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第十二話 人外の力

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 小屋は小さなログハウスといった感じで、高い岩壁に囲まれた中に存在した。


  乾いた大地の上なのに、ログハウスの周りだけが不振然なほど緑豊かになっている。芝生の上に建てられてあるし。
  また畑もあり小さな池だってあった。


  ……どういうこと?


  カヤちゃんに聞いてみると、これも魔術関係の力だという。


  魔術ってすげぇなって思いました。


  ここでちょっと驚くことがあったのだ。
  ビックリすることに、口で俺を運んでいたポチの身体が徐々に小さくなっていき、十トントラックのように大きかったポチが、犬種であるゴールデンレトリーバーの二倍ほどの大きさになった。


  聞けば、大きさは自由に変えられるという。何その便利なスキル。


  それも魔術なのかと聞くが、昔々、爺さんからもらったきびだんごを食べてから、そんな力が身についたのだという。


  モモ爺の正体が益々浮き彫りになってきたが、俺は無意識にその考えを捨て去った。だって子供の頃の記憶が崩れるって思ったから。
  ポチが俺を背に乗せながら小屋の中に入っていく。


  中に入ると、畳のニオイが鼻をつく。 


  すぐ眼の先には、畳部屋があって囲炉裏も発見できた。外見は洋風なのに、中身は古風な和を形作っている。古民家って感じだ。
  日本人の俺としては馴染み深く暖かみを感じるのでアリだと思った。


  畳の上に寝かされ一息つく。あ~すっげぇ落ち着くわぁ。


  ついさっきまで命がけの勝負《鬼ごっこ》をしていたなんて到底思えない。


  ポチはさらに小型犬にまで小さくなって、カヤちゃんから飲み物を貰っている。


  今なら物凄くポチっぽいなぁ。可愛いし。
  是非撫でまわしたい。


 「――さて、シラキリよ」
 「んあ? ……あ、爺さんいたの?」
 「あのな……。そろそろ起き上がれるじゃろ? さっさと起きよ」
 「え~、しんどい」
 「お主の魔術についての解説もしておかねばならんだろうが。真剣に聞け」


  そう言われると反論できない。


  一応〝外道札〟についての情報は持っているが、まだまだ《外道魔術》に関しては知らないことの方が多い。
  俺は気怠い身体を起こし、囲炉裏を挟んで爺さんと対面で座る。


 「魔力の扱い、魔術の効果、それぞれ基本的なことは理解できたと思うが」
 「まあ、ね。けど特異魔術ってこんなにも反則的なもんなのかな?」
 「……どういうことじゃ?」
 「この〝外道札〟……」


  俺は三枚のカードを懐から出して畳の上に置く。


 「コレを作った瞬間に使い方が分かった。コレは――呆れた力を持ってる」
 「じゃろうのう。しかし勘違いするでないぞ。確かに特異魔術というのは、強い力を持つものが多いが、お主のそれは別格中の別格じゃ」
 「別格?」 
 「うむ。先に話したと思うが、魔術は個人の資質によって扱える魔術は特定されておる。属性魔術を扱う資質があったとしても、精々二つ三つの属性しか扱えん。優秀な奴でものう」


  カヤちゃんが湯呑みを持ってきてくれて、俺はその中に入っている茶で喉を潤す。味は緑茶だった。喉も乾いていたので最高に美味い。これで甘い菓子があればなお嬉しいが。


  爺さんも茶を飲み、カヤちゃんも畳に座ったことを確認してから続きを話し出す。


 「儂でも扱えるのは五つ程度じゃ」


  それでも十分に凄いものらしい。


 「しかしお主の〝外道札〟は、その枠から簡単に外れることができる。全属性すら扱うことが可能じゃ。それは実際に使ったお主が理解できておるじゃろうがのう」


  彼の言う通りだった。


  この〝外道札〟は、俺のイメージしたものを現象化させる力を持っている。たとえば大きな火の玉をイメージすると、《大火球》というカードを生むことも、すべてを飲み込むような津波をイメージして《大津波》というカードを生み出すことも可能なのだ。


  言ってみれば火属性でも水属性でも、その他どのような属性だろうが扱うことができる。


  まさに――万能。


  俺の想像力次第で、この力は恐るべき効果を発揮する。


 「お主はバカっぽいが愚かではない。じゃから、その力の凄まじさは実感したはずじゃ」


  誰がバカっぽいだ、失礼な。こう見えても結構考えるタイプだっつうの。


  だが爺さんの言う通り、〝外道札〟の力は俺の想像を遥かに超えるものを宿している。恐怖を感じるほどに。


 「もう一つ。魔術というのは自然界に住む精霊の力を借りて行使する精霊魔術という概念を持っておるが、この世には精霊が物に宿って、あるいは精霊自体が変化して道具と成しているものもある。《霊具《アーティファクト》》と呼ばれるものじゃな」


  それは魔術が使えない者でも、簡単に魔術のような力を使えることができる道具だそうだ。
  ちなみにあの《調ベルト》も、それを収納していたカヤちゃんのガマ口もそうなのだという。


 「お主が〝外道札〟で生み出したきびだんご。あれも一種の《霊具》。……もう分かったか? お主は魔術のみならず、《霊具》ですら自在に創り出すこともできるということじゃ」
 「っ!?」
 「わぁ、凄いですねぇ! 精霊さんもビックリですよ!」


  カヤちゃんは感心しているようだが、俺は気が気でない。


  何故ならその力は……。


 「人外の能力。故に《外道魔術》と呼ばれておるのじゃよ」


  人の力を逸脱した魔術。それが……。


 「俺の……《外道魔術》ってわけか」


  とんでもない代物が俺に宿っているようだ。


  けど何でだ? 俺は元の世界でも平凡な男だぞ。こういうのはどっちかっていうとあの二人のどっちかに宿るようなもんじゃねぇのか?


  無論、俺の脳裏に浮かぶのは完璧人間に近い二人の幼馴染だ。特に――京夜の方。
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