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8章

417.ディアナ

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「じゃあまずはお前だ…」

そう言うとサラを指さした。

「はい、風魔法ですね」

サラは風魔法で温風を出して髪の毛を乾かすように手を動かす。

その仕草にウェンドが眉をひそめる。

「なんだ…それは?」

「これですか?私の一番得意な魔法のドライヤーって言います」

「ドライヤー?」

ウェンドがジロジロとサラの手元を見ると

「自分に攻撃をしているのか?」

「いえ、これは髪を乾かすだけの魔法です。先生もどうですか?」

サラはウェンドの髪に風を送る。

「な、なんだ…この生暖かい風は…」

「このくらいの温度がちょうどいいんです!結構難しいんですよこの温度を出すの」

「なるほど…こうか?」

ウェンドがサラに向かって同じようにやってみる。

「あっさすが先生ですね!一回で出来るなんて、私なんてこの温度になるまで一週間かかりました…」

「だが…この魔法がなんの役に?」

ウェンドが顔を顰める。

「何言ってるんですか!この魔法のおかげで髪が早く乾いてサラサラになるんですよ!そのおかげで朝起きても寝癖もつかないし!」

サラがウェンドに詰め寄ると近くではライラとイチカが同意するようにうんうんと頷いている。

「そ、そうか…」

ウェンドはたじろぎ助けを求めるようにリュカ達を見ると、男子は無言で諦めろと言わんばかりに首を振った…。

「しかし…攻撃には使えんだろ…」

辛うじて反撃をすると…

「温度の調節をしてたおかげか高温の風も出せるようになりました、ただ威力はあまりないので撃退ぐらいにしか使えませんが…」

サラが残念そうに答えると

「ほう…どのくらいの温度なんだ?」

「うーん…火傷するくらいですね」

「はっ?風で熱風を出すと言うことか?」

「はい、もう少し範囲が広がるようになれればなぁって考えているのですが…」

「な、なるほど…ならお前は魔力操作は上手いようだな。だが魔力の量が足りないと…ならしばらくは魔力を極限まで使い切って休むを繰り返して魔力を増やすように…」

「わかりました!」

サラは笑顔で頷いた。

「お前は?」

今度はライラを見ると

「私も風魔法をお見せすればいいですか?」

「他にも出来るのか?」

「私は水魔法が得意です。でも先程のサラと同じドライヤーもできます」

「では水魔法を…」

ライラは手の平を出すとその上にふわふわと浮く水の玉を作り出す。

「意外と普通だったな…分かった」

ウェンドが少しホッとする、そんな顔を見てライラは笑うと

「ちょっと触って見てください」

水の玉を差し出した。
嫌な予感にウェンドは恐る恐る水の玉を触ると

「温かい…」

「ええ、これでどこ出ても髪を洗えるしお風呂にも入れます!」

「なんでこんな変な魔法ばかり…誰だこんな事を教えたのは…」

ウェンドがため息をつくと

「私達の恩人の方に習いました!」

ライラが嬉しそうに答えると

「その方がご自分の髪や私達の髪を乾かす時に使っていた魔法なんです!他にも素晴らしい魔法を沢山知ってるんです…」

ライラが目を輝かせて答える。

「そう!私達の何倍も繊細に温度を変えられるし威力も理想そのものなんです!」

「お前らに魔法を教えたのがいるんだな…どんなやつなんだか…」

「素晴らしい方ですわ!そのお姿は可愛らしく美しく夜空に輝く月の様に神々しく…話す言葉は私達の心に深く届きあの笑顔を見れば疲れなど無くなります!」

イチカが話に割り込んできた…。

「そ、そんなに美しい人なのか?もしかしてそれってこの学校を作ったってディアナって人か?」

ウェンドが聞くと

「そうですよ」

後ろからマルコさんが口を挟んだ…

ミヅキはマルコさんをチラッと見るとニコリと笑って頷く。

「ええ!ディアナ様は本当に素晴らしい方なんです…私達をお救い下さり一人でここまで生活出来るように導いて下さったまさに女神様のような方です」

イチカが頷きながら説明すると…

「お前全員そのディアナさんって人に助けられたのか?」

リュカ達全員が揃って頷く。

「そんな人徳者で魔法も使えるのか…やはり是非ともあって見たいものだ…」

ウェンドが呟くと

「駄目駄目!ディアナ様は滅多に人前に出ないからね!」

リュカが言うと

「しかし…ここの教師になれればお目通りぐらい出来るだろう…」

「まさかおっさんディアナ様に会いたくて教師になろうと思ったのか?不純だな!」

リクがニヤニヤ笑うと

「違う!俺はその人の魔法が素晴らしいと聞いて…一度でいいからその魔法を見てみたいと…」

「えっ…ウェンドさんあった事あるの?」

ミヅキが思わず聞くと

「前に王都で化け物達が住居を破壊する騒ぎがあっただろ?」

「うーん…どれかな?プルシアの時?ベイカーさんとシルバが暴れた時?」

ミヅキ達がコソコソ確認していると…

「住居の屋根が破壊されて人が生き埋めになった事があったんだ…もう助からな様な状態の人をその方は光の魔法で助け出したんだ…」

ウェンドが説明するが…

(ん?それって…デボットさん助けた時かな?)

ミヅキが首を傾げて聞いているが…どうもウェンドの説明と自分の行動が一致しない。

「ウェンドさんそれって本当に見たの?」

ミヅキが確認すると

「いや…俺はその時は何も出来ずに呆然としていたんだ…そんな時に気がつけば目もくらむような温かい光の魔法が広がっていた…覚えてるのはそのくらいだ…気がつくと誰もいなくなっていて…しかしあの時の光だけは忘れる事が出来ない」

「ふ、ふーん…」

ヒヤッとしながら聞いていると

「きっとディアナ様ですね!そんな事が出来るのわ」

イチカが当たり前だと誇らしそうにしていると

「そんな人が今度子供の為に学校を作ったと噂で聞いたんだ…だからその人の助けになればと志願したんだ」

「そしてあわよくば会えるかと…って所か?」

リク達が笑って言うと

「ま、まぁな…いや違うぞ!あの時の魔法を見せて欲しいだけだからな」

「ウェンド先生の夢は半分…叶ったかもな…」

テオがリュカにボソッと呟くと…

「だけどもう半分は一生叶わないかも知れないけどな…」

リュカ達は少し憐れむ様にウェンド先生を見つめた。

その後もウェンドは子供達の魔力の使い方を確認している、ミヅキはその間に…

「マルコさん、ディアナ様ってなんですか!?」

ミヅキがコソコソとマルコさんに話しかけると

「ここを作った方の名前ですよ」

マルコがにっこりと笑って言う。

「それって…私?」

ミヅキが自分を指さすと…

「ええ…ミヅキさんの名前を出すわけにもいかないし私が代表者になるなんておこがましいですし…子供達も堂々とミヅキさんの事を話したいと相談を受けて、いっそもう一人の人物を作ってしまおうと…」

「それがディアナ…」

「はい、ミヅキさんのもう一つの顔としてお使い下さい。結構便利だと思いますよ」

マルコさんが笑うと

「そうかもしれませんが…なんか騙してるみたいで…」

「いえ、名前が違うだけで紛れも無く嘘はないですよ」

「まぁ…そうですね…しかしディアナって誰が付けたんですか?」

「イチカさんですね」

だよねー

「月の女神にちなんで付けたそうです。ミヅキさんにピッタリですね」

ミヅキは苦笑するしかなかった…

ウェンド先生がみんなの魔法を確認し終わると…

「じゃあ最後はお前だな、そんなにチビだが…魔法出来るのか?」

ミヅキを見ながら聞く。

「当たり前です!」

ウェンドの様子にイチカが噛みついた。

「イ、イチカ姉!せ、先生…ミヅキは私達の妹の中でも一番魔法のセンスがあるんです!だからイチカ姉が猫可愛がりしてまして…」

ニカがイチカを抑えながら説明すると

「そんなに小さいのに凄いな…何かやってみろ」

ウェンドが促すと、リュカ達が心配そうにミヅキを見つめる。

(そんな顔しなくても加減するよ…)

ミヅキは苦笑しながら弱々しい風をウェンドに送る。

「なるほど…まぁ言うほどセンスがあるようには思えんが…」

ウェンドがこんなものかとガックリとしていると…

イチカがギロっとウェンドを睨む…

「な、なんだ?」

あまりの迫力にウェンドが後ろに下がる。

「なんでもございません…さぁ早く授業を始めて下さい…」

「あ、ああ…しかし始めるって言ってもお前らは教える事なさそうだぞ…」

そう言ってテオとライラとイチカを見る。

「他のヤツらはもう少し魔力操作や他の魔法の使い方とか教えられるが…」

チラッとマルコさんを見ると

「あっ!すみませんその子たちは特別なので…入学する子達はの子供達なので基本から教えてあげて下さい」

マルコさんの言葉にウェンドはホッと胸を撫で下ろした。




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