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1章妖精の愛し子

32.

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グラウィルは、見たこともない物や景色に興奮し続けているリリーフィアをなんとか宥めつつ、リリーフィアの言うのところへと向かう。

「いぬって、フェンリルの事だったんだね~」
目の前に現れた真っ白でふわふわな毛並みを持つ大きな犬を見上げながらにこにこと笑うシャラーティル。

「ふぇ、フェンリルって、あの伝説の?」
グラウィルは困惑しながらもリリーフィアにフェンリルを触らせてあげる。
「いかにも、人の国では伝説と呼ばれおるフェンリルじゃよ。 っと、お嬢さん、尻尾は引っ張らないでおくれ」
フェンリルは自慢のふわふわ尻尾でリリーフィアの相手をしながらグラウィルの問に答える。

「ふあふあしゃらしゃらなの~!」
リリーフィアの笑い声につられてシャルロッテもフェンリルに触れる。
「本当ね、ふわふわでさらさらだわ! お父様も触ってご覧なさいな」
シャルロッテに促されフェンリルに触れるグラウィルも、極上の触り心地に目をとろけさせた。

「しゃるりょって、おはなちじょうずになったの?」
「そうね、でも私がうまく話せるのはここにいる間だけなの。 お姉さまも練習を続ければきっと私よりうまく話せるようになるわよ」
シャルロッテに励まされてむんっと気合いを入れたリリーフィアは、言葉の練習をもっと頑張ろうと意気込んだのだった。


   ***


「くっ、なぜ通れないんだ。 公爵達はあんなに軽々と通っていたのに…」
国王は悔しそうに宙に浮かぶ歪みを睨み付ける。

「陛下、もしかしたらあのカギが必要なのかもしれません」
「そう言うことか… だが、シャルロッテ嬢はカギを持っていなかった。 だから我々も通れると思ったんだが…」
「シャラーティルという妖精も手にカギは持っていませんでした。 きっと身に付けるだけで良いのでしょう」

宰相と呼ばれる役職に就いている男は、国王の耳許でささやく。
「どうしても妖精の国に行きたいのならば、次に公爵とお会いされる時にカギを貰えば良いだけの話です。 王命を使えばそんなことくらいに簡単にできますよ」

「それもそうだな… ふふっはははっ! 待ってろ、妖精の愛し子、リリーフィアよ… お前を必ず捕まえて、妖精達を人の操り人形にしてやるからな。 そのためにはそなたも協力してくれるだろう? ティファニーよ」

「ええ、もちろんでございます。 必ずわたくしは陛下の役にたって見せますわ」
悪い笑みを浮かべて握手をするティファニーと国王の様子を、影から見ていた者がいた。

壁の側にある柱の影から覗くのは、この国の王子でもあるヨフィルレインだった。
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