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ネクロノーム家
記憶(2)
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「それとね、とくに今から話す事、ほとんど知られてない事実が本当に嫌だったの」
「事実って?」
「何百年も昔の話なんだけど、エドワルド・ネクロノームっていう大昔のネクロノーム家の当主は、自分の息子に竜が持つ魔法に関する器官を移植して魔道具を使わずに魔法を発動できる人間を作り出したの」
「え?」
当時のリーシャは耳を疑った。
力を手に入れるために人の倫理から外れた行いをする一族の末裔だとは信じたくはなかった。
リーシャはふと、幼い頃に周りの人間を傷つけた出来事を思い出してしまった。その出来事がネクロノームの血が自身に流れているのだと証明しているような気がしてきた。
母親はリーシャのその思いを肯定するかのように話を続けた。
「だから、ネクロノームの血を引く人の中で、稀に魔力を魔法へと具現化できる力を持つ子供が生まれるの。実はお母さんも魔道具を使わずに魔法が使えるわ。あまり強い魔法は使えないけど」
母親はスッと差し出した手の上に炎を作り出した。
「それにあなたのお父さんも使えたのよ」
「なんでお父さんが……?」
リーシャは父親のことなど憶えてはいないけれど、母親の話では遠い国の貴族とは全く関係のない生まれだったと聞いていた。
「たぶん、昔ネクロノーム家から嫁いだ人が、行った先のお家が没落したか何かで、平民になったのよ。だから平民の中にもそんな能力を持った人たちが生まれてるんだと思う」
「……そんな人がいっぱいいたら貴族が黙ってないんじゃないの?」
「そうね。けど、ネクロノームの血は薄まってるから。それにこの能力を持ってる人は普通の人よりも魔力量が少ない場合がほとんどだから、貴族の目に留まりにくいんじゃないかって、お父さんは言ってたわ。お母さんもそう思う」
「……」
この時のリーシャは、望んでもいないのに何故魔道具を使わずとも魔法を使う事が出来る能力と、普通よりも果てしなく多い魔力量を手にしてしまったのだろうと、怒りにも近い感情がこみあげてきた。
その代償として周りの人間を傷つけ、リーシャは心に傷を負った。その理不尽さに、一瞬母親に当たってしまいそうになった。
けれど、そんなことをしても自分が余計に惨めになってしまうと思い、リーシャは自身の両膝の間に顔を埋めた。
母親は負の感情に支配されるリーシャの頭をそっと撫でた。
「そう言えば、お父さん、リーシャが生まれる前くらいに、不思議な魔力を作れるけど魔法に変換できないって言っていたわね。もしかしたら、魔力量が少ないから使えなかったのかもしれないわ」
母親はふと思い出したかのように言っていた。
それに対して何と答えたらいいのかわからないリーシャは黙って母親の話を聞き続けた。
「とにかく、あの家は力を保持するためなら何でもする家なの。今でも世間にバレないように魔物を人の手で融合させたキメラっていう生き物を作り出そうとしてる。きっと連れ戻されれば、魔法に長けたあなたはその研究に嫌でも参加させられるわ。魔法の研究は好きでも、そういう研究は嫌でしょ?」
「うん……」
「だから、ネクロノーム家とはかかわりを持たない。お母さんとの約束」
「うん」
その時の母親がどんな顔をしていたかは、俯いていたリーシャが知る由はなかった。
再び景色が移り変わった。
場所は変わって、リーシャがクレドニアムに移り住む直前に母親と暮らしていた家だ。
母親は病でベッドの上で顔色悪く横たわっている。
「リーシャ、お母さんがいなくなったら、この街を離れなさい」
話すのも苦しそうにしているのに、母親は心配そうな顔をしてリーシャを見ながら告げた。
リーシャは母親の最期が近いと、かなり前から悟っていた。認めたくなくて、目に涙をためながら訴えかけた。
「いなくなるとか言わないで! 1人にしないでよ、お母さん!」
「ごめん、ね。もっと一緒にいてあげたい、けど、それは、無理なの」
「お母さん……」
「いい、リーシャ。昔から、言ってるけど、絶対本当の名前は人に、教えちゃダメ、よ。お母さん、あなたには、あの家に、縛られてほしくは、ないの。きっと、お母さんの、ことはじきにバレて、しまうから」
「うん……」
「いい子ね、リー……シャ……」
「お母さん……‼」
それは母親との最後の会話の記憶だった。
亡くなる直前にまで言っていた母親のリーシャに対しての願い。リーシャに幸せに生きて欲しいと思うからこその願いだったのだろう。
リーシャもずっと母親からネクロノーム家の実態を聞かされて続け、関わるべきではないと子供ながらに感じていた。
この後リーシャはすぐに母親を弔い、母の願い通りにするため自身を知る人のいない街を目指して旅立った。
「事実って?」
「何百年も昔の話なんだけど、エドワルド・ネクロノームっていう大昔のネクロノーム家の当主は、自分の息子に竜が持つ魔法に関する器官を移植して魔道具を使わずに魔法を発動できる人間を作り出したの」
「え?」
当時のリーシャは耳を疑った。
力を手に入れるために人の倫理から外れた行いをする一族の末裔だとは信じたくはなかった。
リーシャはふと、幼い頃に周りの人間を傷つけた出来事を思い出してしまった。その出来事がネクロノームの血が自身に流れているのだと証明しているような気がしてきた。
母親はリーシャのその思いを肯定するかのように話を続けた。
「だから、ネクロノームの血を引く人の中で、稀に魔力を魔法へと具現化できる力を持つ子供が生まれるの。実はお母さんも魔道具を使わずに魔法が使えるわ。あまり強い魔法は使えないけど」
母親はスッと差し出した手の上に炎を作り出した。
「それにあなたのお父さんも使えたのよ」
「なんでお父さんが……?」
リーシャは父親のことなど憶えてはいないけれど、母親の話では遠い国の貴族とは全く関係のない生まれだったと聞いていた。
「たぶん、昔ネクロノーム家から嫁いだ人が、行った先のお家が没落したか何かで、平民になったのよ。だから平民の中にもそんな能力を持った人たちが生まれてるんだと思う」
「……そんな人がいっぱいいたら貴族が黙ってないんじゃないの?」
「そうね。けど、ネクロノームの血は薄まってるから。それにこの能力を持ってる人は普通の人よりも魔力量が少ない場合がほとんどだから、貴族の目に留まりにくいんじゃないかって、お父さんは言ってたわ。お母さんもそう思う」
「……」
この時のリーシャは、望んでもいないのに何故魔道具を使わずとも魔法を使う事が出来る能力と、普通よりも果てしなく多い魔力量を手にしてしまったのだろうと、怒りにも近い感情がこみあげてきた。
その代償として周りの人間を傷つけ、リーシャは心に傷を負った。その理不尽さに、一瞬母親に当たってしまいそうになった。
けれど、そんなことをしても自分が余計に惨めになってしまうと思い、リーシャは自身の両膝の間に顔を埋めた。
母親は負の感情に支配されるリーシャの頭をそっと撫でた。
「そう言えば、お父さん、リーシャが生まれる前くらいに、不思議な魔力を作れるけど魔法に変換できないって言っていたわね。もしかしたら、魔力量が少ないから使えなかったのかもしれないわ」
母親はふと思い出したかのように言っていた。
それに対して何と答えたらいいのかわからないリーシャは黙って母親の話を聞き続けた。
「とにかく、あの家は力を保持するためなら何でもする家なの。今でも世間にバレないように魔物を人の手で融合させたキメラっていう生き物を作り出そうとしてる。きっと連れ戻されれば、魔法に長けたあなたはその研究に嫌でも参加させられるわ。魔法の研究は好きでも、そういう研究は嫌でしょ?」
「うん……」
「だから、ネクロノーム家とはかかわりを持たない。お母さんとの約束」
「うん」
その時の母親がどんな顔をしていたかは、俯いていたリーシャが知る由はなかった。
再び景色が移り変わった。
場所は変わって、リーシャがクレドニアムに移り住む直前に母親と暮らしていた家だ。
母親は病でベッドの上で顔色悪く横たわっている。
「リーシャ、お母さんがいなくなったら、この街を離れなさい」
話すのも苦しそうにしているのに、母親は心配そうな顔をしてリーシャを見ながら告げた。
リーシャは母親の最期が近いと、かなり前から悟っていた。認めたくなくて、目に涙をためながら訴えかけた。
「いなくなるとか言わないで! 1人にしないでよ、お母さん!」
「ごめん、ね。もっと一緒にいてあげたい、けど、それは、無理なの」
「お母さん……」
「いい、リーシャ。昔から、言ってるけど、絶対本当の名前は人に、教えちゃダメ、よ。お母さん、あなたには、あの家に、縛られてほしくは、ないの。きっと、お母さんの、ことはじきにバレて、しまうから」
「うん……」
「いい子ね、リー……シャ……」
「お母さん……‼」
それは母親との最後の会話の記憶だった。
亡くなる直前にまで言っていた母親のリーシャに対しての願い。リーシャに幸せに生きて欲しいと思うからこその願いだったのだろう。
リーシャもずっと母親からネクロノーム家の実態を聞かされて続け、関わるべきではないと子供ながらに感じていた。
この後リーシャはすぐに母親を弔い、母の願い通りにするため自身を知る人のいない街を目指して旅立った。
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