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28.祝賀会2(エミール視点)

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「エミール、ちょっと良いか…?ちょっと話したい事があるんだけれども…。」

ジョセフがおずおずと私に話しかける。


「ジョセフ様…。何でしょうか。私は正直ジョセフ様と話すことは何も無いと思っております。」


私が真っ直ぐジョセフを見てそう言うと、ジョセフがショックを受けた顔をする。


正直に言うと、私も幼馴染であり弟のような存在であったジョセフの事を傷つけたい訳では無いし、嫌いになった訳では無い。


しかし、一度失った信頼はもう戻らない。
もう2度と婚約を結ぶ事が無いのならば、
優しくするのはジョセフの為にならないと思うのだ。



「ここでは…なんだ。人目が気になるからちょっと2人きりになれないだろうか。」

周り…というよりもミレイユ様、クロード様、そしてリュカ様をチラチラと見ながらジョセフが言う。


「私は…。婚約解消したジョセフ様と2人きりになるつもりはありません。ジョセフ様の今後にも良くないと思います。」


貴族界では噂がすぐに知れ渡る。
正式に婚約解消が決まってからすぐに皆が知ることになった。


婚約解消した2人が共にいる所を人に見られてしまっては、またすぐに噂が流れてしまう。

今後新たに婚約をする時にこのような噂があればお互いに良くない。



「エミール…。分かった。それならばここでも良いから聞いてくれ。その…私が悪かった。」


昔から、悪い事をしても中々素直に謝る事が出来なかったジョセフが私に頭を下げている…。

「もう…良いですよ。終わった事です。」

本心だ。ジョセフに対してもう負の気持ちは持っていない。


「あ、ありがとう!エミール!!優しいエミールならきっとそう言ってくれてると信じていた……!!あぁ良かった許してくれて。これで婚約破棄は無かった事にしてるよな……!?」


「……は?」


あまりにも斜め上からの言葉に思わず淑女らしく無い返答をしてしまった…。


「エミールは許してくれたんだろ?なら婚約解消しなくて良いではないか!」


(あ、やはり人は簡単には変わらないのね…。)


一度婚約解消されたのに、無かったことにしてくれ?そのような事簡単に出来るわけが無い。


「あの…。リリアン様の方が良いと言って婚約破棄すると言ったのはジョセフ様で、婚約は正式に解消されています。それを今更無かった事になんてできませんわ…。」


「リリアンとの事は誤解なんだ!!本当にリリアンの事は何も思っていなかった!いやむしろ迷惑していたくらいなんだ!」


「今更そんな事はどうでも良いのです。話はそれだけでしょうか…。」


先程も言ったが終わった事なのだ。


「いや、聞いてくれ!私がリリアンの方が良いとか言ったり親しく見せていたりした理由は……その…。私がリリアンと仲良くしたらエミールがヤキモチを妬いてくれるかなと思って……。」


「はぁ???」


いけない…!ジョセフの発言が衝撃的すぎて、また淑女らしく無い返答をしてしまった……。


「エミールの気持ちが分からなくて不安だったんだ…!幼い頃から私ばかりエミールの事を想っていて…。私がリリアンと一緒にいる事をエミールが心配してくれた時とても嬉しかったんだ…!ヤキモチを妬いてくれていると思ったら嬉しくてつい…。」


ジョセフと出会って15年。婚約して8年。
少し幼い面はあり思う所もあったが、それなりに仲良く過ごしてきた。


それが、このようなしょうもない理由で婚約は無くなった…。

何だか身体の力が抜けてしまう。


「私は…。私なりにジョセフ様の事を大切に想っていましたわ。ジョセフ様は危なっかしい所もあって、貴方には私がいなければならないのだなと勝手に思っておりました。」


「じゃあ…!!」

ジョセフの顔が嬉々とする。


「しかし、違ったようです。ジョセフ様は私のそのような気持ちを踏み躙られました。」


「違う!エミールの気持ちを踏み躙るつもりは無かったんだ!!」


私はちらっとリュカ様を見る。

リュカ様は私の目線に気付き、ほんの少し驚いた様子を見せたがすぐに微笑んでくれた。

少し心が落ち着いた。

「ジョセフ様は、図書館で私がリュカ様と共にいる姿を見てどう思われましたか?」


「あぁ、あの時は怒りで頭に血が上った!許せなかった!!」


「その上私がリュカ様の方が良い。婚約破棄して欲しいと言ったら……?」


「そ、それは……。」


「それがジョセフ様の気を引く為の冗談でしたと言えば……?」


ジョセフは気まずそうに俯き下唇を噛んでいる。


「…許せますか…?」


「…許せない……。」


蚊の鳴くような声で答えるジョセフ。



「今まで…ありがとうございました。ジョセフ様…。お互い、別々の道で幸せになりましょう。」


そう言って頭を下げ、その場を離れる。


後ろからジョセフの啜り泣く声が聞こえたような気がしたが、振り返らなかった。





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