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頑張ります
しおりを挟むリーストファー様が怖い顔をしても、私も負けられない。
「なあに?リーストファー様」
にこにこと笑って答えた。
『はあぁぁぁ』とそれはそれはとても大きな溜息を吐いたリーストファー様。
リーストファー様は私を抱きしめた。
「俺の奥さんは困った人だ…、だから目が離せない。
いいかミシェル、ミシェルは女だ、辺境の騎士にそんな奴はいないと思っているが、もしどこかに連れ込まれたり何かされたら叫べ。怖くて声が出なかったら怪我をさせてもいい、近くにある物で殴れ。もし近くに何もなければ急所を思いっきり蹴り上げろ。言葉で説得しようなんて思うなよ?」
「わたくし淑女でしてよ?」
「隊長仕込なんだろ?」
「人を傷つけるなんてできません」
「そうなった奴は人じゃない獣だ」
「獣でも傷つけるなんて私にはできません」
「なら今すぐ無理矢理連れて帰る」
「私の罪は私が償うと言いました」
「なら俺の忠告を守ってくれ」
「分かりました」
「約束だぞ」
「はい」
『はあぁぁ』とリーストファー様は私をギュッと抱きしめた。
「ゴホン」
咳払いが聞こえ、私はリーストファー様の腕の中から抜け出した。
立っていたのは辺境伯と辺境伯の後ろに2人。
「殿下には隊長を、君には小隊長を付ける」
辺境伯に言われ気がついたけど、殿下が近くに居る事を忘れていた。
「はい」
私は紹介された小隊長に挨拶をした。
「ミシェルです、ご迷惑をおかけしますがよろしくお願い致します」
「ああ」
そっけない返事でも仕方がない。
「小隊長」
リーストファー様が小隊長に話しかけた。私は手でリーストファー様を制し顔を横に振った。
「副隊長はご自分のお仕事へお戻り下さい」
「だが」
「副隊長、お戻り下さい」
リーストファー様は耐えるように立っていた。ギュッと握られた拳を見て見ぬふりをして私は小隊長と向き合う。
「ではお願い致します。一つお聞きしてもよろしいですか?」
「手短に」
「では、私達の行動範囲は」
「砦の中全部だ」
辺境伯が答えた。
「ありがとうございます」
今度は間違えない為にも、殿下の様子を見る為にも、少しの間は行動を共にしたほうがいい。
「では、洗濯場へ行きたいのですが」
『案内する』と小隊長は歩き出した。
「殿下も行きますよ」
小隊長の後を私達は歩く。
「殿下俯いてはいけません。全て受け止めるんです。その為に残ったんでしょう」
『ああ』と殿下は顔を上げた。私達が歩けば視線が突き刺さる。それでも下を向いてはいけない。
過ぎてしまった事をどれだけ後悔してももう戻らない。なら今自分達が出来る事をしっかりやるしかない。視線を受け止めるのも、どんな罵倒でも受け止める。
顔を晒す
それが今出来る事。
洗濯場には大量の洗濯物がある。
「僕達、お姉ちゃん達今日から入った新入りなの、よろしくね。それでね、一緒に入れてもらってもいいかな?」
洗濯場には子供達が洗濯物を洗っていた。『いいよ』と子供達が答えた。
「お姉ちゃん達洗い方が分からないの。お姉ちゃん達の師匠になって教えてくれる?」
『ここに座って』と一人の男の子が場所を空けてくれた。私達は空いた場所に腰を下ろし、洗い方を見せてもらう。
見よう見真似ではあるけど洗濯物を手に取り洗う。
「もっとごしごししないと汚れが落ちないよ」
「こう?」
私はごしごしと擦った。こんなにごしごし擦って傷まない?と思うくらいに。
「お兄ちゃんこうだよ」
殿下はきちんと話しを聞いている。
「お兄ちゃんが新入りなのは分かるけど、お姉ちゃんはメイドさんの新入りじゃないの?メイドさんの新入りの洗濯場はここじゃないよ?」
「あら、女の子が騎士に憧れたら変?」
「変だよ、剣は男が持つ物だもん」
「確かに女の子は剣を持たないわね。でもこれでもお姉ちゃん幼い頃は剣の稽古をしていたのよ?
それに騎士に憧れる女の子は多いのよ?騎士って強くて格好良いでしょ?憧れは恋心と似てるの」
「僕まだよく分からないや」
「ふふっ、そうね、まだ分からないわよね」
辺境隊隊長と小隊長は少し離れた場所で私達を監視している。
「でもお姉ちゃん石投げは得意よ?」
「そうなの?なら休憩になったら見せてよ」
「休憩がもらえたらね」
それからも洗濯物を一枚一枚ごしごし洗っていった。
殿下は黙々と洗っている。
大きな桶の中で子供達はキャッキャ言いながら足踏みをしている。その光景を私は目を細めて見つめる。
リーストファー様が前に言っていたのはこのことね。
楽しそう…
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、一緒にやろうよ」
「いいの?」
私と殿下は裸足になり、私はドレスの裾をあげ、殿下はスボンの裾をめくった。
少し冷たい水の中に足を踏み入れ、右左と動かす。自然と前へと進み、桶の中を歩く。自然と笑みがこぼれ、私も子供達と同じようにキャッキャ言っていた。
「お姉ちゃんはこっちを持って」
大きなシーツを広げ洗濯物を吊るす紐にかける。パタパタとゆれるシーツ。
洗濯が終われば彼等は少し休憩らしい。
「お姉ちゃん石投げやろうよ」
『ちょっと待ってて』と子供達に伝え、少し離れた所にいる隊長と小隊長のもとに行った。『子供達に石投げを見せてもいいですか?』と聞けば、隊長が頷いた。
子供達は木に的をつけ石投げをしている。私も子供達に混ざり石投げをする。久しぶりに石投げをしたけど、案外体が覚えているものね。
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