぱっと思いつく対処法は二つ。

一つは魔物の置き換えだ。
上位の者を送還して減らし、下位の者へと置き換える。
そうすれば今の何倍も魔物を配置できるようになるだろう。

但し、これには大きな問題があった。
下位の魔物はダンジョン機能で生産して使う訳だが、彼らには感覚の共有が無いのだ。

アイテムで生み出した魔物は単一個体に限りなく近い存在で、魂の根っこ部分で繋がっている。
勿論それはパワーアップポーションで進化した、レア達の様な特殊な個体でも同じだ。
そのため、異変が起きれば即座にその情報を全体で把握する事が出来たし、素早い指示も可能となっていた。
だがその多くを下位の魔物に置き変えてしまうと、そういった迅速な対応が難しくなってしまう。

それに下位の魔物はかなり知能が低い。
もし人間達が裏でこそこそ動いていたとしても――魔王に素直に従う訳もないので――その事を察知できる可能性自体低くなる。
当然そうなれば、反乱のリスクも大きく上がってしまうだろう。

もう一つの案は――食料の増産だった。

魔物達はエネルギーの直接的な吸収だけではなく、経口摂取――つまり、普通の生物の様に食事からエネルギーを採取する事も出来た。
そのため、十分な食料を用意さえ出来れば問題は解決する。

まあそれが簡単なら、とっくに取り掛かっている訳だが……

ピータンの魔法は基本都市部に向かっての物だったので、畑等は無傷だ。
そのため生き残った人間に仕事を割り振れば、人の口にする物+α分の食料は手に入る。

だが問題は、魔物は人間より遥かに大喰らいだという点だ。
+α程度では焼け石に水でしかない。
生き残った人間全てを食料生産に充てたとしても、魔物の腹を満たすだけの収穫の増量は早くても来年以降になる――下手をしたら十分な増産は数年先の可能性も。

当然その間、支配地拡大は足踏みせざるを得ない。
魔物手が足りない訳だからな。

だがそうなれば、人間側に状況を立て直す時間を与える事になってしまう。
この大陸だけならそこまでそれを心配する必要は無かいのだが、別大陸からの支援や干渉を考えると、可及的速やかに大陸の制圧を行いたいというのが本音だった。

支配が緩まって、反乱の可能性が上がる魔物の置き換えか。
完全な制圧を後回しにして、別大陸の干渉を受ける可能性が出て来る食糧増産か。

直ぐに決めるのは難しい問題だ。
取り敢えず、レア達の意見も聞いてみるとしよう。

「エネルギー問題なんだけど……レア達に何かいい案はないか?」

「魔王様、数を減らすというのはどうでしょうか?」

真っ先に返事を返して来たのはナゲットだった。

「数って魔物のか?」

「まさか。減らすのは人間の方ですわ。数が多すぎるので、この際間引きを致しましょう。数を半分にすれば、この先の制圧地に多くの魔物を回す事が出来ます」

ナゲットは笑顔でおっそろしい提案を口にした。
確かに、支配する数が多いというのが一番大きな問題ではある。

先代魔王がエネルギー問題に頭を悩ませずに済んだのは、その当時の人口が今よりも遥かに少なかったから部分が大きい。
恐らく200年前は、全体を通してもこの大陸に人間は300万人もいなかった筈。

「名案であります!自分達ミノタウロスにその任、お任せ下さい!直ぐにでも取り掛かるであります!」

その恐ろしい案に、レアが嬉々として実行の名乗りを上げる。
そしてやる気満々を示すかの様に、しゅっしゅと拳を空打ちしてみせた。

「プルプルプルプルプル!(その肉で魔物がお腹を満たせて、一石二鳥)」

ウェンディのプレート状になった手にも、他の2人同様恐ろしい言葉が刻まれていた。

三人とも、人間相手には容赦が一切ない。
まあ彼女達は魔物だし、俺を悩ませている問題と言うのもある。
忠誠が高いからこその極端な思想と言えるだろう。

しかし――

「人間を間引くのはダメだ」

大陸を魔王として支配する。
そのための壁となる障害は、相手が人間だろうと容赦なく粉砕するつもりではあった。
だが流石に数が多くて支配し辛いという理由で、人間を大量虐殺すような真似はできないし、したくもない。

「「「……」」」

やる気満々だった所に水を差したせいか、レア達が明らかに落ち込んだ感じで黙り込んでしまった。
俺の発言にそこまでへこまれてしまうと、なんだかすごい悪い事をした気分になってしまうのだが……

「ま、まあ案自体は悪くなかったぞ。アイスやカオスは何か意見はないか?」

気まずいので話をアイス達に振る。
二人は純魔導士タイプで知能が高めなので、何かいい案を出してくれると有難いのだが。

「あ……その……なくは……ないんですが」

二人は俺の質問に顔を見合わせ、もじもじする。

どうやら何か案がある様だが……

普段から少しオドオドしている所があるが、今日はそれに輪をかけた感じだ。
凄く言い辛そうにしている。

「何でもいい。遠慮なく言ってくれ」

「えっと……あの……魔王様が……」

「ん?俺が?」

「えとその……強くなられれば……なんとかなるかと……思います」

俺が強くなる?
アイス達の言っている意味が分からず、俺は首を傾げた。
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