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マレニア魔術院の一学期

・最凶の二人 - なんじゃああっ、その弓わ! -

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 突入早々、愉快な問題と、厄介な問題に直面した。

 片方はなんのことはない。
 地上に通じる扉が、俺たちの背中から消えていただけのことだ。
 なかなかに愉快だった。

 しかしもう片方の問題は厄介だ。
 俺たちは、引率の教官の乱入という不幸な事態により、フェアな試験の続行が困難となっていた。

「参ったな、これではまともな試験にならないぞ……」
「アホ言ってんじゃねーっっ、こんな状況で試験だのどーだの言ってられっかよっ!!」

 迷宮の中には、進入時点で帰り道が消えるものがあると座学で習った。
 そういった迷宮は、ポータルと呼ばれる帰還地点まで進めば、装置の力で地上に戻ることが出来る。

 よって問題は、教官がこの場にいるせいで、俺たちが試験のレギュレーションからはずれてしまった、という一点だけだった。

「君はマイペースだね。僕たちは冒険者組合にハメられた、かもしれないのに」
「ああ、言われてみれば確かに……。試験に夢中で、その発想は出てこなかったな。ジーンか……」

「そう。君のルームメイトと冒険者組合は、こうなってみると飛び切りに臭い。当日になって突然、僕たちがこの迷宮に挑むように仕向けた。そうも取れないかい?」
「だが、ジーンは……」

 やつのことを詳しく知っているわけではないが、動機がわからない。
 不干渉主義のジーンがなぜこんなことをする?

「ああああー……もうしょうがねぇ……。こうなりゃ、お前らをサポートしながら試験も続けて、ポータルを見つけるしかねぇ……」
「いえ、試験の邪魔です、教官殿は引っ込んで下さい」

「おいっ、担任に面と向かって『邪魔』とか『引っ込んでろ』はねーだろっ?!」
「教官が加わったら、もうそれは試験じゃないからな。俺たちのどっちかがピンチになったら頼む」

 そう言って俺が先に進もうとすると、カミル先輩はもう先を歩いていた。
 それを見て教官はまた発狂し、結局は俺たちの言い分を聞いてくれることになった。

「フロアだ……。それも、扉の大きさからして大部屋だろう、慎重にいけ……。この先はお前らの手に余る化け物だらけかもしれねぇんだぞ……」
「気が散ります、黙っていて下さい」

「くぅぅぅ……っ、かわいくねぇ生徒……っっ」

 父さんに教わった通りに、扉の横の壁に貼り付いて先陣をカミル先輩に任せた。
 カミル先輩は白いあの仮面を外し、それをどこかにしまった。

「グレイボーン、絶対に、前には出ないで。敵に触れてもダメだ。1歩間違えると、こうなる」
「すまん、なんも見えん。だがせっかくなんで俺も断っておこう。……誤射したらすまん」

「その時はこちらで、かわすさ」

 腐食のカミルは俺と同じように壁に貼り付いて扉を開いた。
 俺たちはフロア内部をうかがった。

「でかいやつが2体に、超でかいのが1体か、ついてるな」

 さあ行こうと、身振りでカミルを誘った。

「教官殿、あれは授業で習っていません。あれはなんというドラゴンですか?」
「アホッ、試験は中止だ……っ。アレはレッドドレイク、お前らの手に負えるやつじゃねぇよ……っっ」
「それは困る。俺の得物は獲物がデカいほどにちょうどいい」

「フ……君のその重弩があれば、ドラゴンを殺れなくもないか」
「はぁっ!? 調子乗ってんじゃねーぞ、この若造どもっ!! ……あっっ?!!」

 教官がデカい声を上げるから敵に気付かれた。
 レッドドレイクが身をもたげ、その左右にいる緑色のデカいのが、地響きを鳴らしてこちらに突っ込んで来る。

 ……ように見えなくもないが、正確なところは俺にはわからん。

「グレイボーン、君はドレイクを撃て。僕は大型のトロルの方を片付ける」
「先輩は頼もしいな」

 フロアの外から重弩を赤い塊に構えた。
 ドラゴンと言われたら、ドラゴンに見えなくもない。
 射線からカミルが外れるのを待つと、何やらレッドドレイクの上の方がチカチカとし始めた。

「撃つなら撃てやーっ、ブレスが来んぞっ!!」

 それ、もう少し早く言ってくれ。
 俺は重弩の引き金を引いた。
 すると迷宮で聞くとさらにやかましい爆音に続いて、ドラゴンの恐ろしい悲鳴が上がる。

「な、なんじゃああっ、その弓わぁぁぁーっっ?!!」

 ドラゴンと聞いて身構えたが、コイツはまあまあのやつだな。
 この重弩を受けて、一撃で死なない生命力は高く評価するが、強者たちが集う真の迷宮はきっとこんなものではないだろう。

「弓じゃない、弩だ。次撃つぞ」

 高速装填して立て続けに2発目をぶち込むと、やたらにデカいその怪物は崩れ落ち、そして俺の視界から赤の色調を消滅させた。
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