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Ep.6-5《纏わりつく粘液》

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体の内側も外側もスライムの粘液で満たされて、アーニャの感覚は苦しみの向こう側へと導かれる。
さっきまでは苦痛と快楽で痺れるような感覚が頭の中を支配していたのに、いつの間にかぬるま湯のお風呂に使っているかのような心地よい感覚に変わっていく。
そして意識はだんだんと遠のいていく。

(――だ、だめ……まだ、意識を失うわけには……っ!)

意識だけは失うまいと、アーニャは自身の舌を噛んで無理やり自分をたたき起こす。
そうして意識の喪失と覚醒の合間を何度も行来した。

「おいおーい、さっきから腰の痙攣が止まらねぇなぁ!」

そうしているとどこかから男の声が聞こえ、アーニャは今クリュリュとの戦闘中だったことを思い出す。
一体どれだけの時間、責められ続けたのだろう。
意識が混濁していて、一分程度だったような気もすれば、1日以上だった気さえする。

「ああ、最高だぜぇ……お前のイキ顔。俺は凛々しい女が快楽に負けて蕩けきった顔を間近で見るのが好きなんだ……」

相変わらず聞こえてくる、不愉快なクリュリュの声。
スライムの体の中を伝って聞こえてくるクリュリュの声は粘液の中を反芻し、声の発生源は分からない。

(や、やっと……)

そんな状況で、アーニャは口角を上げる。

「はははっ、笑い出しやがった。ついに気持ちよすぎて頭ぶっ壊れたか」

無様なアーニャの姿を見て、高笑いするクリュリュ。
だが彼は一つ勘違いをしていた。
アーニャのその笑みは、快楽に溺れたがゆえのものではない。

(やっと……見つけた……ッ!)

勝利への糸口を確信したがゆえの笑み。
アーニャは戦闘開始時からずっと右手で握りしめていたハンドガンの引き金を引く。

――バァンッ!

粘液の体を通して耳に響く轟音。

「ぐぁっ!? ぎぁああああああっ!」

続けて悶え苦しむクリュリュの声が響く。
全身に纏わり付いていたスライムの拘束が緩み、その隙にアーニャは勢いよく地面を蹴りその場を離れる。
皮膚が空気に触れ、露出した肌が地面を擦りながら転がる。

「んんっ……ごほっ、げほっ……おえっ……」

嗚咽をあげながら、喉の奥から粘液が吐き出される。
何度も嘔吐し苦しそうにするアーニャだが、ようやく粘液の拘束から抜け出すことができた。

「テメェ、何で俺の当たり判定を……っ!」
「自分で言ってたでしょ……私の顔を見てるって……」
「な、ぁ……」

アーニャはクリュリュに責められている間、ずっとクリュリュの弱点を探っていた。
スライムの体とはいえ絶対に存在するはずの頭部、目があるはずの場所を。

『ああ、最高だぜぇ……お前のイキ顔。俺は凛々しい女が快楽に負けて蕩けきった顔を間近で見るのが好きなんだ……』

だからアーニャはその言葉を聞いた瞬間、自分の顔のすぐ真ん前を撃ち抜いた。
クリュリュがまだ息があるのを見るに、直撃は免れたのだろう。
想定を超えるアーニャの戦略に、クリュリュは唖然とする。

「く、くそ……っ! まだだ、集まれ!」

クリュリュは慌てて、散らばったスライムの一部をかき集める。

「させるか!」

――バン、バン、バンっ!

一度見つけたものを、もう見逃したりはしない。
スライムが分散し剥き出しになったクリュリュの当たり判定に、アーニャは立て続けに発砲した。

「ぐがぁああッ!! く、そが……」

発砲する度に、スライムの体がまるで人間の体のように、ビクッビクッと跳ねる。

「――ねッ!」

そして銃弾がなくなった後も、アーニャはクリュリュの当たり判定と思わしき部分にナイフを突き立てる。
今だけは全ての原動力を怒りに任せ、粘液の体を滅多刺しにする。
何度も何度も、叩き潰すように。

「があああああッ!! あ……あぁ……っ」

そしてスライムの体はぶくぶくと沸騰するような動きで蠢いた後、急にスッと動かなくなり、ただの水になった。
しばらくすると機械音声のアナウンスが鳴り響く。

『試合終了。勝者、黒ずきんのアーニャ』

以前の試合の時に比べると、あまりにも抑揚のない無機質なアナウンス。
歓声の一つもない部屋の中で、アーニャは膝から崩れ落ちた。

「はぁ……はぁ……勝った……」

勝利を確認した瞬間、全身の力がすっと抜ける。
アーニャの視線は地面に吸い込まれ、そのまま意識を失った。


 ***


目が覚めると、そこはホテルの一室のような部屋にいた。
どうやらベッドに寝かされていたらしい。
上半身を起こすと、視界の右端にリリアの顔が見える。

「ここは……?」
「あ、おはよー。覚えてない? ベータアリーナ内にある私のプライベートルームだよ」

言われて思い出す。
ベータアリーナに併設されているホテルには関わりの深い人間だけが居住可能なプライベートルームがある。
リリアはミヨの弟子だけあって、そこには彼女用の部屋も用意されていた。
プライベートルームにはベータアリーナのロビーにあるものと同じ、試合に参加するための端末があり、ベータアリーナのロビーの空気すら吸いたくないアーニャはリリアの個室に呼ばれ、そこにある端末からプライベートマッチに参戦したのだった。

「あぁ、思い出した……あ、あれ……私、試合勝ったんだっけ……?」
「全然思い出してないじゃん。ちゃんと勝ったよ。賭けプライベートマッチ初戦白星おめでとー!」
「そっか、勝ったんだ……良かった……」

まだ意識はうつらうつらとしているが、ようやく勝利できたことへの実感が湧いてきた。

「試合には勝ったみたいだけど、意識失ったままこの部屋に送られてきたからビックリしたよー。ねぇね、どんな酷いことされたの? プライベートマッチの試合は観戦できないから気になるんだよねー」
「うるさいなぁ」

対戦前、リリアはクリュリュのことをアーニャなら勝てる相手と言っていたが、決して楽な勝利ではなかった。
むしろ敗北の可能性は多分にあった。
リリアが二人の実力を見誤ったのか、クリュリュが想定より強かったのか、あるいはアーニャの方が想定より弱かったのか……。
それは分からないが、顔を寄せてくるリリアが鬱陶しかったので彼女の頬を軽くペチンとはたいた。

「痛い……でもこれでしばらくは賭けプライベートマッチでお金稼ぎして、グミ集めして、表の大会で活躍するっていう流れができたね」
「う、うん……」
「どうしたの……浮かない顔して?」

確かに、これからはリリアの協力がなくとも感覚遮断グミを入手することが可能になった。
だが一つ、アーニャの中に心残りがあった。

「ねぇリリア、サナちゃんのこと、知らない?」
「サナ……うーん……?」

聞き覚えのあるようなないような名前に、リリアは記憶の引き出しを整理して思い当たる人物を探す。

「ああ、あのアーニャちゃんのファンの子ね」
「うん、レオとの試合の時、観客席にいるのが見えたんだけど、あれ以降彼女の姿を見てないの」
「うーん、見てないなぁ……理由は分からないけど、なぜかあの日ミヨさんと一緒にいたし……ミヨさんに何かされたか……あるいは……」

ミヨとの付き合いが長いからこそ、リリアは適当な励ましの言葉は言えない。
彼女に限っては、気分次第で本当に何をし出すか分からないのだから。

「単純に私の負けた姿を見てショックを受けたとか、幻滅しちゃったとか、その程度の理由であればいいんだけど……あの後、どうなったのか、ミヨさんに何かされたんじゃないかって思うと……」

心底心配そうな表情で俯くアーニャ。
その肩をリリアは優しくぽんと叩く。

「おっけ、私がさぐっておいてあげるよ」
「い、いいの……?」

リリアはベータアリーナに詳しく、ミヨの近辺にも詳しい。
アーニャからしてみれば、この件に関してリリア以上に役に立つ人はいなかった。

「うん、もちろんタダじゃないけどね~」
「え?」

だが残念ながら、彼女に純粋な優しさはない。
彼女の優しさは欲に塗れている。
その発言に呆気にとられている間に、服越しにリリアの指先がアーニャのへそに触れる。

「ンぁあッ!?」

ビクンと跳ねるアーニャの体。
それは先ほどの戦いで新たに追加されたばかりの呪いの影響だった。

「ま~た弱点増えちゃったでしょう? 私が感度チェックしてあげるね」
「や、やめっ……ああっ……」
「だめだめ~、サナちゃん探しに協力するための交換条件……でしょ?」

そう言われてしまうと、アーニャはもう抵抗できない。

「うっ、ぐっ……!」

まだ納得はできていないが、否応無しにリリアの指先は動き出す。
せめて快楽には耐えようと、必死に口を噤んだ。

「ふふっ、アーニャちゃんのへそマンコグリグリ~」
「ンぐッ!? ンぁあああああッ!!」

もちろん、呪いの力は意志の力で抗えるほど軟弱なものではない。
アーニャはしばらくの間、腹部を責められ続け、絶え間ない快楽に溺れ続けた。



~アーニャに与えられた呪い~

『左胸の感度上昇』
『右胸の感度上昇』
『潮吹き量増加』
『羞恥による快楽値の上昇量増加』
『連続絶頂のしやすさ上昇』
『口内の感度上昇』
『苦痛的刺激の快楽化』
New『腹部の感度上昇』
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