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10 すっかり夏休みらしい
しおりを挟む……ところで、雪芽は芳樹の瞳が大好きだった。いつも白い光りが入っていて、その瞳に鋭さを持っていた。
彼といるだけで自分にも力が湧いてくるような気がするのだ。
いつもそうだ。芳樹を見つけたときは、ほかの人を見つけた時と、色が違う。少しもくすみがない。
どんな色に例えられようか想像もつかないほどに、毎日、いろんな色が混じり合って、それでいて発色が良いのだ。
今の芳樹はどんなものをまとっているのかな……。
雪芽は「薄暗いので」と心の中で言いながら、見回すように首を回し、縁側と芳樹のある後ろに振り向いた。
それに気づいた芳樹と目が合う。
すると雪芽は膝をつき芳樹の方に向きを変え、真正面に体を向けた。
肩に手をのせ、そのまま頭のてっぺんを芳樹の胸にくっ衝けて「はぁ……」とため息をつき、うなだれた。
何をしてるんだ。と芳樹は沈黙していたが、彼女の手首に触れようとすると、
「一緒にいたい」
と、ため息ならぬ、心の中の溜まっていた感情をそのまま吐き出すような声で雪芽が訴えた。
それから雪芽が息を詰まらせていたので、芳樹は、「そうか」と一言こぼした。これが何を意図していたのかは雪芽には分からなかった。
それから芳樹は、雪芽の家で一緒にそうめんを食べた。
食べ終わってからも、二人は話が尽きなかった。
「トウモロコシ食べる?」
青い羽根の扇風機のスイッチを足でがちゃんと点けて、雪芽は芳樹が手持ち無沙汰にならないようにした。
それからして雪芽は、島を出た先のミュージシャンという民宿に二人で行くことを考えたが、床屋の話を思い出して、思考は方向を変えた。
「芳樹、私、髪切るからついてきて」
芳樹と行っていた床屋の前に着いた。少し坂を上った所にある。
ガードレールの向こうが未知の緑で、歩く間がない狭い白線の歩道を無視しながら歩く坂道は、小学校の集団通学の感覚を思い出させたが、時間の経過もはっきり感じた。
確かに、雪芽の髪は鎖骨のあたりまで伸びていて、しかし違和感はなかったが、短くしたらどうなるのだろうと、二人とも同じことを考えて笑いあった。
「中学の時、長いツインテール作ってたよな。宇宙人みたいな」
ああ。とか、うん。とか言わずに、雪芽は緑の扉を開けた。
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