26 / 43
第25話 伝説を作った男
しおりを挟む
白い水蒸気が階段を覆うベールのように流れ出ている。まるで雲の上を歩いて上っていくかのような、幻想的な階段だった。
絵本の中に出てくるようなメルヘンな氷の城。だが不思議と寒さは感じない。壁に触れても冷たくはない。
「ルーカス、どうしてA組のスタンプカードを預かったのですか?」
ヘンリエッタに預かったカードにスタンプを押そうとした時、バルコニーからこちらへ戻ってこられたアリーシャ様に、唐突にそう尋ねられた。
「え、も、もしかして、別のクラスのスタンプを押すのは、ルール違反だったりします?!」
やっべ、そこまで確認してなかった。自分で押したスタンプしか無効って言われたら、ヘンリエッタに申し訳が立たない。
「あくまでも四つのスタンプを集めてくること。ルールはそれだけですよ。安心して下さい」
慌てふためく俺を見て、アリーシャ様は優しく目を細めて微笑みかけて下さった。
「ヘンリエッタ様には雷の迷路で助けて頂きましたし、恩を借りたまま返さないのはフェアじゃないって思いまして。クラス対抗イベントなのに、変なのは分かってるんですが……」
「どのような手段を使っても、最初に四つのスタンプを集めて提出したクラスが一番なのです。そのためカードを奪って破棄し、他クラスの生徒を失格にさせたりと、過去には血気盛んな学年もあったそうです」
「妨害行為も許されるんですか?」
「はい。あくまでもルールは四つのスタンプを集めてくる事ですから。ですが、考え方次第では全てのクラスが一位となる方法もあるのですよ」
「マジですか?!」
「ええ。過去に一度だけ、そうやってクリアした学年があるそうです」
お貴族様同士がそこまで結託するって、よっぽどの仲良しか、すごく統率のとれるリーダーが居たのか。何れにせよ、入学したばかりで学年一つをまとめ上げてそんな事が出来るなんて、普通の奴には中々出来る事じゃない。だが一人だけ、そんな事をやってのけそうな人物に心当たりがある。
「約二十年ほど前、リシャール公爵家のアレクシス様が、全クラスのスタンプカードを重ねて同時に提出されたそうです。前代未聞の展開に、その時は皆さん大変驚かれていたそうですよ」
やっぱりか。アリーシャ様の言葉に、妙に納得させられた瞬間だった。アレク先生ならやりかねないなと思ったから。
先生の成す事は基本、奇想天外な事が多い。まじめにやってたら、逆にどうしたんですかって心配したくなるレベルの人だった。
それでも不思議と、この人について行けば間違いないって安心感を与えてくれるのだ。
「アレク先生のカリスマ性は、学生時代から健在だったんですね。本当にすごい方だと思います」
「そうですね。『切磋琢磨して学んでこそ、人は向上心を持って取り組める。だからこそ学び舎にまで身分制度を持ち込む必要は無い。我々はライバルであると同時に、苦楽を共にする大切な仲間なのだから』というアレクシス様の残された格言は、本当に素晴らしいものだったと私も思います」
アレク先生は、俺達が平民だからと馬鹿にする事なんて一度もなかった。魔法の楽しさと、正しく使う事の重要さ、そして互いに支え合う事の大切さを教えてくれた。
「誰もが平等に上を目指して頑張っていたあの頃のように、学園を変えていかねばなりませんね」
ダリウスがアリーシャ様に憧れる理由が、よく分かった気がした。強い意志の籠もった眼差しは、どこまでも綺麗に美しく澄んでいた。この方は本当に、それを望んでいるのだと容易に見てとれるくらいに。
「引き止めてしまってごめんなさいね。今年の一年生は希望が持てそうだったから、つい長話になってしまったわ。残りのスタンプも頑張って集めて下さい」
「はい、頑張ります! ありがとうございました。それでは、失礼します」
A組の分までスタンプを押した俺は、一礼してその場を後にした。幻想的な透き通った氷の階段を降りて向かうのは、A組の所だ。
絵本の中に出てくるようなメルヘンな氷の城。だが不思議と寒さは感じない。壁に触れても冷たくはない。
「ルーカス、どうしてA組のスタンプカードを預かったのですか?」
ヘンリエッタに預かったカードにスタンプを押そうとした時、バルコニーからこちらへ戻ってこられたアリーシャ様に、唐突にそう尋ねられた。
「え、も、もしかして、別のクラスのスタンプを押すのは、ルール違反だったりします?!」
やっべ、そこまで確認してなかった。自分で押したスタンプしか無効って言われたら、ヘンリエッタに申し訳が立たない。
「あくまでも四つのスタンプを集めてくること。ルールはそれだけですよ。安心して下さい」
慌てふためく俺を見て、アリーシャ様は優しく目を細めて微笑みかけて下さった。
「ヘンリエッタ様には雷の迷路で助けて頂きましたし、恩を借りたまま返さないのはフェアじゃないって思いまして。クラス対抗イベントなのに、変なのは分かってるんですが……」
「どのような手段を使っても、最初に四つのスタンプを集めて提出したクラスが一番なのです。そのためカードを奪って破棄し、他クラスの生徒を失格にさせたりと、過去には血気盛んな学年もあったそうです」
「妨害行為も許されるんですか?」
「はい。あくまでもルールは四つのスタンプを集めてくる事ですから。ですが、考え方次第では全てのクラスが一位となる方法もあるのですよ」
「マジですか?!」
「ええ。過去に一度だけ、そうやってクリアした学年があるそうです」
お貴族様同士がそこまで結託するって、よっぽどの仲良しか、すごく統率のとれるリーダーが居たのか。何れにせよ、入学したばかりで学年一つをまとめ上げてそんな事が出来るなんて、普通の奴には中々出来る事じゃない。だが一人だけ、そんな事をやってのけそうな人物に心当たりがある。
「約二十年ほど前、リシャール公爵家のアレクシス様が、全クラスのスタンプカードを重ねて同時に提出されたそうです。前代未聞の展開に、その時は皆さん大変驚かれていたそうですよ」
やっぱりか。アリーシャ様の言葉に、妙に納得させられた瞬間だった。アレク先生ならやりかねないなと思ったから。
先生の成す事は基本、奇想天外な事が多い。まじめにやってたら、逆にどうしたんですかって心配したくなるレベルの人だった。
それでも不思議と、この人について行けば間違いないって安心感を与えてくれるのだ。
「アレク先生のカリスマ性は、学生時代から健在だったんですね。本当にすごい方だと思います」
「そうですね。『切磋琢磨して学んでこそ、人は向上心を持って取り組める。だからこそ学び舎にまで身分制度を持ち込む必要は無い。我々はライバルであると同時に、苦楽を共にする大切な仲間なのだから』というアレクシス様の残された格言は、本当に素晴らしいものだったと私も思います」
アレク先生は、俺達が平民だからと馬鹿にする事なんて一度もなかった。魔法の楽しさと、正しく使う事の重要さ、そして互いに支え合う事の大切さを教えてくれた。
「誰もが平等に上を目指して頑張っていたあの頃のように、学園を変えていかねばなりませんね」
ダリウスがアリーシャ様に憧れる理由が、よく分かった気がした。強い意志の籠もった眼差しは、どこまでも綺麗に美しく澄んでいた。この方は本当に、それを望んでいるのだと容易に見てとれるくらいに。
「引き止めてしまってごめんなさいね。今年の一年生は希望が持てそうだったから、つい長話になってしまったわ。残りのスタンプも頑張って集めて下さい」
「はい、頑張ります! ありがとうございました。それでは、失礼します」
A組の分までスタンプを押した俺は、一礼してその場を後にした。幻想的な透き通った氷の階段を降りて向かうのは、A組の所だ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか
鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。
王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、
大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。
「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」
乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン──
手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私の婚約者は真実の哀に目覚めた
しげむろ ゆうき
恋愛
婚約者のケーン様が卒業パーティーに伝えたい事があると私に言ってきた。
「ユリアン、私は真実の哀に目覚めた……」
私はその言葉を聞き覚悟をきめるのだった。
※タグを確認してから見て下さい!
ギャグです!
【短編集】ゴム服に魅せられラバーフェチになったというの?
ジャン・幸田
大衆娯楽
ゴムで出来た衣服などに関係した人間たちの短編集。ラバーフェチなどの作品集です。フェチな作品ですので18禁とさせていただきます。
【ラバーファーマは幼馴染】 工員の「僕」は毎日仕事の行き帰りに田畑が広がるところを自転車を使っていた。ある日の事、雨が降るなかを農作業する人が異様な姿をしていた。
その人の形をしたなにかは、いわゆるゴム服を着ていた。なんでラバーフェティシズムな奴が、しかも女らしかった。「僕」がそいつと接触したことで・・・トンデモないことが始まった!彼女によって僕はゴムの世界へと引き込まれてしまうのか? それにしてもなんでそんな恰好をしているんだ?
(なろうさんとカクヨムさんなど他のサイトでも掲載しています場合があります。単独の短編としてアップされています)
おんな戦闘員に憧れて
ジャン・幸田
大衆娯楽
私、就職希望です、おんな戦闘員に! そう思って拉致してもらって脱げない真っ黒な全身タイツ姿にされた私は、まったりとした戦闘員ライフを満喫するのであった!
*小説になろうさんでも連載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/sf.png?id=74527b25be1223de4b35)
斧で逝く
ICMZ
SF
仕事なんて大嫌いだ―――
ああ 癒しが必要だ
そんな時 満員電車の中で目にしたビデオ広告 VRMMORPG
ランドロンドオンライン やってみるかなーー
使うのは個人的に思い入れがある斧を武器としたキャラ
しかし 斧はネタ武器であり 明らかに弱くてバグってて
その上 LV上の奴からPKくらったり 強敵と戦ったり
一難さってもまた一難
それでも俺にはゲーム、漫画、映画の知識がある、知恵がある
人生経験者という名の おっさん なめんなーー
どんどん 明後日の方向にいく サクセス ストーリー
味付け | 甘め
ゲーム世界 | ファンタジー
ゲーム内 環境 | フレンドリー アプデ有(頻繁)
バーサス | PVE,PVP
ゲーマスと運営 | フレンドリー
比率 ゲーム:リアル | 8:2
プレイスタイル | 命は大事だんべ
キーワード | パンツ カニ 酎ハイ
でぃすくれいまー
ヒロイン出てから本番です
なろう/カクヨム/ノベルUpでも掲載しています
この小説はスペースを多用しています
てにをが句読点を入れれば読みやすくなるんですが、
会話がメインとなってくる物で
その会話の中で てにをが をちゃんと使いこなしている人、
人生で2人しか出会っていません
またイントネーション、文章にすると難しすぎます
あえてカタカナや→などをつかったりしたのですが
読むに堪えない物になってしまったので
解決するための苦肉の策がスペースです
読みやすくするため、強調する為、一拍入れている
それらの解釈は読み手側にお任せします
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私のバラ色ではない人生
野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。
だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。
そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。
ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。
だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、
既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。
ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。
アルテミスの着ぐるみ美少女たち
ジャン・幸田
青春
様々なコスプレイベント会場でレイヤー、特に着ぐるみ美少女の撮影を趣味としている橘高弘樹はある時、長身の美少女「大岩基美」をしているレイヤーに魅了された。
そのレイヤーの正体は幼馴染で”元恋人”の村城志桜里だった。彼女の”着ぐるみマスター”である謎の中年女性・成海に誘われ向かった先で弘樹は脅威の体験をすることになった!
弘樹はヒロインの真里亜の内臓になって志桜里が内臓になっている基美と百合百合な事をしてほしいというものだった。志桜里との関係はどうなってしまうというのだろうか?
(某掲示板でアップしたもののリテイクです。その時のものより大幅に加筆し設定は少し変更しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる