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第五十三話 緊急事態

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 てっきり一緒に学校へ向かうために待ち構えていたと思っていたのだが、九々夜の言葉はそれを裏切るようなものだった。

「トトリが昨日から返っていない? どういうことだ?」

 俺がそう問い質すと、九々夜が不安そうな表情で説明し始めた。
 トトリは、寮の部屋に寝泊りしているわけではなく、あの孤児院に住んでいる。

 だから昨日も女子寮ではなく孤児院へと帰ったはずだった。
 今日を迎え、九々夜は緊張であまり眠れなかったようで、朝早く起きて外で散歩していたらしい。

 そしてせっかくだからと、孤児院に寄ってトトリと一緒に学校へ来るつもりだったようだ。

 しかしその際、孤児院の院長であるコーエリアさんからトトリが昨日から返って来ていないという旨を報告されたという。

 たまに夜遅く帰ってきて、こっそり自分の部屋で寝ている場合があり、昨夜見ていなかったがそれほど心配していなかったらしい。どうせ朝には顔を見せるだろうと。

 だが朝になっても音沙汰がなく、おかしいと部屋に向かったところ、彼女の姿がいなかったとのこと。

 子供たちにも聞いたが誰も見ていない。今日は気合を入れて早朝にでも学校へ向かったのだろうかと思っている最中に九々夜が訪ねてきたのだ。

 ただ九々夜は、今日が大事な日であることを知っているトトリが、昨日解散したあとに、どこかに寄り道をして無駄に体力を削るようなことはしないと思った。
 何だか嫌な予感がして周囲を探索してみたところ……。

「これが落ちてたんです」

 そう言って見せてきたのは、トトリが所持していた鞭だった。

「さすがにコレを落としたら普通気づきますし、それに……落ちていたところなんですけど、戦闘の跡らしきものがありまして。こんなものが傍に刺さっていて」

 そうして今度は小刀を見せてきた。
 俺はソレを見てハッとなる。何せその小刀には見覚えがあったからだ。
 昨日俺を襲った連中が所持していたものとそっくりである。

「……まさか」
「!? おいアオス、何か心当たりでもあるのか?」
「実はな――」

 俺が昨日襲撃を受けたことを彼らに教えた。

「何だと!? じゃ、じゃあトトリもそいつらに襲われたってのか!?」
「その可能性は高い。あくまでも状況から見てだがな」
「そ、そんなぁ……ど、どどどどうしましょう!?」
「んなもん、そいつら探してぶっ飛ばすしか方法はねえだろうが!」
「で、でもどこにいるか見当もつかないよぉ!」
「そ、それは……くそっ! アオス、何か方法はねえのか?」

 ……ある。しかしそれをコイツらの前で実行するのは問題かもしれない。

「……九々夜、お前はシン助と一緒に闘技場で待機してくれ」
「えっ!?」
「おいっ! それはどういう意味だよ! まさかトトリを見捨てるってのか!?」
「そんなわけがない。ちゃんと探して闘技場へ連れて行く」
「だったら全員で探した方が良いじゃねえか!」

 確かに本来ならシン助の言うことが正しい。こういう時は人海戦術が最も有利だから。

「奴らは結構手練れだった。バラバラに探し回ったとして、また個別に襲撃をされでもして捕まったらどうする?」
「俺なら問題ねえ!」
「九々夜は?」
「そ、それは……九々夜だって大丈夫だ!」
「相手は殺しを平気でしてくる相手だぞ? それでも九々夜は対処できるのか? もしかしたら街人を人質にでもしてくるかもしれない。そうなっても九々夜は冷静に行動を起こせるって言うんだな?」
「うぐっ……」
「お兄ちゃん……」

 九々夜は優し過ぎる。おおよそ戦闘には向かない性格をしていることを兄であるシン助なら熟知しているはずだ。

「だ、だったら俺と一緒に……!」
「いいかシン助? 俺たちはもうすぐダンジョン攻略に赴く必要がある。そんな状況で無駄に体力を使ってる暇なんてない。無論怪我などもってのほかだ。だからできる限り温存するべきだ」
「あのな! そんなイベントよりも仲間の方が大切だろうが!」

 本当に熱い奴だ。まあコイツがこういう奴だからコントロールをしやすいのだが。

「だったら仲間である俺のことも少しは信じてくれ」
「……アオス?」
「俺ならトトリを無事に確保して時間内に闘技場へ行ける。だからお前は今すぐ、九々夜を護衛しながら闘技場へ向かって、一応このことをアリア先生に報告してほしい」
「……けどよぉ」
「俺の実力を疑うか?」
「そういうわけじゃねえけど……」
「大丈夫だ。必ずみんな揃って〝攻略戦〟に挑めるから」

 それでも納得できないのか、シン助は険しい表情で固まっている。
 そんな中、九々夜がシン助に向かって言う。

「お兄ちゃん……アオスさんの言う通りにしてみよ?」
「九々夜、お前まで……」
「アオスさんは、私たちのチームリーダーだよ。そのリーダーが絶対に大丈夫だって言うんだもん。きっと……大丈夫だよ。ですよね、アオスさん?」
「ああ、問題ない」

 ハッキリいえば、もしシン助たちが襲われ、仮に捕縛でもされたり大怪我を負えば、こちらとしても都合が悪いから、できるだけ安全な場所で待機してくれた方が良い。攫われたりして探すのも二次災害だし。

「…………はぁぁぁ。わーったよ。けどアオス、失敗したら俺は一生許さねえぞ!」
「ああ、その時は煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「……頼んだぞ」
「アオスさん、お願いします!」

 俺は二人に返事をすると、その場からすぐに移動を開始した。
 向かう先はこの街を見下ろすことができる時計塔の頂点である。


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