褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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恕し

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リーストファー様は次の日丸一日部屋から出てこなかった。

そしてその次の日の早朝、庭で剣を振るリーストファー様を、リーストファー様に気づかれないように私はこっそりと見つめている。


「ミシェル、隠れてないで出て来たらどうだ?」


私は隠れていた木から身を出した。

私はリーストファー様と顔を合わせられなくて俯いた。

近付いてくる足音に私はぎゅっと目を瞑った。


「怯えるな、怒ってない」


そう言うと、リーストファー様は私を抱きしめた。


「ミシェル、一つ確認していいか?」


私はリーストファー様の腕の中で頷いた。


「俺を愛しているのは偽りか?」

「違います」


私は俯いていた顔を上げた。顔を上げればリーストファー様と目が合った。


「違います、私はリーストファー様を愛しています。心から愛しています」

「それが聞けたら充分だ」


そう言って笑ったリーストファー様の顔を見たら安心したのか、ポロポロと目から涙が溢れてきた。


「申し訳ありません…」


リーストファー様は私の涙を指で拭った。


「ミシェルが謝る必要はない。初めに私情を挟んだのは俺だ、そうだろ?ミシェルが自分勝手だと言うならそれは俺もだ」


リーストファー様は私を抱きしめ、私はリーストファー様の胸に顔を埋めた。


「愛してるミシェル」


私はリーストファー様の背に手を回し抱きついた。


「私も、愛してます」

「このまま聞いてくれるか?」

「はい」

「あの地を治めるのは、自信がない。俺にとってあの地は苛まれる場所だ。喪失感も、後悔も、あの地を思い出すだけで今尚俺の内に残る感情だ。

復讐に意味はない、それは納得した。愛するミシェルを、愛する人達を俺の行動で危険に巻き込みたくはない。

だけどな、たまに夢を見るんだ。まだ死にたくなかったと言ってるあいつらの夢を、俺が捕まったあいつらを助け出す夢を、あいつらが集まって話し笑っている姿を俺は傍から見ている。ただその姿をどこか別の場所から見つめているだけの夢を、俺だけがいない、俺だけは中に入れない、声をかけたいのに声が出ない、一緒に話し笑いあいたいのに、俺もその中に混ざりたいのに、俺はその光景を覗くことしかできない。まるで箱の中を上から覗くように、ただ見つめることしかできないんだ。

その夢を見ると、まるで俺を拒絶しているようで、助け出せなかった俺を赦さないと言われているように思える。そんな俺があの地を治めるに相応しいと思うか?あいつらは赦してくれると思うか?

ただ見つめる事しかできなかった俺を、何もできなかった俺を、あいつらは恕してくれるだろうか…」


リーストファー様は私をぎゅっと抱きしめた。

夢は夢だから、そんな一言で終わる話しじゃない。『恕してくれます』そう言うのは簡単だけど、戦場での出来事を聞いた今、簡単には言えない。

彼等の最期は無残な死を遂げた。目の前で、確かに彼等はまだ生きていた。本当に助け出せたのかは分からない。分からないからこそ後悔は続く。あの時、もし、していたら、していれば、後悔とはそういうものだと思う。それはきっとあの場に居た誰もが思い続ける感情。

そしてその元凶の殿下に矛先を向ける。

私はなんて無力なんだろう…

リーストファー様にかける言葉もない。ただ抱きしめるしかできない。同じ荷物を背負いたい、そう思っていた。そうできると思っていた。

なんて浅はかな…

重い重い荷物は私が考えるよりはるかに重いものだった。

ならせめて、私だけは、リーストファー様の行動を正当化しよう。復讐の刃を向けるなら『それは正義だ』と声を上げよう。

リーストファー様を一人にはしない。

無力な私でもできる。

リーストファー様と共に…

私は貴方の妻だから。貴方は私の愛する人だから。


私はただただリーストファー様を抱きしめた。


「ミシェル、明日王宮軍に行ってくる」


私はリーストファー様を見上げる。リーストファー様は私の髪を撫でている。


「俺の剣とテオンの剣の手入れが終わってな、取りに行くんだ。テオンの剣はテオンに返そうと思う。

俺はテオンの剣で復讐を誓った。だが、テオンの剣はそんな事に使っていい剣じゃない。神聖な戦士の剣だ。剣は己の命と同義、戦士の剣は戦士に返す、テオンの元に戻すのが道理だ」


テオン様の剣を復讐の道具にしてはいけない。それは私もそう思う。そして持ち主に返す、それが一番理に適っている。

そして彼等は後世に英雄として名を残さないといけない。彼等は騎士として立派だった。理不尽な死と分かっても、忠誠を重んじる騎士として立派だったと。


その日の夜、私達は抱きしめあって眠った。この2日間、お互い眠れぬ夜を過ごした。

人肌がこんなにも安心できるものだと改めて思った。そして同時にこの温もりなしではもう眠れないと知った。




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