僕の従魔は恐ろしく強いようです。

緋沙下

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プロローグ

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「ふぁああぁぁ~…今日も良い天気だね」


寝ぼけまなこで家の扉を開けると青い空。白い雲。透き通った空気。爽やかな風。何もかもが気持ちいい。


今まで自由に体を動かせる事もなかったし、起きて自分の足で歩いて扉を開ける。なんて素敵な事なんだろう。普通の人が普通に出来る事が僕にとってはとても幸せで新鮮な事だらけ。


「ピィッ!」


外に出て来た僕に気づいて畑仕事をしていた子が手を止め近づいてくる。


あぁ…なんて可愛いんだ。
フワッフワの羽。小さな鳥足。可愛い顔。生き物にこんなに気軽に触れる僕。あぁ…幸せすぎる。








一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
真っ白な室内。
完全な無菌病室。機械音が鳴る音が耳につく。その音に混ざり泣く声が聞こえる。


「…ハヤ…君。今日は…天気…だよ。もう…桜も咲く…ね。咲い…見に行こ…ね」


いつも僕を一生懸命見ていてくれたお医者さんに看護師さん達の声がする。


「本当…とて…晴れて…。ママとパ…と、元気……って、おでかけ…うね」


すすり泣く大好きな母親の声。


もう僕の目は見えない。耳だけがかろうじて聞こえるけどその声もひどく遠くに感じる。


泣んで泣いてるの。泣かないで…泣かないで…と思いながら、とてつもない眠気のような感覚に襲われそこで今の僕の意識は無くなった。
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一














次に目が覚めた場所も白い部屋だった。
ただ、違うのは息苦しくなくてベッドの上じゃないこと。


「意識が戻られましたね!ご気分はどうですか?」


僕の年よりも少し上ぐらいの女の子。白いワンピースを着たその子が話しかけてくる。


「看護師さん?」


僕には本以外での知識がほとんどない。だからここが病院だと言われれば、そうなんだと思うぐらいの感覚でしかない。僕の質問に対しその子はニコッと笑う。


「ここはあなたがいた世界と別の世界の狭間みたいなところだと思ってください。私は案内役。あなたのように純粋無垢な魂を探していました。あなたは人生をやり直す気持ちはありますか?」


そう笑顔で話しかけられたが言葉がうまく出てこない。ここ何年もうまく話せなかったし会うといえば家族か病院関係者。


同年代に近い子と話すことに慣れてない。問いかけに答えないことに僕に僕がひどく怯えているんだと彼女は捕らえたようで

「あやしいものじゃないので大丈夫ですよ!ぁ…でも、逆にあやしいものじゃない方があやしいですかね?でもでも、本当にあやしくないんですっ!」


その後も一生懸命僕に話しかけてくれた彼女。今まで家族以外の人が僕にこんなふうに話しかけてくれることなんてなった。それが嬉しく自然と笑顔になっていた。


「ぼく…声が……うまく…喋れ…ないから。」


「大丈夫です!大きく息を吸う感覚で息を吸って、話してみてください!声が出るはずですよ」





ハァ~…フゥ~…ハァ~と何度か息を繰り返しながら案内役という女の子としゃべる練習をする。最初はつっかえる時もあったが段々と話すことに慣れてきた。一息落ち着いたところで彼女がゆっくりと話をしてくれた。


「ようこそ狭間の世界へ。ここは命を失い選ばれた人が来る場所です。老若男女たくさんの人が今まで訪れました。次の輪廻に行く人、今の世界で子孫の繁栄をみたいと守護霊を選択される人もいます。また極稀の選択ですがあなたには別の世界への選択肢もあります。」


——あなたはどの選択肢を選ばれますか?——





彼女がいうには僕は死んでしまったらしい。この世界で亡くなる人はたくさんいる。その中でも魂が綺麗な人は次の人生の選択肢を選ぶことが出来るそうだ。


その中でも創造主と呼ばれる神様が選んだ魂は、別の世界へ行く選択肢も選べるらしく僕はその創造主に選ばれたそう。

「僕のお母さん達は…大丈夫なのかな。守護霊になれば、、側にいれるの?」


「守護霊になって見守る選択肢もありますが、あなたの魂では見守るだけの知識がないのであまりお勧めはしません…」

「そっか…悲しませるだけ悲しませて、役にも立たないんだね…」




悲しい顔をした僕の言葉に彼女が詰まってしまった。どうしよう…。でも、僕にとってお母さん達がとても心配だ。


お互いしばらくの沈黙が続くと上からヒラヒラと光る紙が彼女のもとに降りて来る。彼女はそれを見て少し考えると僕に笑顔を向けた。


「異例中の異例なんですが!創造主様が別の世界への道をあなたが選んでくれた場合、あなたの親思いの気持ちを受け継ぐ元気な子供を予定よりも早くご両親へ授けてくださるそうです」


「へ…?僕の弟か妹ができるってこと?」

「そうなりますね。どうされますか?」


どうされますかって言われてももう僕は側にいれない。それならば弟か妹を授けてくれる事を選ぶしかできない。それで少しでもお母さん達が元気になってくれる可能性にかけて!


「わかりました。それでお願いします。お母さん達をよろしくお願いします!」


「…ッ!本当に、なんて汚れのない綺麗な魂なの…。ダメ、年のせいか涙腺が脆いのよ」


「年のせいって、、。僕とそんなに離れてないんじゃ…」


「私は人間ではないのでどんな姿にもなれるんですよ。今はあなたが話しやすい姿形をとっているだけですから」


そういって指を鳴らすと昔の○リー・アントワネットのような姿やお侍、羽が生えた天使にと様々な姿を見せてくれた。僕にとって初めて見るもの触れるもの。そして家族や病院の人と以外の会話に時間を忘れ楽しんだ。


「もっとお話をしていたいのですがあなたの魂をこれ以上ここに置いておくことはできません。そろそろお別れです。でも、またいつかお会いしましょう!」


「ありがとう。また会える日を楽しみにして頑張ります‼︎」


「ふふ。こちらこそありがとうございます。別の世界を選んでくれたあなたにいくつかのギフトを差し上げます。中身はついてからのお楽しみです。あなたから何か望むものはありますか?」


少し考えて1番は元気な体が欲しい。病院のベッドの上から外を眺めることにはもう飽きた。お母さんがお庭でミニトマトができたのよ。一緒につもうねと言われ僕もしてみたいと思って叶えられなかった。

お父さんが釣りに行こうなと言われて海への憧れがあっても見ることができなかった。やりたいことが本当にたくさんあったんだ。


「それなら僕は元気な体が欲しいです。あと、今まで外に出られなかったのでいろんな人や生き物に触れ合いたい。それで何かを自分の手で育てて作ったりしてみたいです」


「わかりました。その願いはきっと創造主様に届くと思います。あなたの二度目の人生が良い旅になりますように」


彼女がそういって手をかかげるとまた眠気が襲ってきた。でも嫌な眠気ではなく温かい穏やかな気持ちになるものだった。 まどろむ意識の中でおじいさんのような声が優しく聞こえた。









……授ける魂の卵の傷を見分けられず元気な体を授けてやれんで悪かったね。お前を助けてくれる友達を側に置いておくからの。次の人生を楽しんでくれることを願っているよ……



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