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一章:SとK
現実逃避 06
しおりを挟む僕は安心していた。
珍しく、サン以外の人間とも話が弾む。
楽しい、と思う。
自慢ではないが、サン以外に友達が出来たことなどない。
中学の頃からお世話になっていた児童施設でも、僕は浮いていた。
其れだから、新鮮に感じるのだった。
電車を降りると、平日にも関わらず、想像以上の人がいた。
正直、人混みは好きではない。
不特定多数の人間の言葉が、あちこちから行き交う。
僕は行き場を無くしてしまうのだ。
レッテルの中でだけ、生きることを強要されてしまえば、逃げる場所もなかった。
一度、可哀想で哀れな子供というレッテルを貼られてしまうと、二度と其処からは脱け出せなくなる。
レッテルとは、カテゴライズし、人間を仕分けてしまう。
其れを無意識に、皆が皆、気付かない内に行っているのだ。
残酷な人間の仕組みである。
「大丈夫ですよ、誰も見ていませんから。安心して下さい」
俯いてしまう。
前を向けない。
そんな僕に気付いた継生は、そう言って背中を撫でてくれた。
サンとは対応が全く異なるが、言っている内容は同じだった。
流石は精神科医と言うべきか。
僕が頷くのを目に、継生は歩き出す。
またもや手首を掴まれた。
今度は、少しだけ頼もしく感じられる。
「15分ぐらい歩くみたいですけど、大丈夫ですよね。こっちです」
駅の改札を抜け、看板を見ながら継生は先に進む。
15分とは、少し歩くな、と胸の中だけで呟き、手を引かれるままに歩いた。
階段を上がり、地上に出る。
いつも思うが、地下鉄とは、また何とも言えず、不思議なものだ。
地面の下で電車が走行する。
どういった原理なのか、高校にも行っていない僕には、全く理解の範疇を越えたものだ。
継生は、意外と運動をするようだった。
僕には少し遠く感じられる距離も、彼にしたら近所のようだ。
聞けばサッカーをしているという。
スポーツ青年、羨ましい限りだ。
この後の予定を話ながら、約15分間、歩くことに専念した。
やっとのことで辿り着いたスカイツリーには、駅で見たよりも大勢の人でごった返していた。
平日だが、外国人などの観光客や、余生を楽しんでいると思われる年齢の夫婦など、需要はそれなりにあるらしい。
受付のある四階に向かう。
チケットを買うのに、カウンターに並んだ。
「川路さん。名前で呼んでも、良いですか?」
並んでいる間、ぼけー、としていた。
唐突に継生が発言し、僕を見ている。
真剣な顔だ。
「あ、え。あ、ハイ。でも、呼ばれ慣れないので、照れてしまうと、思います」
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