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22話 花束

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花屋によってから、色とりどりのガーベラを花束にしてもらいリボンで結んでもらった。
ルピが嬉しそうにその花束を、優しく両羽で抱えて歩いていた。その姿がまさに天使で、写真があるなら撮って部屋中に飾りたい気持ちが込み上げてくる。

でも、なんかそれって軽く気持ち悪い男になっちゃうよね…。心のアルバムに留めておこう。
今日は鐘が鳴る前にパン屋ドリーの扉を開けることができた。まだパンを買い求めるお客さんもおり、賑やかな店内だった。

僕たちに気づいたマーヤさんが、厨房に置いてあるパンは食べて良いからねと言ってくれた。小腹が空いていたので嬉しい。

「マーヤ、この子達があんたが面倒見てる子かい?」

「そうさね。可愛い子達だろ?」

「男の子に可愛いは失礼だろ」

マーヤさんより少し年上のほっそりした女性が僕たちに気づき、可愛いと言われた僕を見て笑顔を向けてくれる。

「預かるって聞いた時は心配したけど、マーヤが楽しそうでね。マーヤはお節介おばちゃんだけど許してあげてね」

「そんなことないです!僕達こそお世話になりっぱなしで、いつも感謝ばかりです!」

「ピィ♪」

「おゃ…礼儀正しい良い子達だね。あぁ。良いものがあるさ。これをあげよう」


女性は布の袋から、小さな飴がたくさん入った瓶をくれる。ルピが受け取ろうとするが、花束があり手が離せない。しかし花束も手放したくない瓶も欲しいと困った顔で僕にうったえてくる。
その姿が可愛くて意地悪したくなるけど、やめておこう。後がなんとなく怖い…。

「花束は持っていてあげるから、瓶受け取っておいで」

『後で花束返してね。ルピがあげたいの』

「大丈夫だよ」

可愛さに笑いを堪えるのに必死な僕。ルピは瓶が受け取れて嬉しかったのか、女性にありがとう!と可愛い笑顔と声で鳴いてお礼を言っていた。

顔を真っ赤にし照れている女性は、いつでも良いのよ!いつでもあげるんだからね!ここにルピファンが1人出来上がりました。
マーヤさんに旦那が待ってるんだろ?早く帰ってあげなと言われ、ルピに見とれていた女性は名残惜しいけどまた来るからねと帰っていった。

ルピに会いに来るのは良いけど、パンを買いに来るついでぐらいにしてほしい。ルピ会いたさだけに来たら、ちょっと困る…。マーヤさんにも申し訳ないし。

その後もパン屋が閉店するまでは厨房で待っていて、食べても良いと言われた菓子パンや惣菜パンを頬張りながら待っていた。
部屋に行こうとしたけどルピがお花あげるから待ってると言うため、厨房から動けないでいた。

「お待たせ。これで今日は終わりさね。2人とも待たせて悪かったね」

「何かお手伝いできることはありますか?」

「特にないさね。パンを入れるカゴを重ねるぐらいだから、もう終わるさ」

ルピがマーヤさんの言葉を聞くと、すぐに売り場の方へ向かう。

「ピィールル~」

ルピが風でカゴを器用に集めると、置く場所がわかっているのか棚に籠が重なっていく。しかも、カゴの中のパンくずも綺麗に集めゴミ箱に捨てる出来る子ちゃんだった。

「いつも助かるよ。ありがとね。ルピ」

「ピィ♪」

マーヤさんの言葉に嬉しそうにしていたルピが、思い出したのかトテトテと厨房に戻って来ると台の上に置いてある花束を持って、マーヤさんのところへ行く。

「ピィ!『いつもありがとう!』」

「え…。花?これ、あたしに…くれるのかい?」

「ルピが美味しいご飯に可愛いお洋服を作ってくれるお礼がしたいって言ってくれて。僕ももちろんその1人です!いつもありがとうございます」

花束を受け取ったマーヤさんはしばらく呆然としており、おーい!母ちゃん飯の準備はどうするんだ?というドラスさんの声で、あ…とゆっくり花束にあった目線を僕達に向けてくれる。

「なんだい…あたしのために、お金なんか使って…気持ちだけでじゅうぶんさね…」

マーヤさんは、僕とルピの頭を撫でてから両腕で僕達を抱きしめると、静かに泣いていた。その間僕達は黙っていた。

「母ちゃん、メシはどうするんだ?」

扉を開けてドラスさんがメシは?と再度聞いてくる。じつは亭主関白なドラスさん…なわけはないな。

「アンタ…2人が、2人があたしのためにって、わざわざ…お花を買ってくれたさね。キレイだろう?」

「花か…。あぁ…。母ちゃん良かったな。本当にキレイだ。キレイに飾ってやらんといかんな」

「もちろんだよ…」

マーヤさんが花瓶を探しに物置へ行ってくると奥に行ってしまったため、ドラスさんと僕とルピの3人が厨房に取り残されてしまった。

「台所に行こうか」

「はい」

「ピィ!」




ドラスさんはお茶を僕とルピのぶんも出してくれ、疲れたろう座りなさいと声をかけてくれる。

「ハヤト、ルピ、今日は本当にありがとう」

ドラスさんが深々と頭を下げてくるのでびっくりする。


「あげてください!どうしたんですか??」

「少し話せば長くなるんだがな…。俺と母ちゃんの間には子供がいない。正確には昔1人授かったんだが流行り病で歩き始めた頃に亡くなってしまった...。その後は恵まれなくてな。俺は子供のことは諦めた方が良いのかもしれないと思い始めていた。静かに月日が流れて、あの日もいつものように母ちゃんが街の外に買い出しに行った時だった」

いきなりの話に、どう返事を返して良いのかわからず、静かに話を聞く

「その時に母ちゃんが街の外で魔物に襲われたんだ。ただ、いつもと違ったのはお腹の中に子供がいたらしいんだ。あの時子供がいるとわかっていれば…ッ!しかし襲われたことで子供は流れ、母ちゃんの身体も傷つき、2度と子供が作れない身体になってしまった…。俺はその日門番で買い出しについて行けなくて、運ばれた母ちゃんを見た時には息が止まるかと思った...」

長い沈黙が続き重い空気が流れる。

「暗い話をして悪かったね。昔から、この辺りでは子供が親に花を贈る習慣があってな。母ちゃんは特に何もいうことはなかったが、欲しい気持ちはあったろう。俺が買って帰っても良いんだが…なんかな」

「買い出しにいかなきゃダメなんですか?街で手に入る小麦なら、魔物に襲われる心配もないんじゃないですか?」

「その通りなんだがな。街で買えば運び賃や税で小麦の値段が上がってしまうから、そのぶんパンを高く売らなきゃいけない。この街には孤児もいれば獣人もいる。みんながみんなお金があるわけじゃないのさ」

「その人達のために買い出ししてまで安くしてるんですか?」

「それもあるが、母ちゃんが使う小麦は街外れの小さな村で作っててな。街にはおろしてないんだよ。せっかく作るなら母ちゃんが気に入ってる小麦を使わせてやりたくてね」

「そうだったんですか…。でも、僕達は花を買ってきて良かったんでしょうか…?」

軽い気持ちが2人を傷つけたのかもしれないと後悔する。

「当たり前じゃないか。俺じゃ出来ないことを2人はやってくれたんだ。感謝しかない。本当に、何度も何度も助けてくれてありがとう」

ドラスさんを見ると、涙で目が潤んでいた。泣かないようにしようとしてる姿が、僕にはとても切なく見えた…。

その後マーヤさんが花瓶を持ってきて台所に花を綺麗に生けてくれた。

ドラスさんは先ほどとは打って変わって、食事を取りながらマーヤさんに良かったな良かったなと嬉しそうに話しかけている姿が、無理をしているように見えて心配になる。

もしかしたら僕たちがここにいると2人に喜んでもらえる反面、辛い過去を思い出させてしまう存在にもなるのかもしれない…。
いろんな考えが頭を巡り、体は疲れているのに寝付く事がうまくできず朝を迎えた。
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