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季節は春ということもあって陽射しがポカポカしていて気持ち良い。実に散歩日和である。
母からあまり遠くに行かないようにと言われ外に出てきた。一応小学生になったことで買ってもらったスマホにはGPSも入っていて、母のスマホからは悟円がどこにいるかすぐに分かるようになっている。だからあまりやんちゃな場所へは行けない。
この街には住民に愛されている散歩コースというのがある。そして今、悟円はその場所である【奥竹公園】へと来ていた。
ここは竹林になっていて、中央には大きな池があり、その周りが散歩道なのだ。綺麗な花壇も設置されていて、休憩用のベンチや広場などもあって憩いの場になっている。
池の周囲を走っている人、釣りをしている人、ピクニックをしている人など様々で、ここなら人気も多いので母には怒られずに済むだろう。
「ほれ、遊んできな」
パーカーのフードからメメを出し、そのまま池の中に入れてやると、「わぁ~い」と行って勢いよく泳いでいった。
「釣られるなよぉ~。……じゃあ僕ものんびり歩こうかな」
最近は鍛錬ばかりしていたので、たまにはこうしてリフレッシュするのもいい。もしかしたらそれを見越してメメが要求してきたのかもしれない。まあただ単に遊びたかっただけのような気もするが。
池のほとりを歩きながら穏やかな時間を過ごしていく。すると一本の竹の根元に視線が釘付けになってしまった。
犬や猫なら別に目を奪われるといったことはなかった。他の動物でも、いても不思議ではないようなやつなら「珍しいなぁ」とか思うだけで対して興味は惹かれなかっただろう。
しかし今、悟円は瞬きすらも忘れて見入ってしまっていた。
それもそのはずだ。何せそこにいたのは――――――小人だったのだから。
全身が青白く、それでいて透過していて向こう側がうっすら見える奇妙な存在。
大きさは小人と称するほどなのでメメくらいだ。どこかプニプニして柔らかそうで、藁で編んだような原始的な服を着込んでいる。さらに顔面には口らしくものだけがあるといいう異質さ。
そんな存在がトコトコトコトコと、竹の根元を何故かグルグル回っている。これで注目するなという方が無理がある。
するとこちらが見ていることに気づいたのか、ピタリと足を止めたソイツは驚いたように竹の後ろに隠れ、ひっそりと顔だけを出してこちらを見ている。
(な、何か変なのがいた……!)
見間違いではない。しかし明らかに普通ではない存在だ。もちろん人間でも動物のカテゴリーではないはず。そもそも身体が透けてるいるし、動く人型クラゲといったところだろうか。いや、触手などはないのでそれも正しい例えではないだろうが。
(小人……妖精? 残念ながら記憶の中にピッタリ一致する存在はいないな)
膨大な人生の記録の中にも、今目にしている存在を証明する知識はなかった。
ただ悪意や害意などといったものは感じない。この感覚は無邪気な子供や小動物と遭遇した時のような……。
だから悟円は恐れずに、そのままゆっくりと両膝を負って笑みを浮かべながら、チョイチョイと手招きをする。
すると警戒していた小人が、興味を惹かれたようにそろりそろりと近づいてきた。目の前まで来たところで、ポケットからメメ用に持って来ていたブロックチョコを出して、小人に与えてやる。
すると小人は、突き付けられたチョコに恐る恐る近づき、クンクンとニオイを嗅ぐ。
「変なもんじゃないぞ。甘くて美味しい食べ物だから」
「???」
小首を傾げる仕草が愛らしい。すると、悟円の言葉を信じてくれたのか、小さな両手でチョコを受け取ると、口らしき部分にチョコを当てた。
その直後、驚いたように口を丸く開け、ピョンピョンと跳ね出した。
(こ、これは喜んでる……のか?)
次に今度はこちらが驚いたのだが、顔いっぱいに大口を開けてチョコを丸飲みしたのである。
「お、おいおい、喉詰めちゃうぞ?」
人間みたいに喉があるのか分からないけれど……。
しかし心配することはなかったようで、飲み込んだチョコはスッと腹部の方へ向かい、そこでジワリジワリと溶け始めていた。若干身体がチョコ色になっているのは大丈夫なのだろうか。
(一体どういう生物だ? けど僅かにコイツから霊力を感じるような……)
どこかメメが持つ霊力の質に似ているが、あまりにも弱々しい。ただ霊力を持っているということは魂を持つ存在なのは確かだ。
今もなお嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねている小人をジッと見ていると――。
「――それに触れるな、坊や!」
突然響いた声にギョッとしつつ反射的に振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
(え? 誰? ていうか…………刀?)
何故かその女性は右手に白い柄に白い鞘という刀を持っていた。
しかも射抜くような鋭い視線をこちらに向けている。
(睨んでる……僕? いや、コイツ……か?)
その視線は悟円というよりは、その傍にいる小人に向けられていた。小人も怯えた様子で悟円の靴の側面に隠れてしまっている。
「えっと……」
「坊や、すぐにソイツから離れるんだ!」
どうも高圧的過ぎて、明らかに子供に対する接し方ではない。
(そもそも銃刀法違反なんじゃ……?)
それともこの世界はそんな法律など存在しないのか。さすがにそこまで調査したわけではないので不明だが。
「あのお姉さん? ソイツって……コイツのこと?」
小人指差すと、「その通りだ」と答えてきた。
「別に危険なヤツじゃないと思いますけど?」
「坊や、君みたいな子供には分からないだろうが、ソイツは子供が無邪気に触れていい存在じゃない」
「え……どういう……」
「とにかくソイツ――妖は祓わせてもらう!」
あろうことかこの場で刀を抜いて構え出した。
(えぇ……これどういう展開?)
ただ伊達や酔狂といった感じではなく、女性は真剣そのもの。
すると恐怖のピークに達したのか、小人は一目散にその場から走り出した。
母からあまり遠くに行かないようにと言われ外に出てきた。一応小学生になったことで買ってもらったスマホにはGPSも入っていて、母のスマホからは悟円がどこにいるかすぐに分かるようになっている。だからあまりやんちゃな場所へは行けない。
この街には住民に愛されている散歩コースというのがある。そして今、悟円はその場所である【奥竹公園】へと来ていた。
ここは竹林になっていて、中央には大きな池があり、その周りが散歩道なのだ。綺麗な花壇も設置されていて、休憩用のベンチや広場などもあって憩いの場になっている。
池の周囲を走っている人、釣りをしている人、ピクニックをしている人など様々で、ここなら人気も多いので母には怒られずに済むだろう。
「ほれ、遊んできな」
パーカーのフードからメメを出し、そのまま池の中に入れてやると、「わぁ~い」と行って勢いよく泳いでいった。
「釣られるなよぉ~。……じゃあ僕ものんびり歩こうかな」
最近は鍛錬ばかりしていたので、たまにはこうしてリフレッシュするのもいい。もしかしたらそれを見越してメメが要求してきたのかもしれない。まあただ単に遊びたかっただけのような気もするが。
池のほとりを歩きながら穏やかな時間を過ごしていく。すると一本の竹の根元に視線が釘付けになってしまった。
犬や猫なら別に目を奪われるといったことはなかった。他の動物でも、いても不思議ではないようなやつなら「珍しいなぁ」とか思うだけで対して興味は惹かれなかっただろう。
しかし今、悟円は瞬きすらも忘れて見入ってしまっていた。
それもそのはずだ。何せそこにいたのは――――――小人だったのだから。
全身が青白く、それでいて透過していて向こう側がうっすら見える奇妙な存在。
大きさは小人と称するほどなのでメメくらいだ。どこかプニプニして柔らかそうで、藁で編んだような原始的な服を着込んでいる。さらに顔面には口らしくものだけがあるといいう異質さ。
そんな存在がトコトコトコトコと、竹の根元を何故かグルグル回っている。これで注目するなという方が無理がある。
するとこちらが見ていることに気づいたのか、ピタリと足を止めたソイツは驚いたように竹の後ろに隠れ、ひっそりと顔だけを出してこちらを見ている。
(な、何か変なのがいた……!)
見間違いではない。しかし明らかに普通ではない存在だ。もちろん人間でも動物のカテゴリーではないはず。そもそも身体が透けてるいるし、動く人型クラゲといったところだろうか。いや、触手などはないのでそれも正しい例えではないだろうが。
(小人……妖精? 残念ながら記憶の中にピッタリ一致する存在はいないな)
膨大な人生の記録の中にも、今目にしている存在を証明する知識はなかった。
ただ悪意や害意などといったものは感じない。この感覚は無邪気な子供や小動物と遭遇した時のような……。
だから悟円は恐れずに、そのままゆっくりと両膝を負って笑みを浮かべながら、チョイチョイと手招きをする。
すると警戒していた小人が、興味を惹かれたようにそろりそろりと近づいてきた。目の前まで来たところで、ポケットからメメ用に持って来ていたブロックチョコを出して、小人に与えてやる。
すると小人は、突き付けられたチョコに恐る恐る近づき、クンクンとニオイを嗅ぐ。
「変なもんじゃないぞ。甘くて美味しい食べ物だから」
「???」
小首を傾げる仕草が愛らしい。すると、悟円の言葉を信じてくれたのか、小さな両手でチョコを受け取ると、口らしき部分にチョコを当てた。
その直後、驚いたように口を丸く開け、ピョンピョンと跳ね出した。
(こ、これは喜んでる……のか?)
次に今度はこちらが驚いたのだが、顔いっぱいに大口を開けてチョコを丸飲みしたのである。
「お、おいおい、喉詰めちゃうぞ?」
人間みたいに喉があるのか分からないけれど……。
しかし心配することはなかったようで、飲み込んだチョコはスッと腹部の方へ向かい、そこでジワリジワリと溶け始めていた。若干身体がチョコ色になっているのは大丈夫なのだろうか。
(一体どういう生物だ? けど僅かにコイツから霊力を感じるような……)
どこかメメが持つ霊力の質に似ているが、あまりにも弱々しい。ただ霊力を持っているということは魂を持つ存在なのは確かだ。
今もなお嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねている小人をジッと見ていると――。
「――それに触れるな、坊や!」
突然響いた声にギョッとしつつ反射的に振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
(え? 誰? ていうか…………刀?)
何故かその女性は右手に白い柄に白い鞘という刀を持っていた。
しかも射抜くような鋭い視線をこちらに向けている。
(睨んでる……僕? いや、コイツ……か?)
その視線は悟円というよりは、その傍にいる小人に向けられていた。小人も怯えた様子で悟円の靴の側面に隠れてしまっている。
「えっと……」
「坊や、すぐにソイツから離れるんだ!」
どうも高圧的過ぎて、明らかに子供に対する接し方ではない。
(そもそも銃刀法違反なんじゃ……?)
それともこの世界はそんな法律など存在しないのか。さすがにそこまで調査したわけではないので不明だが。
「あのお姉さん? ソイツって……コイツのこと?」
小人指差すと、「その通りだ」と答えてきた。
「別に危険なヤツじゃないと思いますけど?」
「坊や、君みたいな子供には分からないだろうが、ソイツは子供が無邪気に触れていい存在じゃない」
「え……どういう……」
「とにかくソイツ――妖は祓わせてもらう!」
あろうことかこの場で刀を抜いて構え出した。
(えぇ……これどういう展開?)
ただ伊達や酔狂といった感じではなく、女性は真剣そのもの。
すると恐怖のピークに達したのか、小人は一目散にその場から走り出した。
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