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第二章
第69話 これっていじめでしょうか?
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やっぱりあたしが悪かったんですかね?
あたし、あれから嫌がらせを受けるようになりました。
犯人は誰だか分からないんですけど、ちょっと目を離した隙にペンが無くなっていたり、あとは教科書を破かれて捨てられたりととにかく陰湿なことをされました。
あたしの場合はペンも教科書も学園から支給されているのでもう一度貰えてなんとかなったんですけど、もう次はダメだって言われちゃいました。
誰かに捨てられたって言ったんですけど、対応してもらえませんでした。犯人を見つけてきなさいと言われてしまったので、どうやら学園にこの問題を解決してもらうのは難しそうです。
だから教科書もペンも、大事なものは全部収納の中に入れてやったんです。そうしたらあたしに嫌がらせができなくなったからか、今度はあたしとヴィーシャさんの部屋の扉に落書きされました。
貧乏人だとか娼婦の子供だとか、ものすごく下らないことばかり書かれましたよ。
でも、だから何なんですかね?
こっちは貧乏人どころか孤児で、娼婦の子供どころか親が誰かも分からないんですよ?
あたしから言わせてもらえば娼婦の子供だってお母さんがいるだけで羨ましいですし、貧乏人でも自分で働いてご飯が食べられているなら偉いと思います。
どうしてこんな下らないことで嫌がらせになるって思ったんでしょうね?
あたしはあまりに下らなすぎて気にしていなかったんですけど、ヴィーシャさんとリリアちゃんは私のことをメンタルが強いって驚いていました。
そうなんでしょうか?
だって、あたし。孤児院でいじめられて奴隷として売られそうになって、さらに山賊とゴブリンに攫われて森の中でサバイバルまでしたんですよ?
その後はあのレオシュに追手まで差し向けられましたし。
それに比べればこの程度のこと、全然大したことではありませんから。
こんな落書きなんかよりもあのエロ王太子様と目の笑っていないドレスク先輩のほうがよほど怖いと思うんです。
ただですね。この落書き事件についてはヴィーシャさんのご両親が激怒したそうで、ご両親が学園に抗議を入れてくたそうです。
よく考えたらヴィーシャさんも貴族ですからね。
そのおかげで今、女子寮に住んでいる人全員が大きな部屋に集められています。
「さて、皆さんには集まってもらったのには理由があります」
皆さんを前にして、寮母のアリアドナさんが凛と通る声で話し始めました。
「皆さんは、この魔法学園の生徒です。そこに身分の貴賤など存在しません。学問の前に皆さんは平等なのです」
こつ、こつ、と靴を鳴らして数歩。アリアドナさんがゆっくりと歩くと部屋を見渡しました。
「ですが、残念ながらこの女子寮で他人を生まれで差別するような落書きがなされました」
アリアドナさんは顔を少しだけ伏せると小さく首を振りました。
「本当に、嘆かわしいことです。今すぐにでも追い出してやりたいですが、ここは学び舎です。一度だけ、反省するチャンスを与えましょう」
アリアドナさんがまた、こつ、こつ、と音を立てて歩きます。
「心当たりのある者は、今週中にわたくしに懺悔なさい」
そう言ってギロリと部屋全体を睨み付けるような強い視線を送ってきました。
「それからこのような卑劣な行為を行った者、行おうとしている者に警告します。次、同じことをやった者は即刻退寮処分としますからね」
退寮ってことは、つまり学園から追い出されるっていうことでしょうか?
でも、本当にそんなことできるんでしょうか?
すると、意外な人が挙手しました。
「はい。レジーナさん」
「アリアドナ様。お尋ねしたいのですが、被害に遭ったのは何年生ですの?」
「一年生。つまり、あなたと同じ学年の子ね」
「……そうでしたか。差し支えなければ、どのような被害に遭ったのか教えて頂けませんか?」
「それは名誉にかかわることです。ただ、もし仮にあなたがされたなら犯人は今ごろ修道院にいることでしょう」
それを聞いたレジーナさんの表情に、ほんの一瞬だけ怒りが宿ったような気がしました。
「では、わたくしにも発言をさせて頂けませんか?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとうございます」
それからレジーナさんは良く通る声で話し始めました。
「わたくしは一年の学年代表ですわ。何か文句があるなら、そのような愚かな行為をする前にまずこのわたくしに言いなさい。そして、やるべきことをせずにそのような愚行に及んだ者は恥を知りなさい! もし誇りがあるのなら、自らアリアドナ様に名乗り出ることですわね」
うわっ。何だかものすごく迫力のある声です。あまりにすごくて、あたしは被害者なのに少し怖くなってしまったくらいです。
「それから」
レジーナさんは部屋全体をぐるりと見まわします。
「次に被害に遭ったなら、わたくしに相談なさい? わたくしは一年の学年代表ですわよ?」
そう呼びかけた声はうってかわって優しいものでした。
でも、レジーナさんがバラサさんに命令してやらせているんじゃないんですか?
そう聞きたかったですが、何だか後が怖そうなのでやめておきます。
そうこうしているうちに、女子寮の集会は終わりました。
あ、もちろん犯人は名乗り出なかったらしいですよ。なので犯人は不明のままです。
==============
次回更新は通常通り、2021/05/22 (土) 20:00 を予定しております。
あたし、あれから嫌がらせを受けるようになりました。
犯人は誰だか分からないんですけど、ちょっと目を離した隙にペンが無くなっていたり、あとは教科書を破かれて捨てられたりととにかく陰湿なことをされました。
あたしの場合はペンも教科書も学園から支給されているのでもう一度貰えてなんとかなったんですけど、もう次はダメだって言われちゃいました。
誰かに捨てられたって言ったんですけど、対応してもらえませんでした。犯人を見つけてきなさいと言われてしまったので、どうやら学園にこの問題を解決してもらうのは難しそうです。
だから教科書もペンも、大事なものは全部収納の中に入れてやったんです。そうしたらあたしに嫌がらせができなくなったからか、今度はあたしとヴィーシャさんの部屋の扉に落書きされました。
貧乏人だとか娼婦の子供だとか、ものすごく下らないことばかり書かれましたよ。
でも、だから何なんですかね?
こっちは貧乏人どころか孤児で、娼婦の子供どころか親が誰かも分からないんですよ?
あたしから言わせてもらえば娼婦の子供だってお母さんがいるだけで羨ましいですし、貧乏人でも自分で働いてご飯が食べられているなら偉いと思います。
どうしてこんな下らないことで嫌がらせになるって思ったんでしょうね?
あたしはあまりに下らなすぎて気にしていなかったんですけど、ヴィーシャさんとリリアちゃんは私のことをメンタルが強いって驚いていました。
そうなんでしょうか?
だって、あたし。孤児院でいじめられて奴隷として売られそうになって、さらに山賊とゴブリンに攫われて森の中でサバイバルまでしたんですよ?
その後はあのレオシュに追手まで差し向けられましたし。
それに比べればこの程度のこと、全然大したことではありませんから。
こんな落書きなんかよりもあのエロ王太子様と目の笑っていないドレスク先輩のほうがよほど怖いと思うんです。
ただですね。この落書き事件についてはヴィーシャさんのご両親が激怒したそうで、ご両親が学園に抗議を入れてくたそうです。
よく考えたらヴィーシャさんも貴族ですからね。
そのおかげで今、女子寮に住んでいる人全員が大きな部屋に集められています。
「さて、皆さんには集まってもらったのには理由があります」
皆さんを前にして、寮母のアリアドナさんが凛と通る声で話し始めました。
「皆さんは、この魔法学園の生徒です。そこに身分の貴賤など存在しません。学問の前に皆さんは平等なのです」
こつ、こつ、と靴を鳴らして数歩。アリアドナさんがゆっくりと歩くと部屋を見渡しました。
「ですが、残念ながらこの女子寮で他人を生まれで差別するような落書きがなされました」
アリアドナさんは顔を少しだけ伏せると小さく首を振りました。
「本当に、嘆かわしいことです。今すぐにでも追い出してやりたいですが、ここは学び舎です。一度だけ、反省するチャンスを与えましょう」
アリアドナさんがまた、こつ、こつ、と音を立てて歩きます。
「心当たりのある者は、今週中にわたくしに懺悔なさい」
そう言ってギロリと部屋全体を睨み付けるような強い視線を送ってきました。
「それからこのような卑劣な行為を行った者、行おうとしている者に警告します。次、同じことをやった者は即刻退寮処分としますからね」
退寮ってことは、つまり学園から追い出されるっていうことでしょうか?
でも、本当にそんなことできるんでしょうか?
すると、意外な人が挙手しました。
「はい。レジーナさん」
「アリアドナ様。お尋ねしたいのですが、被害に遭ったのは何年生ですの?」
「一年生。つまり、あなたと同じ学年の子ね」
「……そうでしたか。差し支えなければ、どのような被害に遭ったのか教えて頂けませんか?」
「それは名誉にかかわることです。ただ、もし仮にあなたがされたなら犯人は今ごろ修道院にいることでしょう」
それを聞いたレジーナさんの表情に、ほんの一瞬だけ怒りが宿ったような気がしました。
「では、わたくしにも発言をさせて頂けませんか?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとうございます」
それからレジーナさんは良く通る声で話し始めました。
「わたくしは一年の学年代表ですわ。何か文句があるなら、そのような愚かな行為をする前にまずこのわたくしに言いなさい。そして、やるべきことをせずにそのような愚行に及んだ者は恥を知りなさい! もし誇りがあるのなら、自らアリアドナ様に名乗り出ることですわね」
うわっ。何だかものすごく迫力のある声です。あまりにすごくて、あたしは被害者なのに少し怖くなってしまったくらいです。
「それから」
レジーナさんは部屋全体をぐるりと見まわします。
「次に被害に遭ったなら、わたくしに相談なさい? わたくしは一年の学年代表ですわよ?」
そう呼びかけた声はうってかわって優しいものでした。
でも、レジーナさんがバラサさんに命令してやらせているんじゃないんですか?
そう聞きたかったですが、何だか後が怖そうなのでやめておきます。
そうこうしているうちに、女子寮の集会は終わりました。
あ、もちろん犯人は名乗り出なかったらしいですよ。なので犯人は不明のままです。
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次回更新は通常通り、2021/05/22 (土) 20:00 を予定しております。
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