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第十一話 鬼ごっこ終了

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「…………え、ポチ……ちゃん?」


  突如として攻撃を止めてお座りをしたことで、カヤちゃんもポチの急激な態度変化に目を丸くしている。


  俺は盛大に息を乱しながらも、我ながらよくぞ思いついたと心底自分を褒めたいところだ。是非とも高笑いして「どうだまいったかー」とでも声を張り上げたいが、しんどくてできない。
  ポチはというと、ハアハアとしながらも俺の次の命令を大人しく待っている。


  そこへ――。


 「――驚いたのう。まさかポチを大人しくさせるとはな」


  このふざけたゲームの主催者であるにっくきジジイがやってきた。恐らくどこかで高みの見物でもしていたはずだ。


 「おいこらジジイ、殺す気かよ」
 「そう睨むな。お蔭で力に目覚めたじゃろうが」
 「その前に死ぬとこだったわい!」
 「強い力というのは目覚めにくい。また総じて身が危険に晒されれば、人というのは限界を超える」
 「だからといってもやり過ぎだっちゅうに……」
 「安心するがよい。さっきのポチの攻撃にしても、どうにもならんと判断した時は、儂が止めておった」


  …………本当かよ。


  とても信じられないが、確かに彼のむちゃくちゃな方法で魔術が使えるようになったのも事実だ。


  感謝と憎悪が交じり合った複雑なこの気持ち。どうしろっつうんだ。


 「よ、良かったですぅ、無事だったんですねボータさん!」


  涙を流しながら心底安心したように抱きついてくるカヤちゃん。


  ああ、俺の潤いは君だけだよカヤちゃん。でもできればもっとあったかかったら嬉しかったなぁ。それでも軟らかいから良しとしよう。


  よし、このままカヤちゃんの身体を堪能して……。


 「ところで、じゃ」


  おいこら、空気読めやチビジジイ。
  せっかく癒しの時間を満喫しようとしてたのに。


  爺さんが声をかけたことにより、カヤちゃんも涙を拭きながら離れていく。


 「お主、ポチに何をしおった? どんな効果を与えたんじゃ?」
 「フフン、爺さんでも分かんねぇのか?」
 「〝外道札〟は持ち主の想像を現象化する力じゃしのう。見たところポチの感情に負のエネルギーはない。痛みや不快感を与えとるわけではなさそうだ」


  ポチは主からの命令を今か今かと待つ忠誠犬のようになっている。


 「ふむ、何をされたか分かるか、ポチよ」
 「ん~とねぇ、分かんない! でもその人を攻撃したらダメな気がして……。それにこう命令されたらそれに従いたいって思っちゃったぁ」
 「精神感応系の力を使ったというわけか? またレアな力を想像したもんじゃのう。そろそろ何をしたか教えてもらいたいんじゃがのう」
 「わ、わたしも知りたいです! あのポチちゃんが初めて会った人の命令を聞くなんてビックリだから!」


  二人が、いや、プラス一匹が説明欲しさに見つめてくる。


 「フッフッフ。そんなに知りたい?」
 「もったいぶってないで教えんかい」
 「偉そうなジジイだな。ま、カヤちゃんも知りたいっていうことだから教えるけどな」


  女の子の頼みを断るような男ではないのだ俺は。


 「当然、この〝外道札〟であるモノの存在を形にしたってわけだ」
 「そんなことは分かっておる。一体何を現象化したんじゃ?」
 「待ってくれ。今、同じのを作るから」


  俺は残りの三枚の中から一枚を左手に取り、先程ポチに与えたものと同じ効果をイメージする。


 「さあ見ろ! これが俺の切り札になった――《おばあさんのきびだんご》だぁっ!」
 「「「……はい?」」」



 《おばあさんのきびだんご》 属性:無

  効果:川から流れてきた桃を拾ったおばあさんが丹精込めて作ったきびだんご。動物の機嫌を上向きにし懐かせる効果を持つ。特に犬、猿、雉相手に絶大な効果を生み、与えた者に一定時間命令権を行使することも可能。ただし絶対ではない。



  いや、実際に効くか正直なところ分かんなかった。
  でもこの犬が俺の想像通りの存在だとしたら、コレの効果は抜群だと判断したのだ。


 「え~っとぉ、きびだんごですかぁ。あ、この絵もキレイです~! それにとっても美味しそうですねぇ」
 「うん! とっても美味しかった! それに懐かしかったぁ!」


  ポチも喜んでくれて何よりだ。カヤちゃんは、きびだんごの絵がお気に入りのようである。


  対して爺さんはというと、いまだ呆けたままだが、すぐに「ぷっ」と息を噴き出すと、


 「ぶははははははははっ!」


  突然大声で笑い始めた。


 「何てことだ! まさかそのようなものを作り出すとはのう! いろいろ聞きたいこともあるが、何という斜め上を行く奴じゃ! はははははははっ!」


  発作が起きたように笑う爺さんを、唖然としてカヤちゃんとポチが見つめている。


 「お、おじいちゃんが大声を出して笑ってる……」
 「わぁ、モモがすっごい楽しそうだぁ」


  別に楽しませるためにカードを見せたわけじゃないけどな。


 「あ~久々に笑ったわい。正直、《外道魔術》が発動できてもポチには勝てず、儂が止めることになると思っておったが、よもやこうも予想外なことが起きるとはのう。面白い小僧じゃな、お主は」
 「小僧っていうなよ。一応白桐望太って名前があるんだし」
 「ふむ。シラキリ坊や……か。良い名前じゃな」
 「喧嘩売ってんのか。誰が坊やだ誰が」
 「ククク、冗談じゃシラキリよ」
 「そっちは苗字だけどな。まあ好きに呼んでくれたらいいけど」


  俺は大きく肺から息を吐き出しながら地面に仰向けに倒れる。


 「それにしても……疲れたぁぁぁ~」
 「だ、大丈夫ですか、ボータさん!」
 「ねえねえ、まだお座りしてなきゃダメ? 喉乾いちゃったぁ」
 「え? あ、そっか。もういいぞ。好きにして」
 「わぁ~い!」


  そろそろ効果も切れると思うが、ポチへの強制力を解いてやった。


 「うむ。一通り事が終えたところで、とりあえず小屋へ帰るとするかのう」
 「あ、俺まだ動けないんだけど。つうか動きたくない」


  心の底から疲れたんだよ。緊張と緩和の極端さにノックダウンだ。


 「ポチよ、シラキリを運んでやれ」
 「えぇ~、喉乾いたって言ったじゃん」
 「ポチちゃん、小屋に帰ったらわたしが用意してあげますから」
 「あ、ならいいよー」


  いいのかよ! 軽いなおい!
  あ、でも運ぶってどうやって……?


  するとポチが近づいてきて、その大きな口で器用に俺の服だけを噛み、そのまま持ち上げる。


  ですよね~。こうなりますよね~。身体が海老沿って苦しいんですけど?


  でも動きたくないし。それなりに楽ちんだからちょっとの辛さは我慢しよう。


  …………落としてくれるなよ?


  そう願いつつ、俺は流されるままポチに運ばれていった。
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