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第三章
第三章第12話 ドレスク先輩とお話します
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「エルネスト様、ごきげんよう。覗きをなさるなんて、一体どういう了見ですの?」
「そ、それは……」
レジーナさんが見たこともないような冷たい表情でドレスク先輩にそう話しかけ、それを見たドレスク先輩はしどろもどろになっています。
「ローザの魔法が見たいのならそう仰ってください。わたくしは、きちんと席を設けると申し上げましたわよ?」
「そうなのですが、やはり私はどうにも上手く笑顔ができず……」
そう言い訳するドレスク先輩にレジーナさんは大きなため息を吐きました。
「だから、わたくしが立ち合うと申し上げましたわ。そんなことをしていれば余計にローザを怯えさせるだけですわよ?」
「……申し訳ありません」
そう叱られたドレスク先輩はしゅんとなっています。
やっぱり、レジーナさんはとても頼もしいです。レジーナさんがいてくれればドレスク先輩も怖くないかも……あ、やっぱりあの顔は怖いですけど……。
「さて、早めに終わらせてしまいましょう。エルネスト様、ローザに聞きたいことはなんですの?」
「っ! いいのですか!? レジーナ嬢!」
「いいも何も、そうしなければエルネスト様はずっとローザにつきまといますわよね?」
「そ、そんな……ことは……」
ドレスク先輩の声が尻すぼみになっています。
ということは、やっぱりこそこそと観察し続けるつもりだったんでしょうか?
「だから、この場で終わらせるんですわ。さあ、早く質問なさい」
「わ、分かりました。それではローザじょ痛っ! レジーナ嬢! 足が!」
「踏んでいるんですわ! その顔はおやめになるようにと申し上げましたわ」
「う……」
レジーナさんの後ろに隠れているおかげで見ずに済んでいますが、きっとあたしに話しかけようとしてあの目だけ笑っていない恐ろしい笑顔になっているに違いありません。
「で、では、その、魔法はどうやって発動しているのですか?」
「え?」
どうやって、と言われると困ってしまいます。
「ええと、こう、イメージして、あとは魔力をこう、集めてえいって……」
「イメージ、ですか?」
「はい。えっと、いつも狩りで使っている炎弾だとこんな感じです」
あたしは湖面に人差し指を向けると、いつものように炎弾を発射しまた。すると炎に包まれた魔力弾が放たれ、着水してぶつかって水しぶきを上げます。
「おおおっ! これが魔法! 素晴らしい! 何が起きているのか全く分かりませんでしたよ! ローザ嬢!」
ドレスク先輩はまるで少年のように目をキラキラと輝かせて水しぶきの上がった場所をじっと見つめています。
「やはりこれは炎属性なのですよね? いや、だが炎であれば着弾時にあんな風にはならないはず……」
ドレスク先輩はあたしのことなんて忘れたかのような様子で、炎弾についてあれこれと考えてぶつぶつと呟いています。
それから何かに気付いたようあたしのほうに顔を向けてきました。その表情はいつもの恐ろしい表情ではなくまるで子供のようにキラキラしています。
「もしや! 今のが入学試験のときに結界を破壊したのは今の魔法ですか!?」
「え? いえ、違います。あのときはもっとこう、威力を上げるように頑張ったんですけど……」
「ぜひ見せてください!」
「え? あ、は、はい」
あたしは半ば勢いに押されるように今度は白炎弾を空に向かって撃ちました。白い炎を纏った魔力弾が上空へと飛んでいき、吸い込まれるように消えていきます。
「おおっ! 白い!? もしやあれは光属性なのですか?」
「いえ、えっと、炎属性なんですけど……」
「どうして白いのですか? 炎とは赤いものですよね!?」
「え、えっと、その、温度が高くて……」
「温度が高いと炎の色が変わるのですか!?」
「は、はい……」
ドレスク先輩の食いつきがものすごいです。
ああ、この人は本当に魔術が大好きなんですね。
「では、なぜ炎属性なのにあのように閃光のような飛び方をするのでしょうか? それに結界を破壊しただけでなく盛り土を貫通するのは、炎では難しいですよね?」
「え? 盛り土? ってなんでしたっけ?」
「入学試験のときです。結界の後ろにあった盛り土にも穴をあけて岩にもヒビを入れていたではありませんか」
「え? えっと……あ!」
そうでした。そういえばあのとき後ろに合った盛り土を貫通して岩に当たってやっと止まったんでした。
「炎ではあのような貫通力を持つことは難しいと思うのです。ローザ嬢は一体どうやって炎にあれほどの貫通力を持たせたのですか?」
「えっと、あれは炎だけじゃなくて無属せ――」
あたしが説明しようとしたその時でした。突然ドスンという音と共に目の前に何かが落ちてきました。
「えっ!?」
「なっ!?」
「これは……」
何が落ちてきたのかを確認してみると、なんとそれはあたしの背丈と同じくらいはありそうな大きな鳥でした。頭から血を流していて、ピクリとも動きません。どうやらこの鳥は死んでいるようです。
一体何があったんでしょうか?
「バードドラゴン、ですわね」
「そうですね。バードドラゴンのようです」
「バードドラゴン?」
レジーナさんとドレスク先輩は分かっているようですが、あたしはこの鳥を見たことがありません。
それにバードドラゴンって鳥なのかドラゴンなのか、どっちなんでしょう?
「ええ。バードドラゴンという魔物ですわ。こんな見た目でもドラゴンの一種で、火を吹きますのよ」
「聞いたことないんですけど、珍しい魔物なんですか?」
「このあたりにはいないはずの魔物ですわ。ねえ、エルネスト様?」
「はい。レジーナ嬢の仰るとおりです。普段はもっと高い山の上に住んでおり、人前には滅多に姿を現さない珍しい魔物です。魔物としてはあまり強くない部類ですが、とにかく臆病ですので」
そう言ってドレスク先輩はバードドラゴンらしい鳥を確認しました。
「なるほど。どうやらこのバードドラゴンは頭を何かで攻撃されて絶命したようです。ぽっかりと穴が開いています。それと、傷口が焼け焦げていますね。きっとローザ嬢の放った魔法が当たったのでしょう」
「え?」
「さすが魔法です。まさかこれほどとは……」
ドレスク先輩はしきりに感心した様子で頷いています。
「ローザ。その魔法はしばらく使用してはいけませんわ」
「ええっ?」
「あまり見せびらかして噂が広まると、良からぬ誘いがさらに増えることになりますわよ?」
「えええっ?」
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次回更新は通常どおり、2021/10/30 (土) 20:00 を予定しております。
「そ、それは……」
レジーナさんが見たこともないような冷たい表情でドレスク先輩にそう話しかけ、それを見たドレスク先輩はしどろもどろになっています。
「ローザの魔法が見たいのならそう仰ってください。わたくしは、きちんと席を設けると申し上げましたわよ?」
「そうなのですが、やはり私はどうにも上手く笑顔ができず……」
そう言い訳するドレスク先輩にレジーナさんは大きなため息を吐きました。
「だから、わたくしが立ち合うと申し上げましたわ。そんなことをしていれば余計にローザを怯えさせるだけですわよ?」
「……申し訳ありません」
そう叱られたドレスク先輩はしゅんとなっています。
やっぱり、レジーナさんはとても頼もしいです。レジーナさんがいてくれればドレスク先輩も怖くないかも……あ、やっぱりあの顔は怖いですけど……。
「さて、早めに終わらせてしまいましょう。エルネスト様、ローザに聞きたいことはなんですの?」
「っ! いいのですか!? レジーナ嬢!」
「いいも何も、そうしなければエルネスト様はずっとローザにつきまといますわよね?」
「そ、そんな……ことは……」
ドレスク先輩の声が尻すぼみになっています。
ということは、やっぱりこそこそと観察し続けるつもりだったんでしょうか?
「だから、この場で終わらせるんですわ。さあ、早く質問なさい」
「わ、分かりました。それではローザじょ痛っ! レジーナ嬢! 足が!」
「踏んでいるんですわ! その顔はおやめになるようにと申し上げましたわ」
「う……」
レジーナさんの後ろに隠れているおかげで見ずに済んでいますが、きっとあたしに話しかけようとしてあの目だけ笑っていない恐ろしい笑顔になっているに違いありません。
「で、では、その、魔法はどうやって発動しているのですか?」
「え?」
どうやって、と言われると困ってしまいます。
「ええと、こう、イメージして、あとは魔力をこう、集めてえいって……」
「イメージ、ですか?」
「はい。えっと、いつも狩りで使っている炎弾だとこんな感じです」
あたしは湖面に人差し指を向けると、いつものように炎弾を発射しまた。すると炎に包まれた魔力弾が放たれ、着水してぶつかって水しぶきを上げます。
「おおおっ! これが魔法! 素晴らしい! 何が起きているのか全く分かりませんでしたよ! ローザ嬢!」
ドレスク先輩はまるで少年のように目をキラキラと輝かせて水しぶきの上がった場所をじっと見つめています。
「やはりこれは炎属性なのですよね? いや、だが炎であれば着弾時にあんな風にはならないはず……」
ドレスク先輩はあたしのことなんて忘れたかのような様子で、炎弾についてあれこれと考えてぶつぶつと呟いています。
それから何かに気付いたようあたしのほうに顔を向けてきました。その表情はいつもの恐ろしい表情ではなくまるで子供のようにキラキラしています。
「もしや! 今のが入学試験のときに結界を破壊したのは今の魔法ですか!?」
「え? いえ、違います。あのときはもっとこう、威力を上げるように頑張ったんですけど……」
「ぜひ見せてください!」
「え? あ、は、はい」
あたしは半ば勢いに押されるように今度は白炎弾を空に向かって撃ちました。白い炎を纏った魔力弾が上空へと飛んでいき、吸い込まれるように消えていきます。
「おおっ! 白い!? もしやあれは光属性なのですか?」
「いえ、えっと、炎属性なんですけど……」
「どうして白いのですか? 炎とは赤いものですよね!?」
「え、えっと、その、温度が高くて……」
「温度が高いと炎の色が変わるのですか!?」
「は、はい……」
ドレスク先輩の食いつきがものすごいです。
ああ、この人は本当に魔術が大好きなんですね。
「では、なぜ炎属性なのにあのように閃光のような飛び方をするのでしょうか? それに結界を破壊しただけでなく盛り土を貫通するのは、炎では難しいですよね?」
「え? 盛り土? ってなんでしたっけ?」
「入学試験のときです。結界の後ろにあった盛り土にも穴をあけて岩にもヒビを入れていたではありませんか」
「え? えっと……あ!」
そうでした。そういえばあのとき後ろに合った盛り土を貫通して岩に当たってやっと止まったんでした。
「炎ではあのような貫通力を持つことは難しいと思うのです。ローザ嬢は一体どうやって炎にあれほどの貫通力を持たせたのですか?」
「えっと、あれは炎だけじゃなくて無属せ――」
あたしが説明しようとしたその時でした。突然ドスンという音と共に目の前に何かが落ちてきました。
「えっ!?」
「なっ!?」
「これは……」
何が落ちてきたのかを確認してみると、なんとそれはあたしの背丈と同じくらいはありそうな大きな鳥でした。頭から血を流していて、ピクリとも動きません。どうやらこの鳥は死んでいるようです。
一体何があったんでしょうか?
「バードドラゴン、ですわね」
「そうですね。バードドラゴンのようです」
「バードドラゴン?」
レジーナさんとドレスク先輩は分かっているようですが、あたしはこの鳥を見たことがありません。
それにバードドラゴンって鳥なのかドラゴンなのか、どっちなんでしょう?
「ええ。バードドラゴンという魔物ですわ。こんな見た目でもドラゴンの一種で、火を吹きますのよ」
「聞いたことないんですけど、珍しい魔物なんですか?」
「このあたりにはいないはずの魔物ですわ。ねえ、エルネスト様?」
「はい。レジーナ嬢の仰るとおりです。普段はもっと高い山の上に住んでおり、人前には滅多に姿を現さない珍しい魔物です。魔物としてはあまり強くない部類ですが、とにかく臆病ですので」
そう言ってドレスク先輩はバードドラゴンらしい鳥を確認しました。
「なるほど。どうやらこのバードドラゴンは頭を何かで攻撃されて絶命したようです。ぽっかりと穴が開いています。それと、傷口が焼け焦げていますね。きっとローザ嬢の放った魔法が当たったのでしょう」
「え?」
「さすが魔法です。まさかこれほどとは……」
ドレスク先輩はしきりに感心した様子で頷いています。
「ローザ。その魔法はしばらく使用してはいけませんわ」
「ええっ?」
「あまり見せびらかして噂が広まると、良からぬ誘いがさらに増えることになりますわよ?」
「えええっ?」
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