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ルイス様の処罰

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「そちらには悪いが、俺はこの男を信用していない。鎖で繋がせてもらう」


辺境伯が見守る中、ルイス様は牢屋から出た。

手は鎖で繋がれ、その鎖はおじさまが持っている。

私の隣にはリーストファー様。私の周りには公爵家の騎士達が私を囲っている。

ルイス様の処罰の提案に辺境伯は同意した。牢屋からルイス様を出すにあたり辺境伯とおじさま、私も同席し話し合いを重ねてきた。そして今日、厳重な警備のもと、遠くから殿下の様子をルイス様に見せる。

療養棟の庭、隠れるように影からルイス様は見ている。


「あれは誰だ…」

「殿下ですよ」


私はルイス様の呟きに答えた。

ルイス様は勢いよく私を見た。


「いや、あれは別人だ」

「ああ、痩せられましたから」


ルイス様の記憶には殿下は白豚ちゃんで残っているのだろう。殿下は痩せただけではなく、最近は逞しくなった。以前の面影は微塵も残っていない。

前までは肩を貸してもふらついていたのに、今はきちんと支えられる。


「本当にあの男なのか」

「ええ、あのくそったれです」


『お、おい』とルイス様は慌てた顔をし、私は『ふふっ』と笑った。

辺境伯の前で殿下を『くそったれ』とは言えない。それはルイス様がまだ騎士の心を持っている証拠。

殿下の様子を影からジッと見つめているルイス様。

握る拳には力が入っている。鎖で繋がれているとはいえ、それでもその場から動く気配はない。

ただ、ジッと見ている。

邪険にされる殿下を、それでも立ち上がり何度も手を貸す殿下を、パンを投げられようが、下に落ちた食事の残骸を拭き取り掃除する姿を、

ただジッと見つめている。


「片足や片腕を失い、思うように動かない体に苛苛し殿下に当たる事もあります。でもそれは甘えの一種だと私は思います。幼い頃自分だけ出来なくて親に当たった経験は誰にでもあります。泣いて怒って癇癪を起こす、それに似た行動だと私は思います」


初めの頃とは違い、今は『すまなかった』と、当たり散らし冷静になった彼等は殿下にそう声をかける。

信頼と呼べるほどではなくても、彼等は殿下を認めている。

それは殿下が一人で頑張った証拠。



私達も軽い昼食を取り、また殿下の様子を見ている。


「あれは何をしている」

「体の一部を失っても騎士でありたいとそう彼等は言いました。

書類を整理し処理するのも立派な仕事です。稽古をする騎士達が稽古に集中出来るのも、こうした裏方の方々がいるからこそです。

ルイス様、前線に立つだけが騎士の生き方ではありません。彼等のように裏方に回るのも騎士の生き方です。適材適所、彼等もまた辺境を支える一人です。

殿下は文字に疎い彼等に文字を教え、書類の処理の仕方等丁寧に教えています。あれでも元王太子ですから書類の処理はお手の物です」


彼等は体の一部を失い絶望していた。生きる意味さえ分からず、息をするのも、物を食べるのも億劫だと、自分達は死人だとそう言った。


「何を失っても生に貪欲なのが人です。騎士の方々は人の生死を間近で経験するからこそ、今生きている命を粗末に扱ってはいけません」


死人だと言った彼等も、己の命には生には貪欲だった。死にたいと言いながらも生きたいと本音をこぼす。

『剣を振れない騎士は騎士じゃない』

一人の騎士がそう言った。

『剣が振れないなら頭を使えばいい。王宮の騎士隊にも書類仕事専属の騎士がいる。彼等も剣を振るのは苦手だが騎士隊を支える一人だ』

殿下はそう言った。

『俺は文字は読めるが書くのは得意じゃない。それに計算もだ』

『それなら学べばいい。文字や書類処理は私の得意分野だ』

殿下は幼い子に教えるように少しづつ彼に教えた。それを見た他の騎士達も一人また一人と殿下に教えてもらうようになった。

昼食後のこの時間は、殿下が教師で彼等は生徒。

死人だと言っていた彼等も正気に戻り、騎士として生きる道をもう一度見つけた彼等は今を生きる辺境の騎士の誇りを取り戻した。

血気盛んな騎士の姿も、苛苛し当たり散らす姿も、それが今の彼等の姿。それでも彼等は前を向く。

剣を振れなくても自分も辺境の騎士の一人だと。

文字を覚えれば『俺にもまだやれる事があった』と喜んだ。一人が出来れば『俺も負けてられない』と皆が奮闘した。『昨日習った事が今日出来たなんてすごいじゃないか』と殿下は彼等を鼓舞し続けた。

『私は褒められた事がない。だから私のような人間が出来上がった。教師を責めるつもりはない。父上の一人息子として厳しく教えるのは当然だ。国を左右する決断に迷いがあってはならない。国を背負う王に過ちは許されない。私はどれだけ己を過信し驕っていたのだろう。

私も本音を言えば褒めてもらいたかった。『よく出来ました』と言われたかった。王子なのだから出来て当たり前だと言われればそうかもしれないが、褒められるミシェルが羨ましかった』

そう言った殿下の顔は今でも忘れられない。

殿下は自分がそう教えてもらいたかったように彼等に教えている。

私の教師も厳しい人だった。それでも褒める所は褒める人だった。殿下のように出来て当たり前ではなく、出来るようになったら褒める。出来ないうちは本当に厳しかったけど…。それでも褒められればまた褒められたいと努力する。

殿下は言った。『『ありがとう』は本当に魔法の言葉だな。お礼を言われたくて教えている訳ではないが、それでもまた力を貸したくなる』

彼等に教える事で、殿下も救われてほしいと思う。


「彼等もまた辺境の騎士の一人として何が出来るか模索し、生きる道を見つけ努力しています」


私はジッと見つめるルイス様の横顔を見つめた。



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