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撃退任務
3匹の竜がいる戦場へ(2)
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「リーシャ、まずい! 兄貴が圧されてる!」
「うそっ!」
ルシアの背から覗くと、黒竜の姿のノアは空中で火竜と交戦しているところだった。ノアは火竜の息吹を受けたようで、体から煙が上がっている。近づこうにも近づけないといった様子で、火竜の周りを飛び回っていた。
ノアと交戦している竜を見たリーシャの口から思わず言葉がこぼれた。
「あの火竜って……」
リーシャの心臓がドクンと嫌な鼓動を打った。
「いや、あいつじゃない。別の竜だ」
「そ、そっか」
リーシャの動揺する理由を読み解いた辺り、ルシアも同じことを考えたのかもしれない。
あの火竜がファイドラスではなかったことにリーシャは胸を撫で下ろした。
乱闘の中にいる他2匹の竜は風竜と地竜だった。
風竜も空中戦を得意としているため、上空から風の魔法や息吹で人間軍を翻弄していた。地上の人間は魔法攻撃が届かず、自分たちを守る事しかできずにいる。
地竜は羽を持ちながらも、魔力の性質上地上戦を得意とするため地に足を付けて戦っている。
ただ、地竜は鱗が他のどの竜よりも異様に固く、たとえ打撃で鱗をどうにか砕けたとしても周りの土を破損した部分にあてがい、すぐに治してしまう。
そのためか、目の前で戦っている地竜も鱗内部にはダメージがほとんど通っていないようだった。
「ルシア、近場の開けた場所を探して、騎士の人たちを下ろして。私たちは先に下りて加勢するから」
「ああ、気をつけろよ」
「うん」
リーシャはシルバーとフェンリルの襟元を掴んだ。
「なんだ⁉」
シルバーが驚きの声を上げた。
「行くよ、エリアル」
「うん!」
リーシャは2人を掴んだままルシアの背中から飛び降りた。エリアルも続いて飛び降り、背中からはすぐさま黒い翼が生えてきた。
リーシャたち3人はそんなものなど、もちろん持ち合わせてなどいない。
背後から風を切り分ける音に紛れてフェンリルの焦る声が聞こえてきた。
「おっ、おい、リーシャ! どうすんだよ! 俺らに羽なんてねぇんだぞ‼」
「わかってる! 風よ!」
リーシャが叫ぶと、地面の方から強い風が吹きあがった。
次第にリーシャたちの落下速度は遅くなった。地面に到達する頃には吹き上げる風も緩やかになり、ゆっくりとした速さて立ったまま着地する事に成功した。
エリアルも自身の翼で、リーシャより遅れて地面に着地した。
フェンリルは地面に足が着くと、先ほどの動揺など嘘のように一目散に騎士団第2部隊の隊長、レイモンド・フィファスの元へと走って行った。
「レイモンド! 戦況は‼」
「団長! 申し訳ありません。ごらんの通り、状況はあまりよくはありません。おそらく竜の中で1番実力を持つ者は火竜です。風竜と地竜は我々人間だけでもどうにか……」
レイモンドは非常に言いにくそうに言った。
「どうにか」に続く後の言葉が「倒せそう」ではないのは間違いなさそうだ。
この場の指揮権を返還されたフェンリルは周りを見渡すと目を閉じ思考を開始した。10秒もしないうちに瞼は開かれた。
「……リーシャ、お前はこのままノアと協力して火竜の相手をしてくれ。騎士団第1部隊も到着次第火竜との戦闘に入る。ノアに相手の気を逸らさせて、その間に魔法をぶつけるぞ」
「わかりました」
リーシャは頷いた。
「エリアル、お前はルシアと風竜の相手を。他に魔力量が多いヤツを付けた方がいいか?」
「ルシアにぃちゃんとなら、大丈夫だと思うけど……やってみないとわからない」
エリアルはいつもとは違う状況に不安が隠せなくなっている様子だ。体が小さく縮まっていた。
フェンリルはエリアルのそんな様子には何も言わず、すぐに再思考し始めた。
「わかった。レイモンド、お前の隊で魔力量あるやつ数人をこいつらに付けてくれ」
「……わかりました」
レイモンドは不本意極まりない声だった。竜に対する憎しみは健在だけれど、上からの命令だから仕方なくというのが見え見えだ。
けれど今この場にそんな事を指摘できる、心に余裕のある者はいない。
フェンリルは最後にシルバーへと視線を移した。
「シルバーお前はギルド連中の中心になって第2部隊と共に地竜の撃退に当たってくれ」
「わかりました……けど、もしあいつらが引かない場合はどうするつもりなんですか?」
「万が一の場合は……討伐を許可する。できるなら、の話ではあるが。だが、勘違いするな。あくまで追い払うための任務だ。あの竜たちが撤退する動きを見せたらそれ以上手を出すな。他の街や村を襲いに向かっていないか、見極めろ」
後半の言葉はシルバーではなく別の人物に告げた言葉だろう。
レイモンドはフェンリルから視線を外していた。
直後、地上へと降りたルシアと騎士団第1部隊が合流し、フェンリルは先ほど言った指示のあらかたを伝えた。
「わかったらすぐに動け、お前ら! 今戦ってる連中が死んでもいいのか!」
フェンリルの言葉に、皆弾かれるように動きだした。
3匹の竜たちを追い払うための戦いが本格的に始まるのだ。
「うそっ!」
ルシアの背から覗くと、黒竜の姿のノアは空中で火竜と交戦しているところだった。ノアは火竜の息吹を受けたようで、体から煙が上がっている。近づこうにも近づけないといった様子で、火竜の周りを飛び回っていた。
ノアと交戦している竜を見たリーシャの口から思わず言葉がこぼれた。
「あの火竜って……」
リーシャの心臓がドクンと嫌な鼓動を打った。
「いや、あいつじゃない。別の竜だ」
「そ、そっか」
リーシャの動揺する理由を読み解いた辺り、ルシアも同じことを考えたのかもしれない。
あの火竜がファイドラスではなかったことにリーシャは胸を撫で下ろした。
乱闘の中にいる他2匹の竜は風竜と地竜だった。
風竜も空中戦を得意としているため、上空から風の魔法や息吹で人間軍を翻弄していた。地上の人間は魔法攻撃が届かず、自分たちを守る事しかできずにいる。
地竜は羽を持ちながらも、魔力の性質上地上戦を得意とするため地に足を付けて戦っている。
ただ、地竜は鱗が他のどの竜よりも異様に固く、たとえ打撃で鱗をどうにか砕けたとしても周りの土を破損した部分にあてがい、すぐに治してしまう。
そのためか、目の前で戦っている地竜も鱗内部にはダメージがほとんど通っていないようだった。
「ルシア、近場の開けた場所を探して、騎士の人たちを下ろして。私たちは先に下りて加勢するから」
「ああ、気をつけろよ」
「うん」
リーシャはシルバーとフェンリルの襟元を掴んだ。
「なんだ⁉」
シルバーが驚きの声を上げた。
「行くよ、エリアル」
「うん!」
リーシャは2人を掴んだままルシアの背中から飛び降りた。エリアルも続いて飛び降り、背中からはすぐさま黒い翼が生えてきた。
リーシャたち3人はそんなものなど、もちろん持ち合わせてなどいない。
背後から風を切り分ける音に紛れてフェンリルの焦る声が聞こえてきた。
「おっ、おい、リーシャ! どうすんだよ! 俺らに羽なんてねぇんだぞ‼」
「わかってる! 風よ!」
リーシャが叫ぶと、地面の方から強い風が吹きあがった。
次第にリーシャたちの落下速度は遅くなった。地面に到達する頃には吹き上げる風も緩やかになり、ゆっくりとした速さて立ったまま着地する事に成功した。
エリアルも自身の翼で、リーシャより遅れて地面に着地した。
フェンリルは地面に足が着くと、先ほどの動揺など嘘のように一目散に騎士団第2部隊の隊長、レイモンド・フィファスの元へと走って行った。
「レイモンド! 戦況は‼」
「団長! 申し訳ありません。ごらんの通り、状況はあまりよくはありません。おそらく竜の中で1番実力を持つ者は火竜です。風竜と地竜は我々人間だけでもどうにか……」
レイモンドは非常に言いにくそうに言った。
「どうにか」に続く後の言葉が「倒せそう」ではないのは間違いなさそうだ。
この場の指揮権を返還されたフェンリルは周りを見渡すと目を閉じ思考を開始した。10秒もしないうちに瞼は開かれた。
「……リーシャ、お前はこのままノアと協力して火竜の相手をしてくれ。騎士団第1部隊も到着次第火竜との戦闘に入る。ノアに相手の気を逸らさせて、その間に魔法をぶつけるぞ」
「わかりました」
リーシャは頷いた。
「エリアル、お前はルシアと風竜の相手を。他に魔力量が多いヤツを付けた方がいいか?」
「ルシアにぃちゃんとなら、大丈夫だと思うけど……やってみないとわからない」
エリアルはいつもとは違う状況に不安が隠せなくなっている様子だ。体が小さく縮まっていた。
フェンリルはエリアルのそんな様子には何も言わず、すぐに再思考し始めた。
「わかった。レイモンド、お前の隊で魔力量あるやつ数人をこいつらに付けてくれ」
「……わかりました」
レイモンドは不本意極まりない声だった。竜に対する憎しみは健在だけれど、上からの命令だから仕方なくというのが見え見えだ。
けれど今この場にそんな事を指摘できる、心に余裕のある者はいない。
フェンリルは最後にシルバーへと視線を移した。
「シルバーお前はギルド連中の中心になって第2部隊と共に地竜の撃退に当たってくれ」
「わかりました……けど、もしあいつらが引かない場合はどうするつもりなんですか?」
「万が一の場合は……討伐を許可する。できるなら、の話ではあるが。だが、勘違いするな。あくまで追い払うための任務だ。あの竜たちが撤退する動きを見せたらそれ以上手を出すな。他の街や村を襲いに向かっていないか、見極めろ」
後半の言葉はシルバーではなく別の人物に告げた言葉だろう。
レイモンドはフェンリルから視線を外していた。
直後、地上へと降りたルシアと騎士団第1部隊が合流し、フェンリルは先ほど言った指示のあらかたを伝えた。
「わかったらすぐに動け、お前ら! 今戦ってる連中が死んでもいいのか!」
フェンリルの言葉に、皆弾かれるように動きだした。
3匹の竜たちを追い払うための戦いが本格的に始まるのだ。
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