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第9話 決戦
ふぅ……緊張する……。
オリヴィアのおかげで退学の危機はないにせよ、これは俺にとっても久しぶりの戦いだ。
思えば最初の魔術戦に負けてから、ずーっと負けっぱなし。
それで最下位、バカベルとか呼ばれ出すようになったもんな……。
でも、今は違う。
俺には動きをスローモーションで捉えられるこの眼がある!
……とか考えても、やっぱり不安だな。
「アベル、入るわよ」
ドアの向こうから声をかけられた。
誰なのかはドア越しにもわかる。
オリヴィアだ。
「どうぞ」
俺がそう答えると、
ガチャ。
と扉を開き、オリヴィアが入って来た。
「……なに辛気臭い顔してんのよ」
オリヴィアは入ってくるなり、ベンチに座る俺の横に来て、そのまま腰掛けた。
「……ハハハ」
乾いた笑いが出る。
「やっぱり、不安?」
「うん……」
カインにはずっと馬鹿にされきたし、何より自分の力にそれ程の自信を持っていない。
「大丈夫だよ。あの時もすごかったじゃん」
「あれはたまたまで、今日もあんなことが出来るかわからないよ」
「……じゃあ、こうしよ!」
オリヴィアはベンチからおもむろに立ち上がった。
「もし、アベルがカインに勝ったら、一つだけ何でもしてあげる!」
「……なん、でも?」
俺も男だ。
可愛い子にこんな事を言われたら気にはなる。
「え!? いや、その……なんでもっていったけど……あんまりえっちなことは……」
オリヴィアは胸の前で指先をつんつんしてる。
でたなオリヴィア恥ずかしいモード。
ふふふ、果たして先程までの威勢はどこへいったのか?
昨日カレンと色々あったおかげか、今の俺は多少の可愛さじゃ動じないぞ!
……なんて。
でも、少しは元気が出たかもな。
……ありがとう、オリヴィア。
俺は立ち上がり、オリヴィアに目線を合わせる。
「じゃあ、少しえっちなことをお願いするね」
「え、えっと……そ、それは……」
オリヴィアは恥ずかしそうに慌てている。
……やっぱり可愛いな。
こんな子の前では、恥ずかしい姿は見せられない。
なら――
「オリヴィア……俺は勝つ。観客席で楽しみにしておいてくれ」
そろそろ時間だ。
勇気は貰った。
今の俺なら、誰にだって勝てる気がする。
さ、試合に勝った後のご褒美でも楽しみにしとくか。
◇◇◇
俺は試合会場への扉を開いた――
中央の戦闘場。
オリヴィアしかいないの観客席。
名前もわからない審判の先生。
そして――カイン。
「よぉバカベル。逃げずによく来たな」
カインは面倒そうに茶の髪を掻き、それによって右手につけた大量の腕輪が音を出す。
「あぁ、負けても退学にはならないからな」
「……ッ!! お前、気付いたのか……ッ!?」
カインは悔しさに顔を歪ませる。
それもそうだろう。
どうやったかは知らないが、カインは魔族の魔術まで使い、俺を退学に追い込もうとした。
しかし、それが破られたのだ――最下位ごときに。
「くっそ……ッ。バカベルのくせに……ッ!」
おぉこわいこわい。
怒りで、今にも襲ってきそうだ、
今まで馬鹿にしてきたやつが悔しそうな表情をする、こういうのも悪くない。
もっと煽ってやってもいいが、その前に、
「どうしてお前が魔族の魔術を使っていたんだ?」
一つ質問をした。
魔族の魔術を使えるのは通常、魔族だけだ。
今まで魔族の魔術なんて、魔族と共に滅びたものと思っていたが、先生から聞いた魔族復活の話がある。
流石にカイン如きの魔術師が、魔術を得意とする魔族だとは思えないが、魔族と繋がっている可能性はある。
だから聞いてみたのだ。
「……ハハハ」
……どうしたんだ?
急に様子がおかしくなったぞ。
「そこまで分かってんのか……ハハ」
……嫌な予感がしてきたぞ。
「なら……勿論手加減は出来ないなァ!!!」
突如――カインが右手の腕輪を周囲に撒き散らした。
「何をしてるんですか、カイン君!」
審判役の先生がカインを止めようとする。
それと同時に、四方八方から響く腕輪の音。
カインは両方の音を耳に、面倒そうに口を開く。
「あァ? うるせぇなぁ……」
「カイン君、魔術戦はまだ始まっていませんよ!」
「知らねぇよ。……ま、取り合えずお前は終わりだ、『大地断』」
カインが杖も使わずに魔術を唱える――それも上位魔術を。
「『光壁』!!」
反射的にに審判の先生は防御魔術を唱えた、が――
――パリンッ!
と砕かれた。
光の壁は、カインの攻撃にとっては脆い存在だったのだ。
そして突破されれば当然――
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
先生の悲鳴が耳をつんざく。
圧倒的なカインの一撃――それを食らい、先生は死にほとんど近い状態となった。
上空から落とされた土のギロチンによって2つにされたのだ。
「ハハハ、いい気味だなァ!」
「っぐ……あぁ……ぁ……」
先生の血はとめどなく流れ、目は虚ろだ。
……先生はもう……助からない。
「た……たす……けぇ、て……」
「……ッ!!」
俺はあまりの衝撃に言葉が出ない、足が動かない。
それでもこの惨状を紅い瞳に入れているせいか、徐々に絶望がこみ上がって来る。
そこへ――
「アベル! 先生!」
オリヴィアの叫び声が上がる。
更にこの状況で彼女は、心を奮い立たせて席から立ち上がった。
……流石オリヴィアだ。
俺なんて、立っているだけでも精一杯なのに……。
「待って! 今行くから!!」
オリヴィアは観客席から闘技場へと下りようとするが――
――バンッ!
見えない壁に当たった。
「……え?」
「ハハハ! オリヴィア、無駄だぞ! それは俺のスキル『金属結界』だ、人間如きが突破は不可能と思え!」
そう言うなりカインは背中に力を籠める。
するとすぐに、何かがカインの背中から生えてきた――
「黒い……翼……?」
カインの背から生えたのは2枚の黒い翼だ。
黒というよりは漆黒、という表現が近いかもしれない色合いには底知れぬ闇を感じる。
広げられた翼を見ていると、人間のちっぽけさを痛感させられる。
……俺はこの翼を知っている
これは……夢なのか?
……嘘じゃないんだよな。
これが現実だとすると、カインは……
「……魔族か」
「そうだ、バカベル。最下位にしてはよく知ってるな」
カインはにやりと笑った。
しかし、それを止めるかのように、
「カイン! この結界を解いて!」
オリヴィアの叫びと、見えない壁を叩く音が聞こえてくる。
「ハハハ、それは無理な注文だぜオリヴィア」
「なんで……なんでよ! なんで、こんなことをするの!!」
オリヴィアは壁を何度も叩く。
意味がないと知りつつも。
「そりゃーお前を手に入れる為に決まってんだろ、オリヴィア」
「こんな事しても私はなびかないわよ!」
「あぁ、わかってるわかってる。だからこうしてバカベルまで退学させようと、強硬手段に出たんだぞ。わかってくれよなァ」
カインはニヤニヤと笑う。
……心底楽しそうだ。
「じゃあ……先生は……?」
壁を叩く手に力はもう入っていない
「今からバカバルに借り返すんだぜ、邪魔だろ」
人を虫けらかのように扱うカインの態度。
決して破れないカインの結界。
真っ二つにされた死体と、窮地に瀕している俺。
「……そんなの、間違ってるよ……」
絶対的な絶望を前に、オリヴィアはその場に座り込んだ。
力は無く、覇気も無い。
そして、その頬を――涙が伝う。
ふぅ……。
疑問は残る、勝てる気がしない、本当に怖い。
正直言って最悪だ。
でも……。
俺はこいつを許さない……ッ!!
「おいイカレ野郎。歯ァ食いしばれよ……ッ!」
俺の足は無意識に走り出していた。
一歩踏みしめるたびに恐怖が強くなる。
でも、今の俺の怒りはそれ以上だ――
「ハハ、バカベルに何が出来る! 『大地断』!」
上空から土のギロチンが襲い掛かるが、
俺の瞳、『遅緩時間』なら――見える!!
「……っと! はは、遅ぇなカイン!」
俺は一瞬だけ後ろに飛び退きそれをかわした。
「こんな、ものかッ!!」
そして再度、カインの元へと全力で走り出す。
「ふんっ。反射神経だけはいいようだな、バカベル。だが、『石散弾』!」
これは石のつぶてを拡散さる中位魔術。
威力はそこまでないが、攻撃範囲はとても広い!
「くそっ!」
これは――避けられない!
おそらく、眼で見えても身体が追いつかない。
なら――
「『突風』!!」
強力な風を前方へと放つ下位魔術。
……正直、こんなものでカインを倒せるわけない。
しかし、俺はそれを放った。
カインに、ではない。
自分の足元へだ――
「うおおおぉぉぉ!!」
身体が宙に吹き飛ぶ。
それによって石の散弾は俺の下を通り過ぎていく。
「何だと!? クソ、『土……」
カインが詠唱するのも遅く、走っていた俺の身体は前方へと飛ばされ――
「遅えぇ!!」
――――ドゴオォッ!!
上空からカインに殴りかかった。
「うおおぉぉ!!」
「うぐおおぉぉ!!」
そのまま二人して俺達は地面に倒れ込む。
だが上から殴ったからなのか、俺は馬乗りの状態になっており、最高のポジションが取れた。
そして俺は、地面に倒れたカインへと杖を構えた。
「これでとどめだ! 『石……、ガハッ……!」
どうしてだ……。
なんで?
なんで詠唱をやめたんだ?
なんで血を吐いているんだ?
それに腹から突き出たこの茶色いものは?
答えは簡単だ。
俺は背後から土の槍に貫かれていた――
「ッカハ……!」
そうかカインの詠唱は間に合っていたのか。
それもこんなものを……。
そして――ぼすん。
と俺はその場に倒れてしまった。
「バカベルゥ……。よくもやってくれたな」
カインは鼻血を出しながら立ち上がる。
それによって、よろけながらも立つカインと、血を吐いて倒れる俺――立場が完全に入れ替わってしまった。
正直やばいな……。
意識を保つのすらつらい。
「だがもう立てまい。……これで終わりのようだな」
カインが手をこちらに向ける。
これは……本当に終わったな。
……オリヴィア。
どうか逃げてくれ。
――ぽたっ。
カインの鼻血が指先に落ちた。
……ん?
何故だ。
力がみなぎる!
今なら……ッ!!
「死ねい! 『岩落』!!」
巨大な岩石が俺の頭の上に形成されていく。
展開が終われば、俺の命を奪いに確実に落ちてくるだろう。
でも――いける!!
「『絶対真眼』!!」
俺が睨むと、岩が上空で砕け散った――
「なっ! なんだと!?」
カインは驚き、一旦俺から距離をとる。
「な、なんだ!? 何をしたんだ!?」
俺はふらつく足で立ち上がり答えた。
「お前の魔術を『崩壊』させたんだよ」
「そんな!? そんなことが出来るのは200年前の聖杖の勇者しか……」
「だが、俺は出来た」
「くそおぉ!」
カインは悔しさと怒りで、鼻血の流れる顔を歪ませる。
そして、何も考えず魔術を放つ――
「『石散弾』!!」
無駄だ。
その散弾は放たれる前に霧散する。
「『大地断』!!」
意味がない。
空中でバラバラになる。
「『土槍』!!」
不毛すぎる。
形成された槍は土に戻る。
「なんで……なんでなんだよぉ……」
カインは恐怖と不安で今にも泣きそうだ。
「終わったのか? なら――こちらから行かせてもらうぞ」
右手に黒い光が集まってくる。
その光はいずれ束となり、槍の形を作っていく。
何故俺がこんな技を知っているのかはわからない。
でも、今はそんな事どうだっていい。
確かに一つ分かる事がある。
俺はこいつを倒せる。
それは確実だ。
「待ってくれ! 『土壁』!!」
カインは目の前に土の壁を作る、が――無駄だ。
土の壁は俺の眼に睨まれ、消え失せた。
「じゃあなカイン――『神殺槍』!!」
俺は形成した黒い光の槍を投げた――
眼は既に焼き切れそう。
背中には違和感を感じる。
もう俺の身体は長くはもたないだろう。
でもこの紅い瞳にしかと焼き付けた――カインが貫かれ死に行く様を。
「はは……オリヴィア。……俺、勝った……よ……」
しかし、俺の意識はそこで飛んだ――
オリヴィアのおかげで退学の危機はないにせよ、これは俺にとっても久しぶりの戦いだ。
思えば最初の魔術戦に負けてから、ずーっと負けっぱなし。
それで最下位、バカベルとか呼ばれ出すようになったもんな……。
でも、今は違う。
俺には動きをスローモーションで捉えられるこの眼がある!
……とか考えても、やっぱり不安だな。
「アベル、入るわよ」
ドアの向こうから声をかけられた。
誰なのかはドア越しにもわかる。
オリヴィアだ。
「どうぞ」
俺がそう答えると、
ガチャ。
と扉を開き、オリヴィアが入って来た。
「……なに辛気臭い顔してんのよ」
オリヴィアは入ってくるなり、ベンチに座る俺の横に来て、そのまま腰掛けた。
「……ハハハ」
乾いた笑いが出る。
「やっぱり、不安?」
「うん……」
カインにはずっと馬鹿にされきたし、何より自分の力にそれ程の自信を持っていない。
「大丈夫だよ。あの時もすごかったじゃん」
「あれはたまたまで、今日もあんなことが出来るかわからないよ」
「……じゃあ、こうしよ!」
オリヴィアはベンチからおもむろに立ち上がった。
「もし、アベルがカインに勝ったら、一つだけ何でもしてあげる!」
「……なん、でも?」
俺も男だ。
可愛い子にこんな事を言われたら気にはなる。
「え!? いや、その……なんでもっていったけど……あんまりえっちなことは……」
オリヴィアは胸の前で指先をつんつんしてる。
でたなオリヴィア恥ずかしいモード。
ふふふ、果たして先程までの威勢はどこへいったのか?
昨日カレンと色々あったおかげか、今の俺は多少の可愛さじゃ動じないぞ!
……なんて。
でも、少しは元気が出たかもな。
……ありがとう、オリヴィア。
俺は立ち上がり、オリヴィアに目線を合わせる。
「じゃあ、少しえっちなことをお願いするね」
「え、えっと……そ、それは……」
オリヴィアは恥ずかしそうに慌てている。
……やっぱり可愛いな。
こんな子の前では、恥ずかしい姿は見せられない。
なら――
「オリヴィア……俺は勝つ。観客席で楽しみにしておいてくれ」
そろそろ時間だ。
勇気は貰った。
今の俺なら、誰にだって勝てる気がする。
さ、試合に勝った後のご褒美でも楽しみにしとくか。
◇◇◇
俺は試合会場への扉を開いた――
中央の戦闘場。
オリヴィアしかいないの観客席。
名前もわからない審判の先生。
そして――カイン。
「よぉバカベル。逃げずによく来たな」
カインは面倒そうに茶の髪を掻き、それによって右手につけた大量の腕輪が音を出す。
「あぁ、負けても退学にはならないからな」
「……ッ!! お前、気付いたのか……ッ!?」
カインは悔しさに顔を歪ませる。
それもそうだろう。
どうやったかは知らないが、カインは魔族の魔術まで使い、俺を退学に追い込もうとした。
しかし、それが破られたのだ――最下位ごときに。
「くっそ……ッ。バカベルのくせに……ッ!」
おぉこわいこわい。
怒りで、今にも襲ってきそうだ、
今まで馬鹿にしてきたやつが悔しそうな表情をする、こういうのも悪くない。
もっと煽ってやってもいいが、その前に、
「どうしてお前が魔族の魔術を使っていたんだ?」
一つ質問をした。
魔族の魔術を使えるのは通常、魔族だけだ。
今まで魔族の魔術なんて、魔族と共に滅びたものと思っていたが、先生から聞いた魔族復活の話がある。
流石にカイン如きの魔術師が、魔術を得意とする魔族だとは思えないが、魔族と繋がっている可能性はある。
だから聞いてみたのだ。
「……ハハハ」
……どうしたんだ?
急に様子がおかしくなったぞ。
「そこまで分かってんのか……ハハ」
……嫌な予感がしてきたぞ。
「なら……勿論手加減は出来ないなァ!!!」
突如――カインが右手の腕輪を周囲に撒き散らした。
「何をしてるんですか、カイン君!」
審判役の先生がカインを止めようとする。
それと同時に、四方八方から響く腕輪の音。
カインは両方の音を耳に、面倒そうに口を開く。
「あァ? うるせぇなぁ……」
「カイン君、魔術戦はまだ始まっていませんよ!」
「知らねぇよ。……ま、取り合えずお前は終わりだ、『大地断』」
カインが杖も使わずに魔術を唱える――それも上位魔術を。
「『光壁』!!」
反射的にに審判の先生は防御魔術を唱えた、が――
――パリンッ!
と砕かれた。
光の壁は、カインの攻撃にとっては脆い存在だったのだ。
そして突破されれば当然――
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
先生の悲鳴が耳をつんざく。
圧倒的なカインの一撃――それを食らい、先生は死にほとんど近い状態となった。
上空から落とされた土のギロチンによって2つにされたのだ。
「ハハハ、いい気味だなァ!」
「っぐ……あぁ……ぁ……」
先生の血はとめどなく流れ、目は虚ろだ。
……先生はもう……助からない。
「た……たす……けぇ、て……」
「……ッ!!」
俺はあまりの衝撃に言葉が出ない、足が動かない。
それでもこの惨状を紅い瞳に入れているせいか、徐々に絶望がこみ上がって来る。
そこへ――
「アベル! 先生!」
オリヴィアの叫び声が上がる。
更にこの状況で彼女は、心を奮い立たせて席から立ち上がった。
……流石オリヴィアだ。
俺なんて、立っているだけでも精一杯なのに……。
「待って! 今行くから!!」
オリヴィアは観客席から闘技場へと下りようとするが――
――バンッ!
見えない壁に当たった。
「……え?」
「ハハハ! オリヴィア、無駄だぞ! それは俺のスキル『金属結界』だ、人間如きが突破は不可能と思え!」
そう言うなりカインは背中に力を籠める。
するとすぐに、何かがカインの背中から生えてきた――
「黒い……翼……?」
カインの背から生えたのは2枚の黒い翼だ。
黒というよりは漆黒、という表現が近いかもしれない色合いには底知れぬ闇を感じる。
広げられた翼を見ていると、人間のちっぽけさを痛感させられる。
……俺はこの翼を知っている
これは……夢なのか?
……嘘じゃないんだよな。
これが現実だとすると、カインは……
「……魔族か」
「そうだ、バカベル。最下位にしてはよく知ってるな」
カインはにやりと笑った。
しかし、それを止めるかのように、
「カイン! この結界を解いて!」
オリヴィアの叫びと、見えない壁を叩く音が聞こえてくる。
「ハハハ、それは無理な注文だぜオリヴィア」
「なんで……なんでよ! なんで、こんなことをするの!!」
オリヴィアは壁を何度も叩く。
意味がないと知りつつも。
「そりゃーお前を手に入れる為に決まってんだろ、オリヴィア」
「こんな事しても私はなびかないわよ!」
「あぁ、わかってるわかってる。だからこうしてバカベルまで退学させようと、強硬手段に出たんだぞ。わかってくれよなァ」
カインはニヤニヤと笑う。
……心底楽しそうだ。
「じゃあ……先生は……?」
壁を叩く手に力はもう入っていない
「今からバカバルに借り返すんだぜ、邪魔だろ」
人を虫けらかのように扱うカインの態度。
決して破れないカインの結界。
真っ二つにされた死体と、窮地に瀕している俺。
「……そんなの、間違ってるよ……」
絶対的な絶望を前に、オリヴィアはその場に座り込んだ。
力は無く、覇気も無い。
そして、その頬を――涙が伝う。
ふぅ……。
疑問は残る、勝てる気がしない、本当に怖い。
正直言って最悪だ。
でも……。
俺はこいつを許さない……ッ!!
「おいイカレ野郎。歯ァ食いしばれよ……ッ!」
俺の足は無意識に走り出していた。
一歩踏みしめるたびに恐怖が強くなる。
でも、今の俺の怒りはそれ以上だ――
「ハハ、バカベルに何が出来る! 『大地断』!」
上空から土のギロチンが襲い掛かるが、
俺の瞳、『遅緩時間』なら――見える!!
「……っと! はは、遅ぇなカイン!」
俺は一瞬だけ後ろに飛び退きそれをかわした。
「こんな、ものかッ!!」
そして再度、カインの元へと全力で走り出す。
「ふんっ。反射神経だけはいいようだな、バカベル。だが、『石散弾』!」
これは石のつぶてを拡散さる中位魔術。
威力はそこまでないが、攻撃範囲はとても広い!
「くそっ!」
これは――避けられない!
おそらく、眼で見えても身体が追いつかない。
なら――
「『突風』!!」
強力な風を前方へと放つ下位魔術。
……正直、こんなものでカインを倒せるわけない。
しかし、俺はそれを放った。
カインに、ではない。
自分の足元へだ――
「うおおおぉぉぉ!!」
身体が宙に吹き飛ぶ。
それによって石の散弾は俺の下を通り過ぎていく。
「何だと!? クソ、『土……」
カインが詠唱するのも遅く、走っていた俺の身体は前方へと飛ばされ――
「遅えぇ!!」
――――ドゴオォッ!!
上空からカインに殴りかかった。
「うおおぉぉ!!」
「うぐおおぉぉ!!」
そのまま二人して俺達は地面に倒れ込む。
だが上から殴ったからなのか、俺は馬乗りの状態になっており、最高のポジションが取れた。
そして俺は、地面に倒れたカインへと杖を構えた。
「これでとどめだ! 『石……、ガハッ……!」
どうしてだ……。
なんで?
なんで詠唱をやめたんだ?
なんで血を吐いているんだ?
それに腹から突き出たこの茶色いものは?
答えは簡単だ。
俺は背後から土の槍に貫かれていた――
「ッカハ……!」
そうかカインの詠唱は間に合っていたのか。
それもこんなものを……。
そして――ぼすん。
と俺はその場に倒れてしまった。
「バカベルゥ……。よくもやってくれたな」
カインは鼻血を出しながら立ち上がる。
それによって、よろけながらも立つカインと、血を吐いて倒れる俺――立場が完全に入れ替わってしまった。
正直やばいな……。
意識を保つのすらつらい。
「だがもう立てまい。……これで終わりのようだな」
カインが手をこちらに向ける。
これは……本当に終わったな。
……オリヴィア。
どうか逃げてくれ。
――ぽたっ。
カインの鼻血が指先に落ちた。
……ん?
何故だ。
力がみなぎる!
今なら……ッ!!
「死ねい! 『岩落』!!」
巨大な岩石が俺の頭の上に形成されていく。
展開が終われば、俺の命を奪いに確実に落ちてくるだろう。
でも――いける!!
「『絶対真眼』!!」
俺が睨むと、岩が上空で砕け散った――
「なっ! なんだと!?」
カインは驚き、一旦俺から距離をとる。
「な、なんだ!? 何をしたんだ!?」
俺はふらつく足で立ち上がり答えた。
「お前の魔術を『崩壊』させたんだよ」
「そんな!? そんなことが出来るのは200年前の聖杖の勇者しか……」
「だが、俺は出来た」
「くそおぉ!」
カインは悔しさと怒りで、鼻血の流れる顔を歪ませる。
そして、何も考えず魔術を放つ――
「『石散弾』!!」
無駄だ。
その散弾は放たれる前に霧散する。
「『大地断』!!」
意味がない。
空中でバラバラになる。
「『土槍』!!」
不毛すぎる。
形成された槍は土に戻る。
「なんで……なんでなんだよぉ……」
カインは恐怖と不安で今にも泣きそうだ。
「終わったのか? なら――こちらから行かせてもらうぞ」
右手に黒い光が集まってくる。
その光はいずれ束となり、槍の形を作っていく。
何故俺がこんな技を知っているのかはわからない。
でも、今はそんな事どうだっていい。
確かに一つ分かる事がある。
俺はこいつを倒せる。
それは確実だ。
「待ってくれ! 『土壁』!!」
カインは目の前に土の壁を作る、が――無駄だ。
土の壁は俺の眼に睨まれ、消え失せた。
「じゃあなカイン――『神殺槍』!!」
俺は形成した黒い光の槍を投げた――
眼は既に焼き切れそう。
背中には違和感を感じる。
もう俺の身体は長くはもたないだろう。
でもこの紅い瞳にしかと焼き付けた――カインが貫かれ死に行く様を。
「はは……オリヴィア。……俺、勝った……よ……」
しかし、俺の意識はそこで飛んだ――
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〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!