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第四章
第四章第37話 帰宅しました
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冒険者ギルドを出て、なんとなく重たい気分で魔法学園へ向かっていると、ヴィーシャさんが声をかけてきました。
「浮かない顔だね?」
「え? そうですか?」
「うん。なんだかいつもと違うよ」
「えっと……」
「何か気になることがあるの?」
「それは……」
そうですね。どうしてこんなに重たい気分なんでしょう?
「あの助けた男が処刑されることに同情してらっしゃるのですか?」
ラダさんも心配そうな表情でそう聞いてきました。
「……違うと思います。悪いことをした人がちゃんと裁かれるのはいいことだと思います」
「では、依頼が達成扱いにならなかったことを気にしてらっしゃるのですか?」
「え? いえ、そんなことはないです。サインがもらえなかったんだから、仕方ないです。それに、あたしにペナルティがあったわけじゃないですから」
フドネラのときみたいに、狩った獲物を買ってきたなんて言われたわけじゃないですしね。
「あ!」
「どうなさいました?」
「えっと、なんだから分かった気がしました」
「どういうことでしょうか?」
「えっとですね。その、前にも冒険者ギルドでトラブルになったことがあったんです」
「左様でございますか」
「はい。でも、そのときは全然あたしの言っていることを聞いてもらえなくて。あちこちに確認してもらって、すごい時間がかかってやっと受付の人が思い込みであたしに着せた濡れ衣だって分かってもらえたんです」
「そのようなことが……」
「でも、今回って、あたしが言ったら何も確認せずに信じてもらえたじゃないですか。あたしはあたしなのに……」
「なるほど。ギルドの対応の違いが引っかかっていたのですね?」
「はい」
「それはひとえに、お嬢様がマレスティカ公爵家のご養女となられたからです。身分制度のないオーデルラーヴァとは違い、我が国には厳格な身分制度がございます。身分の高い者の言葉は重く受け止められ、平民が貴族の言葉を否定することはよほどの証拠がない限り難しいでしょう」
「で、でも、それで貴族が嘘をついたら……」
「平民たちは簡単に投獄されるでしょう」
「そうですよね……」
「だからこそ、マレスティカ公爵家は身分相応の行動を続けることでその名声を保って参りました」
「はい……」
そういえば、マレスティカ公爵家の悪口って今まで一度も聞いたことがない気がしますね。
それって身分が高いからっていうのもあるんでしょうけど、お義父さまやそのご先祖様たちがずっとちゃんとし続けてきたってことですよね。
……でも、そうじゃない貴族もいますよね。
振り返れば、あたしは偉い人に売られそうになって逃げてきました。逃げた先のオーデルラーヴァからだって、結局レオシュたちから逃げてきましたし、魔法学園に来てからだって一年生のときは理不尽な嫌がらせを貴族であるバラサさんにされて、貴族だからってかなり我慢させられました。
思い出すだけでその理不尽さに腹が立ちます。
……そうですよね。嫌なことだって分かってるんですから、あたしは同じことを他人にしたらいけませんよね。
「わかりました。おかしなことをしないように気をつけます」
「よろしいかと存じます」
ラダさんはニコリと笑い、ヴィーシャさんもうんうんと頷いてくれたのでした。
◆◇◆
翌日、あたしはお義父さまに呼び出されてお屋敷にやってきました。
えっと、はい。本当はあたしの実家っていうことになるんですけど、なんだかまだお客さんのような気がしちゃうんですよね。
「ローザお嬢様、おかえりなさいませ」
馬車から降りてきたあたしをメラニアさんと他のメイドさんたちが出迎えてくれます。
「えっと、ただいま戻りました。お義父さまは?」
「旦那様は執務室にいらっしゃいます。そのまま向かわれますか?」
「はい」
「かしこまりました。それではご案内いたします」
こうしてあたしはメラニアさんに連れられ、お義父さまの執務室にやってきました。
「旦那様、ローザお嬢様をお連れいたしました」
「ご苦労。入りなさい」
「かしこまりました。お嬢様、どうぞ」
メラニアさんはそう言って扉を開けてくれます。
「ありがとうございます」
あたしはお礼を言い、執務室の中に入ります。すると、お義父さまは優しく微笑みかけてくれました。
「ああ、おかえり。よく戻ってきたね」
「はい。ただいま戻りました」
「さあ、そこにかけなさい」
お義父さまの指し示したソファーに座ると、お義父さまは反対側に座りました。
「さて、ローザ。どうして呼ばれたか分かるかい?」
「えっと、多分昨日のことだと思うんですけど……」
昨日のことを思い出し、嫌な予感がふと頭を過ります。
「あ! もしかしてあの男が何もしていないっ言い張ってラダさんに――」
「いや、そんなことはないから安心しなさい。君は節度を持ってきちんと対応していたし、ラダが処罰を受けるようなこともないよ。正当な理由もなく貴族の令嬢に剣を向けたんだ。処刑されるのは当然だ」
「は、はい」
そうですよね。頭では分かっていますけど、やっぱり責任重大です。
「……ローザ、それは君が我が公爵家の養女だったからじゃないよ。どんな貴族家でも、それこそたとえ没落した男爵家の令嬢に対してでも、平民がそのようなことをすれば処刑は免れないんだ」
あれ? えっと……? お義父さまがどうしてそんなことを言ったのか分かりませんが、平民が貴族に対して何かしたら普通はそうですよね。
「はい。わかりました」
するとお義父さまは優しく微笑みながら頷きました。
「それでだね。今日呼び出したのはもちろん昨日のことがあったからだけれども、今後のローザの冒険者としての活動について話をしたいからなんだ」
「はい」
やっぱりトラブルがあったので、もう冒険者を辞めなさいって言われるんでしょうか?
……あれ? でも別にもう冒険者をする必要がない気もしますね。そもそも冒険者になったのはレオシュから逃げるためで、他に選択肢がなかったからですし。
「まず、冒険者ギルドに対して君に対する指名依頼を入れないようにと申し入れをしておいたよ」
あれ? どういうことでしょう?
「というのもだね。実は我が公爵家に治療依頼がすでに百件以上届いているんだ」
「えっ?」
「そして、そのすべてを今は断っているんだ」
「え? でも病気や怪我で苦しんでいるなら……」
するとお義父さまはうんざりしたような表情を浮かべました。
あ、あれれ? どういうことでしょう?
「浮かない顔だね?」
「え? そうですか?」
「うん。なんだかいつもと違うよ」
「えっと……」
「何か気になることがあるの?」
「それは……」
そうですね。どうしてこんなに重たい気分なんでしょう?
「あの助けた男が処刑されることに同情してらっしゃるのですか?」
ラダさんも心配そうな表情でそう聞いてきました。
「……違うと思います。悪いことをした人がちゃんと裁かれるのはいいことだと思います」
「では、依頼が達成扱いにならなかったことを気にしてらっしゃるのですか?」
「え? いえ、そんなことはないです。サインがもらえなかったんだから、仕方ないです。それに、あたしにペナルティがあったわけじゃないですから」
フドネラのときみたいに、狩った獲物を買ってきたなんて言われたわけじゃないですしね。
「あ!」
「どうなさいました?」
「えっと、なんだから分かった気がしました」
「どういうことでしょうか?」
「えっとですね。その、前にも冒険者ギルドでトラブルになったことがあったんです」
「左様でございますか」
「はい。でも、そのときは全然あたしの言っていることを聞いてもらえなくて。あちこちに確認してもらって、すごい時間がかかってやっと受付の人が思い込みであたしに着せた濡れ衣だって分かってもらえたんです」
「そのようなことが……」
「でも、今回って、あたしが言ったら何も確認せずに信じてもらえたじゃないですか。あたしはあたしなのに……」
「なるほど。ギルドの対応の違いが引っかかっていたのですね?」
「はい」
「それはひとえに、お嬢様がマレスティカ公爵家のご養女となられたからです。身分制度のないオーデルラーヴァとは違い、我が国には厳格な身分制度がございます。身分の高い者の言葉は重く受け止められ、平民が貴族の言葉を否定することはよほどの証拠がない限り難しいでしょう」
「で、でも、それで貴族が嘘をついたら……」
「平民たちは簡単に投獄されるでしょう」
「そうですよね……」
「だからこそ、マレスティカ公爵家は身分相応の行動を続けることでその名声を保って参りました」
「はい……」
そういえば、マレスティカ公爵家の悪口って今まで一度も聞いたことがない気がしますね。
それって身分が高いからっていうのもあるんでしょうけど、お義父さまやそのご先祖様たちがずっとちゃんとし続けてきたってことですよね。
……でも、そうじゃない貴族もいますよね。
振り返れば、あたしは偉い人に売られそうになって逃げてきました。逃げた先のオーデルラーヴァからだって、結局レオシュたちから逃げてきましたし、魔法学園に来てからだって一年生のときは理不尽な嫌がらせを貴族であるバラサさんにされて、貴族だからってかなり我慢させられました。
思い出すだけでその理不尽さに腹が立ちます。
……そうですよね。嫌なことだって分かってるんですから、あたしは同じことを他人にしたらいけませんよね。
「わかりました。おかしなことをしないように気をつけます」
「よろしいかと存じます」
ラダさんはニコリと笑い、ヴィーシャさんもうんうんと頷いてくれたのでした。
◆◇◆
翌日、あたしはお義父さまに呼び出されてお屋敷にやってきました。
えっと、はい。本当はあたしの実家っていうことになるんですけど、なんだかまだお客さんのような気がしちゃうんですよね。
「ローザお嬢様、おかえりなさいませ」
馬車から降りてきたあたしをメラニアさんと他のメイドさんたちが出迎えてくれます。
「えっと、ただいま戻りました。お義父さまは?」
「旦那様は執務室にいらっしゃいます。そのまま向かわれますか?」
「はい」
「かしこまりました。それではご案内いたします」
こうしてあたしはメラニアさんに連れられ、お義父さまの執務室にやってきました。
「旦那様、ローザお嬢様をお連れいたしました」
「ご苦労。入りなさい」
「かしこまりました。お嬢様、どうぞ」
メラニアさんはそう言って扉を開けてくれます。
「ありがとうございます」
あたしはお礼を言い、執務室の中に入ります。すると、お義父さまは優しく微笑みかけてくれました。
「ああ、おかえり。よく戻ってきたね」
「はい。ただいま戻りました」
「さあ、そこにかけなさい」
お義父さまの指し示したソファーに座ると、お義父さまは反対側に座りました。
「さて、ローザ。どうして呼ばれたか分かるかい?」
「えっと、多分昨日のことだと思うんですけど……」
昨日のことを思い出し、嫌な予感がふと頭を過ります。
「あ! もしかしてあの男が何もしていないっ言い張ってラダさんに――」
「いや、そんなことはないから安心しなさい。君は節度を持ってきちんと対応していたし、ラダが処罰を受けるようなこともないよ。正当な理由もなく貴族の令嬢に剣を向けたんだ。処刑されるのは当然だ」
「は、はい」
そうですよね。頭では分かっていますけど、やっぱり責任重大です。
「……ローザ、それは君が我が公爵家の養女だったからじゃないよ。どんな貴族家でも、それこそたとえ没落した男爵家の令嬢に対してでも、平民がそのようなことをすれば処刑は免れないんだ」
あれ? えっと……? お義父さまがどうしてそんなことを言ったのか分かりませんが、平民が貴族に対して何かしたら普通はそうですよね。
「はい。わかりました」
するとお義父さまは優しく微笑みながら頷きました。
「それでだね。今日呼び出したのはもちろん昨日のことがあったからだけれども、今後のローザの冒険者としての活動について話をしたいからなんだ」
「はい」
やっぱりトラブルがあったので、もう冒険者を辞めなさいって言われるんでしょうか?
……あれ? でも別にもう冒険者をする必要がない気もしますね。そもそも冒険者になったのはレオシュから逃げるためで、他に選択肢がなかったからですし。
「まず、冒険者ギルドに対して君に対する指名依頼を入れないようにと申し入れをしておいたよ」
あれ? どういうことでしょう?
「というのもだね。実は我が公爵家に治療依頼がすでに百件以上届いているんだ」
「えっ?」
「そして、そのすべてを今は断っているんだ」
「え? でも病気や怪我で苦しんでいるなら……」
するとお義父さまはうんざりしたような表情を浮かべました。
あ、あれれ? どういうことでしょう?
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