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――トイレに戻ってきた時、ロニカに何でこんな汚いとこなんかに……などといった一幕があったものの、二人で外へと出て、まだ食事しているのかと思い向かってみた。
部屋に入ると当然、俺が連れているロニカの姿に驚く面々。
ノーヴァもまだワインを片手に気分良く酔っていたようだ。しかし思わぬ存在の登場に怪訝な顔を見せる。
「……どこに行っておったのじゃ、クロメ? というよりもそやつは……何じゃ?」
明らかに不穏な様子でロニカを睨んでいる。それもそうだろう。ここにいるのは全員俺を除けば『魔族』のはず。
エルフがこの場にいて警戒しない方がおかしい。すでにヴァインさんとゼリスは席から立って、何があっても動ける状態になっている。
俺はこの痛いほど緊張している空気の中、軽く深呼吸をしてから口を開く。
「紹介します。ここにいるのが俺の主です」
「っ、何……じゃと?」
「どうやってここに……と思われるでしょうが、それは主が俺のことを心配して転移魔術で駆けつけてくれたわけなんです」
真っ赤な嘘だけど。
だがもちろんノーヴァは俺の言葉をそのまま受け止めることはしない様子で、
「……エルフが転移魔術? 俄かには信じられぬ話じゃな。真か?」
不審に思い問い質してきた。
俺が「本当です」と言おうとした時、
「真実がどうであれさ、ここにいるって結果が大事なんじゃないの?」
ロニカが口を挟んできた。
おいおい、そんな喋り方は……と思ったが、案の定敵意を込めた視線をロニカへとぶつけながらノーヴァが言う。
「結果……か。確かにどのような方法だろうが、ここにそなたがいるのは事実じゃな」
意外にも物分かりがいいようだ。
「そういうこと。一応自己紹介しとくと、ロニカはロニカ・メルエル・イスタリっていうから。まあ別に覚えなくてもいいけど」
「イスタリ……じゃと?」
刹那、ノーヴァだけでなくヴァインさんやゼリスの表情も険しくなる。
ああ、やっぱり『魔族』にも知れ渡っている名のようだ。
「エルフのイスタリ家といえば、治癒魔術の開祖だったはず。まさか……」
「まあ別に先祖が何をしたとかロニカにはどうでいいんだけど。その情報は間違ってないと思うよ」
そう、ロニカの一族は結構格式高い身分を持っていて、光の魔術の中でも特に難しいとされる治癒魔術を編み出したことで多くの魔術師から尊敬されている。
またイスタリ家の者たちは、代々魔力が強く優秀な魔術師を輩出してきた。大国で宮廷魔術師を務めている者や、魔術研究家として名を馳せている者が多い。
例に漏れることなく、ロニカもまたイスタリ家に相応しい魔力と才を有し、一族に期待されて育ってきたというわけだ。
まあ、今はこんなんになっちまってるけどな。
もしぐうたら生活を送っている現状を一族の者が知ると、きっと激昂すること間違いないだろう。恥晒しと言われてもおかしくはない。
だからこそ、ロニカは一族が住む場所とはかけ離れた島国の【モンストルム王国】に根を下ろしているのである。
「よもやこのような場所でイスタリの者と邂逅するとはのう。余もイスタリとはちょっとした縁があるんじゃ」
「へぇ、興味ないからどうでもいいってそんなこと」
「んなっ!? そこはどんな縁があるのか気になる流れじゃろうが!」
「そうなの? 話も長くなりそうだし面倒だから聞きたくない」
相変わらずブレないロニカ節。俺だって一瞬でノーヴァとイスタリ家との関係が気になったってのに、さすがは興味が無いことにはとんと無頓着の我が主様である。
ロニカの言い草にあんぐりと口を開けたまま固まるノーヴァに対し、「ロニカのことはいいよ」とロニカは言ってから続ける。
「とにかく、クロメが欲しいっていうのは諦めて。コレはロニカのだから」
「む、そう言われてはいそうですかと納得できると思うてか? 余を誰だと心得ておるのじゃ?」
「過ぎた欲は身を滅ぼすよ?」
「ほう、面白い。余は不滅じゃ。滅ぼせるものなら滅ぼしてみよ」
「自分が無敵とか思ってる奴ほど脆いもんだよねぇ」
バチバチバチバチと、今にも戦争が勃発しそうな勢いで二人の間に火花が散っている。
俺はチラッと視線をヴァインさんへと向けると、彼もこちらを見ていた。
互いに頷き合うと、それぞれの主の傍に立ち口を開く。
「少し落ち着け、ロニカ」
「主も、こちらの方が全面的に非があるのですから落ち着いてくだされ」
俺とヴァインさんの言葉により、若干気が削がれたのか殺気が収まっていく。
しかしまた火に油を注ぐようなことをロニカが口にする。
「一国の王だからって好き勝手していいってわけじゃないよね? 男を口説きたいんだったら強引なばかりじゃなくて、ちゃんと相手を思いやることが必要だと思うんだけど?」
「く、くどっ……! だ、誰が口説いた誰が!? 余はクロメを男として欲しておるわけではない! ただそう……料理の腕を買ってるだけじゃ!」
「ふぅん、そんな顔を真っ赤にして説得力が欠けるけどね。でも一つ言っとくけど、コイツは誰にも渡さないし、コイツだってロニカの傍を離れるつもりなんてないよ」
確かにそうだけど、そこまで自信満々に言えるコイツの根幹は一体どうなっているのだろうか。
「だってクロメはロニカにしか欲じょぶふぅっ」
「だあもう、それは口にすんなっつっただろうがっ!」
ああ危ねえ! もう少しで取り返しのつかないことになりかねないところだった。比較的まともなヴァインさんに変態ロリコンの烙印を押されると正直心が砕けたかもしれない。
慌ててロニカの口を塞いだ俺、ナイスファインプレー!
部屋に入ると当然、俺が連れているロニカの姿に驚く面々。
ノーヴァもまだワインを片手に気分良く酔っていたようだ。しかし思わぬ存在の登場に怪訝な顔を見せる。
「……どこに行っておったのじゃ、クロメ? というよりもそやつは……何じゃ?」
明らかに不穏な様子でロニカを睨んでいる。それもそうだろう。ここにいるのは全員俺を除けば『魔族』のはず。
エルフがこの場にいて警戒しない方がおかしい。すでにヴァインさんとゼリスは席から立って、何があっても動ける状態になっている。
俺はこの痛いほど緊張している空気の中、軽く深呼吸をしてから口を開く。
「紹介します。ここにいるのが俺の主です」
「っ、何……じゃと?」
「どうやってここに……と思われるでしょうが、それは主が俺のことを心配して転移魔術で駆けつけてくれたわけなんです」
真っ赤な嘘だけど。
だがもちろんノーヴァは俺の言葉をそのまま受け止めることはしない様子で、
「……エルフが転移魔術? 俄かには信じられぬ話じゃな。真か?」
不審に思い問い質してきた。
俺が「本当です」と言おうとした時、
「真実がどうであれさ、ここにいるって結果が大事なんじゃないの?」
ロニカが口を挟んできた。
おいおい、そんな喋り方は……と思ったが、案の定敵意を込めた視線をロニカへとぶつけながらノーヴァが言う。
「結果……か。確かにどのような方法だろうが、ここにそなたがいるのは事実じゃな」
意外にも物分かりがいいようだ。
「そういうこと。一応自己紹介しとくと、ロニカはロニカ・メルエル・イスタリっていうから。まあ別に覚えなくてもいいけど」
「イスタリ……じゃと?」
刹那、ノーヴァだけでなくヴァインさんやゼリスの表情も険しくなる。
ああ、やっぱり『魔族』にも知れ渡っている名のようだ。
「エルフのイスタリ家といえば、治癒魔術の開祖だったはず。まさか……」
「まあ別に先祖が何をしたとかロニカにはどうでいいんだけど。その情報は間違ってないと思うよ」
そう、ロニカの一族は結構格式高い身分を持っていて、光の魔術の中でも特に難しいとされる治癒魔術を編み出したことで多くの魔術師から尊敬されている。
またイスタリ家の者たちは、代々魔力が強く優秀な魔術師を輩出してきた。大国で宮廷魔術師を務めている者や、魔術研究家として名を馳せている者が多い。
例に漏れることなく、ロニカもまたイスタリ家に相応しい魔力と才を有し、一族に期待されて育ってきたというわけだ。
まあ、今はこんなんになっちまってるけどな。
もしぐうたら生活を送っている現状を一族の者が知ると、きっと激昂すること間違いないだろう。恥晒しと言われてもおかしくはない。
だからこそ、ロニカは一族が住む場所とはかけ離れた島国の【モンストルム王国】に根を下ろしているのである。
「よもやこのような場所でイスタリの者と邂逅するとはのう。余もイスタリとはちょっとした縁があるんじゃ」
「へぇ、興味ないからどうでもいいってそんなこと」
「んなっ!? そこはどんな縁があるのか気になる流れじゃろうが!」
「そうなの? 話も長くなりそうだし面倒だから聞きたくない」
相変わらずブレないロニカ節。俺だって一瞬でノーヴァとイスタリ家との関係が気になったってのに、さすがは興味が無いことにはとんと無頓着の我が主様である。
ロニカの言い草にあんぐりと口を開けたまま固まるノーヴァに対し、「ロニカのことはいいよ」とロニカは言ってから続ける。
「とにかく、クロメが欲しいっていうのは諦めて。コレはロニカのだから」
「む、そう言われてはいそうですかと納得できると思うてか? 余を誰だと心得ておるのじゃ?」
「過ぎた欲は身を滅ぼすよ?」
「ほう、面白い。余は不滅じゃ。滅ぼせるものなら滅ぼしてみよ」
「自分が無敵とか思ってる奴ほど脆いもんだよねぇ」
バチバチバチバチと、今にも戦争が勃発しそうな勢いで二人の間に火花が散っている。
俺はチラッと視線をヴァインさんへと向けると、彼もこちらを見ていた。
互いに頷き合うと、それぞれの主の傍に立ち口を開く。
「少し落ち着け、ロニカ」
「主も、こちらの方が全面的に非があるのですから落ち着いてくだされ」
俺とヴァインさんの言葉により、若干気が削がれたのか殺気が収まっていく。
しかしまた火に油を注ぐようなことをロニカが口にする。
「一国の王だからって好き勝手していいってわけじゃないよね? 男を口説きたいんだったら強引なばかりじゃなくて、ちゃんと相手を思いやることが必要だと思うんだけど?」
「く、くどっ……! だ、誰が口説いた誰が!? 余はクロメを男として欲しておるわけではない! ただそう……料理の腕を買ってるだけじゃ!」
「ふぅん、そんな顔を真っ赤にして説得力が欠けるけどね。でも一つ言っとくけど、コイツは誰にも渡さないし、コイツだってロニカの傍を離れるつもりなんてないよ」
確かにそうだけど、そこまで自信満々に言えるコイツの根幹は一体どうなっているのだろうか。
「だってクロメはロニカにしか欲じょぶふぅっ」
「だあもう、それは口にすんなっつっただろうがっ!」
ああ危ねえ! もう少しで取り返しのつかないことになりかねないところだった。比較的まともなヴァインさんに変態ロリコンの烙印を押されると正直心が砕けたかもしれない。
慌ててロニカの口を塞いだ俺、ナイスファインプレー!
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