褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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下準備

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リーストファー様は話を続けた。


「エーネ国の辺境伯からバーチェル国の辺境伯へ打診してもらう。その時一緒に首飾りを届けてほしい。首飾りの捜索、そして返却も辺境伯から頼んでもらう。その首飾りは形見でな、遺品といえば遺品だからな。

誰が届けるのかはそちらで決めてくれ。まぁ見つけた者にこちらは届けてほしいとは思うがな」


リーストファー様は後ろを振り返り私を見た。


「ここからはミシェルの得意技だろ?」


リーストファー様は小声で私に言った。

私はリーストファー様に微笑み、リーストファー様の後ろから前に出た。


「隊長さん、約束の首飾り、今もお持ちですか?」

「ああ」


隊長さんは胸元から首飾りを取り出した。


「夜なので少しこちらからは見えづらくて…。申し訳ありませんがもう少しこちらに手を出して頂けませんか?本当にあの首飾りか確認は必要ですもの」


私はにこっと微笑んだ。

隊長さんは手をグッとこちらに差し出した。隊長さんの手のひらの上に乗っている首飾りを私も身を乗り出してジッと見つめる。


「そうですそうです、これです」


私は手のひらの上に乗っている首飾りを手に取った。


「あら!どうしましょう。つい、手に取ってしまいました…。

ほら、差し出されたらつい手に取ってしまいますでしょう?それに私の首飾りが目の前にあったので、つい……。

リーストファー様」


私は勢いよく振り返り抱きついた。


「リーストファー様、どうしましょう。この首飾りがなければ、もしこちらに来れたとしても辺境の砦までしか無理ですよね。ダムスお爺さんは家から動かせないのに、どうしましょう」

「俺はリーストファーじゃないけどな」

「え?」


私は顔を上げた。


「キャー!」


私は慌てて抱きついていたルイス様から勢いよく離れた。

その時手に持っていた首飾りが…。


「あっ」


石垣を越えバーチェル国側にいるお二人の前に落ちた。


「どうしましょう。大事な形見なんです。それもそれ…」


私は顔を俯けた。


「ミシェル、首飾りを失くしたのはいつだ」


リーストファー様の声に私は顔を上げた。


「晩です」

「見つかったか?」

「いいえ、こちら側にはありませんでした」


夜遅いとはいえ晩なのは変わりない。確かに人によって晩の捉え方は違う。夜と言えば闇夜を連想する。晩と言えば日が沈んだ頃を連想する人もいれば、辺りが暗闇になってからも晩と言う人はいる。


「テオドール、何か落ちているな、拾ってくれ」


隊長さんはテオドールさんに拾わせようと、私達の話に合わせてくれた。

でもテオドールさんは拾おうとはしない。

その理由は分かる。父親には会いたいけど、リーストファー様は憎む相手。


「隊長命令だ、テオドール拾え」

「はい…」


テオドールさんは首飾りを拾った。

所属する隊長命令は絶対だ。


「人を憎らしく思うのは仕方がないことです。人には心があり感情というものがありますから。嫌悪や憎悪、遺恨を抱くのは心がある以上仕方ありません。

ですが、認めることはできると思うんです。許せなくても、憎んでいても、自分の目に映る姿を判断することはできます。でもそれは目に映さなければ見えない姿です。目を反らしていては映らない姿です。それに、見ようと思わなければ目には映りません。

戦に勝ったからと、心が痛まないわけではありません。戦場で戦うのはどこの国でも騎士です。仲間を恩師を、友を失う痛みは勝敗では拭えません。それはどの国の騎士でも同じだと思うんです。

あら嫌だわ、私また独り言をペラペラと。駄目ね…、ここには相槌を打ってくれる虫さんがいるから、ついつい独り言を言いたくなるのよね…」


私は頬に手を添えて頭を傾けた。


「こちらは落とした首飾りを探している。そしてこちらの要望としては見つけた者から首飾りを受け取りたい。後はそちらで決めてくれ。

ミシェル帰るぞ」


リーストファー様は私の手を繋ぎ、私はお二人に会釈をしてリーストファー様に引かれるままその場から離れた。

ルイス様は『先に帰るぞ』と帰って行った。

今はリーストファー様と二人、手を繋いでゆっくりと歩いている。


「テオドールさんはこちらに来るでしょうか」

「どうだろうな。だが下準備はした。決めるのは彼だ」


こちらに来るという事はまたリーストファー様と会うという事。今度はもっと間近で…。エーネ国で剣を抜けば間違いなく捕らえられる。

辺境の砦から領地の家まではまだ父親の事で頭がいっぱいだろうからいい。それでも父親に会ったあと、領地の家から辺境の砦まで戻る時、勝手にバーチェル国へ帰ってくれなんてことは言えない。

探していた首飾りを届けてくれた人に、首飾りを受け取ったから後は知りませんなんて、そんな薄情な事はできない。最後まで身の安全を守りお見送りしなければ。

バーチェル国の騎士の彼等はエーネ国民にとっては敵国の騎士なんだから。

辺境隊の中にもバーチェル国の騎士と言うだけで忌み嫌う者はいるだろう。戦に勝ったからと人の心はそんな単純なものではない。

傷ついた心はなかなか治せないものだから…。


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