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第23話 セーナの悲痛な叫び

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 レオの怒号によって前国王の墓は予定より遥かに早く完成する。

 神殿を囲う壁には神聖な模様が描かれ、巨大な門は黄金色に光り輝く。
 豪華な造りはそれだけでない。数十メートルはある二体の黄金像が神殿の入口を護っている。

 その光景は前国王の権威を示すよう。
 だが、満足しているのはレオだけで、民衆の心には何かくすぶるものがあった。

 今やレオの評判は地に落ち、人々は口には出さないものの、不平不満を抱えているのは確実。いつ爆発してもおかしくはないのは間違いなく、それはほんの少し刺激を与えれば雪崩のように全てを飲み込んでしまう。

 しかし、たったひとりだけ、レオの身を案じている者がいた。

「レオ国王……。変わられてしまったのかしら。いいえ、たとえそうだとしましても、わたくしはレオ国王の味方ですわ。でも──」

 グラッセ公爵家の屋敷で物思いにふけるのはセーナ。
 レーナの復讐が成功に近づいているのは嬉しいが、レオの評判が落ちていくのに焦燥感を覚える。

 切ない──姉への尊敬とレオに惹かれる心が衝突し、複雑な胸中であった。

「分かりませんわ……。お姉様、わたくしはどうしたらいいのかしら」

 答えが見つからない。
 何が正しく何が誤りなのだろうか。
 レーナの復讐を手伝いたい気持ちは本物。だが……レオに対する気持ちも偽りでないはず。

 嬉しいのか悲しいのか、自分でもよく分からない。
 ひとつだけ確かなのは、胸が締め付けられほど苦しいこと。
 出口のない迷路に足を踏み込んでしまい、心が闇色に染まっていった。

「レオ国王に本心を聞いてみたいわ。でもそれは叶わぬ夢、復讐のためわたくしはお姉様の影でなければなりませんの……」

 影の存在であり続けなければならない──その言葉がセーナに重く伸し掛る。

 陽の光を浴びられず、復讐のためだけに生きるのがセーナの運命。
 本当にそれを望んでいるのだろうか?
 肯定しようにも心がそれを拒絶してしまう。頭で何度も言い聞かせ、否定という文字を消し去ろうとした。

「ダメですわ、わたくしは……お姉様を傷つけたものは誰であれ許せないのよ。そう、誰であっても……」

 考えれば考えるほど苦しさが増す。
 すり減る心は次第に温かさを失っていく。
 レオと出会ったのが間違いなのか──いや、復讐という目的があったからその道は正しいはず。

 大きく心が揺れ動き、セーナの中で何かが崩壊し始める。
 疲れたのかもしれない、もう何も考えたくなくなり、思考を自らの意思で停止させる。

 本当に欲しいものは手に入らない。それならレーナに言われた通りに動けばいいだけ。
 そうすればきっと……この苦しみから解放されるはず。それがベストな選択だとセーナは信じていた。
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