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独占します
しおりを挟む今私は馬車の中に居る。
王宮軍へ向かうリーストファー様について行く為に。王宮軍は王宮の敷地にあり、もしかしたら陛下や殿下に会うかもしれない。
もしリーストファー様が復讐を選んだ時、その時は私も声を上げる。そして一緒に…。だから側にいたい。
リーストファー様に『一緒に行きます』と伝えれば、一緒に連れて行ってはもらえない。だから前もって乗り込んでいるの。
馬車の外から話し声が聞こえる。そして馬車の扉が開いた。
「ここに居たのか。道理でどこを探してもいないはずだな」
私はリーストファー様の呆れた顔を見て見ぬふりをした。
「さあ王宮軍へ参りましょう。さあさあ早くリーストファー様も乗って下さい」
私は笑顔でリーストファー様が乗り込むのを待っている。
「ミシェル」
私は『意地でもついて行きます』と伝わるように、にこにこと笑った。
「こういう時のミシェルに何を言っても無駄だと俺にもようやく分かるようになった」
「ではお早く」
私は自分が座る隣をポンポンと叩いた。
お見送りで立っているニーナも苦笑いをしている。リーストファー様は『はぁ』と一息吐いて馬車に乗り込んだ。
リーストファー様が乗り込むと馬車は動き出した。隣に座るリーストファー様はぶつぶつと独り言を言っている。
「ミシェルには内緒にするべきだったか?」
私はその独り言を拾った。
「あら、妻の私に隠し事ですか?私に隠れて行かないと王宮軍へは行けないんですか?何かやましい事でも?
そうですわね、それはそれはとてもお綺麗なお姉様方が王宮軍の門にはいつも大勢お待ちになっておりますもの。妻同伴では行けませんわよね」
私はぷいっとリーストファー様から顔を背けた。
王宮軍の騎士兵士達が出入りする門にはいつも女性達が差し入れや手紙を持って待っている。寝食は王宮軍の宿舎といえど、休みの日や夜になると街へ行く人達はいる。それに妻帯者は基本、邸に毎日帰るから、意中の男性に渡してほしいと差し入れや手紙を頼むと聞いた。馬車は中に入れないから必ず門の前で乗り降りをする。その時に手渡すらしい。
リーストファー様もきっと何度も差し入れや手紙を渡されたと思う。
妻帯者でも関係ないと言う女性がいるのも知ってる。差し入れは好意ではなく労いだかららしいけど、好意しかないわよね?
「愛しい妻をあんなむさ苦しい所に行かせたくないだろ?それに飢えた野郎共にミシェルを見せたくない。ミシェルを目にも映してほしくないし、ミシェルの声も聞いてほしくない。それに…」
リーストファー様は私の肩を抱き寄せた。
「ミシェルは俺だけのミシェルだろ?」
こう言えば私が引き下がるとでも?
「だからこのまま邸に戻ってくれ」
でも私も引き下がれないわ。
「リーストファー様は私の愛しい夫です。彼には愛しい妻がいます、だから差し入れも手紙ももう受け取りませんよって、妻として牽制したいんです。
それに皆様にご挨拶もしたいんです。夫婦になってから一度もご挨拶してませんもの。それでもリーストファー様が邪魔だと思うのなら私は邸に戻ります。リーストファー様に迷惑をかけたい訳ではありませんから」
リーストファー様に肩を抱かれている私は、リーストファー様を見上げる。
「私はやっぱりお邪魔ですか?」
「邪魔なわけないだろ」
リーストファー様は私の頭に頭を重ねた。
「ただ俺の我儘だ。可愛いミシェルを誰にも見せたくないっていうな」
「それを言ったら私だって、格好良いリーストファー様をお姉様方に見せたくありません。私だけのリーストファー様ですもの」
「そんなに心配なら横抱きして行くか?」
「そこまでは…」
流石に横抱きは恥ずかしい。
そんな話をしていたら王宮軍の門に着いた。扉が開けられリーストファー様が先に降りた。リーストファー様の姿を見たお姉様方の声が聞こえ、私は『ほらやっぱり』と、馬車の中からリーストファー様を睨んだ。
不機嫌な私の顔をリーストファー様は嬉しそうに見つめている。
「愛しい俺の奥さん、どうかエスコートする権利を俺に与えて頂けませんか?」
リーストファー様は私に向かって手を差し出した。
「ふふ、愛しい私の旦那様、エスコートをお願いできます?」
私はリーストファー様の手に手を重ねた。ぎゅっと握られた手、見つめ合う視線、そして私は馬車から降りた。
『キャー』と悲鳴に近い声が辺りに響いた。鋭い視線が私に向けられている。『いつまで手を握っているのよ』『早く離れなさいよ』そんな声も聞こえてくる。
手を離すつもりはない。離れるつもりもない。夫を独占して何が悪いの?
「ミシェル」
リーストファー様は繋いでいる私の手を引っ張り、私はリーストファー様に引き寄せられた。リーストファー様は引き寄せた私の腰に手を回し、私の頭に口付けをした。
私がリーストファー様を見上げれば、今度は額に口付けを落とした。
そして耳元で
「愛してるミシェル」
私にだけ聞こえるように囁いた。
「ククッ、どうだ?牽制は出来たか?」
悪戯っ子の顔をしているリーストファー様、そして真っ赤な顔をしている私。
「まだ足りないか?」
リーストファー様は私を横抱きしようと膝裏に手を当てた。
「た、足りてます、充分です」
私は慌ててリーストファー様を止めた。
「そうか?でも俺はまだまだ充分じゃない」
そう言うと、次の瞬間私は横抱きされていた。恥ずかしくてリーストファー様に抱きつき顔を隠した。
周りではお姉様方の悲鳴が聞こえ、リーストファー様は満足気の顔をしている。真っ赤な顔をした私は横抱きのまま門を通った。
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