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マレニア魔術院の一学期

・最凶の二人 - 頼む、ネコババさせてくれ -

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「レッドドレイクが、たった、2発だと……? な、なんじゃお前……」
「1フロア目でこれだ、奥はもっと期待できそうだな。ん……なんか臭くないか?」

 なんか、イカの腐ったような、質の悪いチーズのような……酷い匂いが空気に混じっている。

「カミルが腐食の魔法剣を使ったんだよ……。アレが見えねぇお前は幸せもんだ……」

 辺りを見回すと、2体の緑色のでかいのも消えていた。
 強いな、カミル先輩。

 不快な臭いは一時的なもので、モンスターの消滅の共に悪臭もかき消えていった。

「引いただろ……。これが僕の力だ……」
「いや、引こうにもなんも見えんかったし」

 そう軽く返すと、カミル先輩は黙り込んでしまった。

「そういえば君は、そうだったな……」
「ハハハハッ、いいコンビじゃねぇか、お前ら! グロいのなんて、なーーんも見えねーってよっ、カミル! よかったな!」

 地に落ちていた鋼鉄の矢を回収した。
 それと何か赤く光る物が落ちていることに気付いた。

 拾い上げて目に近付けてみると、それは真紅と灰色が混じる真っ赤な原石だった。

「ネコババするにはでかいな……。教官、ここは相談なんだが、これ、闇ルートかなんかで売りさばけないか?」
「お前な……。お前は俺のことを、なんだと思ってんだ……。こういうのを買ってくれるやつなら、知っちゃぁいるが」

「頼む、ネコババさせてくれ」

 男らしく精悍なラズグリフ教官の顔をのぞき込み、俺は真摯にお願いをした。

「俺はリチェルに、かわいい服とお菓子と人形と小づかいと、それに新しい装備や快適なベッド、女の子が好む小物や、その他もろもろを、買ってやりたいんだ……」
「君、意外に強欲な男だな……」

 教官はそんな俺から大きな原石を引ったくった。

「ほう、特大のガーネット原石か。俺の見たところ……金貨1400枚ってところか」

 え……?
 そ、ん、な、に……?

「マジか……? それだけあればっ、欲しいもの全部買ってやった上に、実家のリフォームまで出来るじゃないか!」

 金貨1400枚の価値のある宝石!
 特大の万馬券を拾ったようなものだ!

「学校に引き渡せば、2人それぞれで金貨70枚だな」

 だが俺の興奮は、教官のその一言に冷めた。
 俺の取り分は、たった5%だそうだ。

「横暴にもほどがあるだろっ! ネコババさせろっ!」
「なるほどね、言われてみたら段々腹が立って来たな。ハメられた僕たちから、学校は9割も持っていくのかな?」

 それが学校の運営資金になり、美味い食事と快適な環境になり、充実した設備と、迷宮を使った実習に繋がる。
 それはわかる。

 だが1人あたり金貨700枚の稼ぎがたった70枚になるのは、さすがに酷いってか人でなしの所行だろ!?

「しょうがねぇ、学長に話付けてやるよ。そもそもこの実習、俺たち大人のしくじりでこうなったんだ。さすがにこれ以上は、生徒の信頼を裏切れねぇよ」
「おお……っ、いいのかっ!?」
「話がわかるじゃないか、教官殿」

「全額は無理だぜ。だが半額くらいならどうにかなんだろ。落ち度は組合と学校側にあんだからな」

 となると、1人辺り金貨350枚を期待してもいいということか!
 おあつらえ向きに明日はパーティ!
 明後日は土産を持って故郷に帰る日!

「ふ、ふふ、ふふふふ……これが一攫千金の人生! 大きな臨時収入ってやつか! 冒険者って、素晴らしいな!!」

 え、ボーナス?
 うちのスーパーにはそんなものなかった!
 店長とパートのおばちゃんに挟まれる毎日だった!

「大げさに受け止め過ぎとは思うけど……僕も同感だ。僕たちをハメたやつには感謝してやらないとね」
「金の使い道は帰ってから考えろ。浮ついてると、足をすくわれるぜ」

 俺たちは教官にお宝を託し、地上へのポータルを求めて迷宮を進んでいった。


 ・


 ポータルは地下5階入り口に配置されていた。
 そこにたどり着くまでに、幾多のフロアを抜けることになった。

 が、この迷宮は竜頭蛇尾だった。
 最初のレッドドレイク以降は小物ばかりで、カミル先輩がチーズのような酸っぱい匂いを漂わせながら、雑魚を次々と片付けてしまった。

 いや俺の標的にちょうどいい、でかいのもいたが、どいつこいつも1撃で絶命するあたり、まったくもって味気ないと言わざるを得なかった。

 まあ、そういったわけだ。
 俺たちは青白く光る美しい空間、地上へのポータルエリアにたどり着き、名残惜しいがこの新しい迷宮から地上に戻った。

 いったい誰が俺たちをハメたのか。
 コレは事故なのか、故意なのか、ジーンの関与はどれほどなのか。

 なんか気になる謎を残したまま。
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